ある弟王子の物語
山もなければ谷もない。ひょっとしたらオチさえない。
そんな意味もないだらだらとしたお話。
昔々、サルージ王国という国がありました。
その国には二人の王子がいました。兄王子は武勇に長けていて、竜を退「はぁー。」
ちょっとそこの方、冒頭のナレーションをさえぎらないでください。それも重いため息で。
「ほっといてくれ。」
ため息をついてナレーションを妨害したのはこの国の第二王子です。
さて、この王子の兄、第一王子は武勇に長けていて「おい」
…なんです。ご要望どおり放っておいてあげたんですから邪魔しないでください。
「言葉通りに放っておくやつがいるか。そこは『何かあったんですか?』と聞くべき場所だろう。」
なら『ほっといてくれ』なんていわないでくださいよ。めんどくさい。
「貴様は美青年がため息をついているのを見てもなんとも思わないのか!」
ハイ。私の仕事は物語の進行なので細かいことには興味ありません。
さて、この国の「はぁー。」
……………第一王子はぶゆ「はぁー。」うに……
わかりました。わかりましたからあからさまにこっち見ながらため息つくのやめてください。
何かあったんですか?
「別になにも…ただ……はぁ。」
そうですか。何もないなら結構です。
ところで、この国の隣には呪いにかけられた「おい!」
なんですか。
「なぜあっさり引き下がるんだ。もっと食い下がれ!」
イヤです。面倒なことには関わりたくありません。私は早く仕事を終えたいんです。
何か聞いてほしいならさくっと話してください。
「………わかった。」
そんな風に口尖らせてもかわいくないですよ。
そういうのが似合うのは子どもだけです。二十半ば過ぎてる男性がやってもかわいくありません。むしろ気持ち悪いです。
「………………………………。」
………すいません、言い過ぎました。言い過ぎましたから無言で泣きながら隅っこに行かないでください。後々厄介ごとになりそうなんで。
「な゛らどっどとぎげ。」
聞きます聞きます。
…できれば顔についている涙やら鼻水やらを拭いていただけるとありがたいのですが。
あ、どうもありがとうございます。
それで、何かあったんですか?
「兄上が、結婚するんだ。」
よかったじゃないですか。…あ、もしかして自分に恋人がいないことを気にしてるんですか?
「そこは問題ない。じきに恋人は出来る。」
…そうですか。ずいぶんと自分に自信がおありのようですね。
「問題は、ここが童話の世界だということだ。」
…………。
登場人物のくせによくご存知で。
「童話だということは、だ。
そこそこ顔の整った女性がこの見目麗しい主人公に一目ぼれをして、なんやかんやで結婚する
ということだ。」
……………まぁ、大筋は間違ってませんね。大筋は。
本当に大筋だけですが。
「つまり、兄上の婚約者が私に一目ぼれをして結婚という運びになってしまうのだ…。」
はぁ?
「兄上から婚約者を奪うなんて…。」
……えっと。とりあえず病院にいってみてはいかがでしょうか?
「ま、まさか! おなかに赤ちゃんができてしまうと言うのか?!」
イエ。そっちではなく……頭のほうの…………。
「なんということだ…。兄を裏切るなど」
だめだコイツ、話聞いてない。
「どうすればいいんだ…。」
すっかり自分の世界に入ってしまった弟王子は頭を抱えてぶつぶつとつぶやいています。
もう話は聞かなくてもよさそうなので話を進めましょう。
さて、この国の東の国にはなんともありがちなことに呪いにかけられた姫がいるとの噂がありました。
その姫の呪いを解くには北にあるドラゴンの心臓が必要です。
……グロテスクですね~。そんなもので呪い解かれてうれしいんですかね?
あー…私的見解はさておき、この国の第一王子はドラゴンを倒し、その他数々のダンジョンを攻略します。
この辺はさっきの弟王子との会話で尺使っちゃったんで省略しましょう。
とにかく、その英雄譚を使えばRPGゲームが一個作れてしまうぐらいの大冒険を経て、ついに兄王子は姫の呪いを解きました。
そして、童話にありがちな結末として兄王子と呪いにかけられた姫は結婚することとなったのです。
時は流れ、結婚式に向けて城は大わらわで……あ、なんかうるさいのが来た。
ダダダダダダ
バタン!
「聞いてくれ!」
足音荒く弟王子が「おい、ナレーションなんかしてないで聞け!」
あの、ナレーションなんかって言われましても……これ一応私の仕事なんですけど。
「兄上の婚約者が私になびかないんだ!」
私の話をまるっと無視した上にいきなり最低な話を始めましたね。
「なぜだ? 予定ではそろそろ婚約者殿が私に猛烈なアプローチをかけに来るはずなのに!」
予定ってなんです、予定って。言っときますけど婚約者殿はあなたの兄上の婚約者ですからね。あなたのじゃないですよ。
「最初は恥ずかしがっているのかと思って私から声をかけにいったんだ。あと贈り物持って行ったり…」
下心は置いといて、それなりに常識的な行動をなさってたんですね。安心しました。
「昼に下町に一緒に行こうと誘ったり、夜の逢瀬を約束する手紙を出したり、夜寝室に行ったり。」
前言撤回します。
なにやってんですかアンタ! お兄さんの婚約者ですよ? ついこの間まで『兄上の婚約者を奪うなんて弟として最低だ』的なこと言ってたじゃないですか! なに積極的に落としに行ってんですか!
つーか最後の明らかに夜這いですよね?! まさか成功したとか言わないですよね?! ね?!
「別にそこまで言ってない。後で兄上が面倒くさいことになりそうだなぐらいに思ってただけだ。
それと…残念ながら姫は夜早く寝る性格だったらしい。戸締りが厳重で侵入れなかった。」
姫グッジョブ! そしてアンタマジで最低だ!
「しかしなぜなんだ? 童話の主人公である私に姫は一目ぼれするはずなのに…」
…………………。
あのー…勘違いなさってるようですけど、この童話の主人公はあなたじゃないですよ?
「は? ……私でないならば誰だと言うんだ。」
あなたのお兄様です。
「……………………。嘘だ!」
こんなくだらない嘘ついてどうするんですか。
だって考えても見てください? あなたのお兄さんのこれまでの行動。
「姫の呪いを解きに行ったりドラゴン退治しに行ったり……。」
ね? まさしく童話に出てくる王子様そのものじゃないですか。
だいたい、兄が苦労して呪いを解いた姫をなにもせず城で待っていた弟に盗られるって…そんな童話子供に聞かせたくないんですけど!
「……ふむ。一理ある。」
納得していただけたようで何よりです。
「なら私の運命の相手はどこにいるというんだ?!」
知りませんよそんなの。がんばって探してください。
「ドラゴン退治とかはしたくない。危険なのはイヤだ。」
わがまますぎません?
というか別に冒険しに行けなんて言ってませんよ。もっと手近なところで満足すればいいじゃないですか。
それに、そう何人も呪いにかけられた姫はいないと思います。
「それもそうだな…。で、手近なところとは? できればあまり遠出せず危険もないところにいる姫がいいのだが。」
…………は?
「だから、私の運命の相手はどこにいる?」
知りませんってさっき言ったでしょ。運命の相手は自分で探すもんです。
恋愛小説の主人公さんとかに一度謝ってください。あの方々はもう本当に血反吐吐くような思いで相手と結ばれてるんですから。
楽してお手軽に運命の相手見つけようだなんて怒られますよ。
「お手軽にとは言っていない。この見目麗しい私にはその辺のありふれた恋物語は似つかわしくない。
はっ! そうか! 私は童話ではなく、恋愛小説の主人公だったのだな!
これから私はドラマティックで燃えるような恋に落ちるんだな!」
……………ソウカモシレナイデスネ。
もうそれでいいので早く相手見つけに行ったらどうです? 私に仕事をさせてください。
「ではやはり、兄の婚約者との禁断の恋が…」
待て! 待ってください! なぜそこに戻るんですか?!
言っときますけど婚約者の姫君はお兄さんにベタ惚れですよ! あなたの付け入る隙はありません。
とっとと諦めてください。そうしないと話が進みません!
「なら私の運命の相手がどこにいるのか教えろ。」
あーもううるさいですね。わかりましたよ。だったら城下町とかに下りて適当に探したらどうです?
町娘との身分違いの恋なんてなかなか運命的でありふれた展開でしょう?
「成程…。よし、そうと決まったら出かけなくては!」
ハイハイ。とっとと行ってください。
弟王子は猪のように部屋を飛び出して行った。
はぁ。疲れた。
とにかく姫のことを諦めてくれてよかった。危うく子供に聞かせられない童話になるところだった。
えーっと…どこまでやったっけ?
確か台本の五ページの……あ、ここだ。
時は流れ、結婚式の準備で城は大忙しです。
ちょっと思考回路が残念な弟王子の行動はあまり気にかけられていません。
そのため私に……じゃなくて。
姫と兄王子はとってもラブラブです。近づいたら砂吐きそうです。そのため、彼らのラブラブ度のナレーションはしません。
なんだよ! 独身者にはつらい空気出すな! ケッ。
結婚式当日。城も、町も、どこもかしこもお祝いムードであふれていま「おい!」
…またこのパターンですか。いい加減私の仕事の邪魔するのやめていただけませんかね?
「どういうことだ? ふられたぞ!」
そうですか。よかったですね。
さて、兄王子と呪いを解かれた姫君とのラブロマンスは国中に広がっており「流すな!」
なんですか。反応してあげたでしょう。私に仕事させてください。
「町娘との運命的な恋だといっただろう? なのに! 酒場の娘に告白したら即効でふられたぞ! どういうことだ!」
現実はそう甘くないってことじゃないですか。
「この見目麗しい私が振られるなんてありえない…。」
ちょっと黙れナルシスト。
「なるし……?」
あーそっか。現代語だから通じないのか。えーっと…自己陶酔?
自分に酔いすぎという意味です。
「ほう。私を酔わせてしまうとは! さすが私! この美貌は周りの人をも酔わせてしまうんだな!」
……………。
そっか。通じないのは現代語だからじゃなかったね。もともとこの人には通じないんだね。
「…待てよ。
そうか! そうだったんだな!」
なんです、いきなり。
なんだかいやな予感がするんですけど。
絶対に続きを聞きたくないのでもうそのまま式典の準備にいかれたらどうです?
「君が私の運命の相手だったんだな!」
…………。
…………。
うわー……。
「これまで女性の話で反応が薄かったのは嫉妬から来る行動だったんだな。そうかそうか、素直じゃないな。」
頭沸いた?
「私に惚れているなら最初からそうと言えばいいものを。」
ちょっと待ってください。なんでそういう話になったんですか?
「安心しろ。私はたった今気づいた。いつも私の話し相手になってくれている君こそが運命の相手だと!」
……………。
話し相手になってなければこんなことにはならなかったのかなぁ……。
いや、でもその場合姫の貞操が危ないことに…?
「何をぶつぶつ言っている? さあ、私の胸に飛び込んでくるがいい!」
言っときますけどね? ナレーターって物語の登場人物さんには姿はおろか声さえ聞こえない存在なんですよ。なんであなたに聞こえてるのかは知りませんけど、ほかの方にはこの声聞こえてないですからね? あなた、何にもない場所に話しかけてるイタい人ですよ?
「愛があれば、そんなもの関係ない!」
そうですね、愛があれば関係ないんでしょうね。…あれば。
私にはないので無理です。
「ふふ、恥ずかしがっているのだな。これが流行りのツンデレってやつか。」
もーやだこの人。なんでこんなに話通じないの?
だいたいあなた、私が男か女かもわからないでしょう。
「もちろんわかるさ。金髪碧眼。そしてこの私の隣に立つにふさわしい整った顔立ち。その名もエリザベス!」
誰です、エリザベスって。言っときますけど、私の容姿は黒髪黒眼ですから。金髪碧眼じゃないですから。
「なんだ、ザラームのほうか。」
だから誰ですか、ザラーム。勝手に人の名前決めないでください。
「よし、結婚式は今日にしよう。お祝い事が二つ重なればめでたいからな。したくしろ。」
いい笑顔で何馬鹿なこと言ってるんですか。姿ない人と結婚するつもりですか。
「ならお前が姿を現せばいい。それですべてが解決だ。
そうだ! 母上たちに報告してこなくては!」
何にも解決してませんよ。だいたい結婚の承諾した覚えがありません。
「さあ、早く支度しろ! 一緒に母上たちに謁見しに行かなくては!」
なんだろう。言葉のキャッチボールが出来ない。
言語は通じているはずなのに…。
「ドレスは何色がいい? 適当に緑とかでいいか。」
人に聞いといて自己完結しないでくださいよ。
「大丈夫だ。俺は気にしない。」
……そうですか。
わかりました。あなたの母上たちに会いに行きますから、一つ、お願いを聞いていただけませんか?
「勿論さ。いとしいハニーのお願いなら何でも聞いてあげよう。」
は、はにー……。
…………………………。
ゴホン。
ちょっとですね、城を出て町の大通りを北に進んで下さい。
「わかった。」
次に、十字路を右に曲がってしばらく道なりに進んでください。
「ん?なんか建物が見えてきたぞ。」
そこに入ってください。そして受付さんにこの紙を渡してください。あ、中身は見ないでくださいね。
ぴらり、と空から封筒が落ちてきた。
「わかった。戻ってきたら結婚式だ。待ってろよ!」
いやです。ま、とにかくいってらっしゃ~い。
弟王子は白い建物の中に入っていきました。建物の看板には『精神病院』と書かれていました。
そして、兄王子と婚約者の結婚式は滞りなくおこなわれ、二人は以後幸せに過ごしましたとさ。
めでたしめでたし。
あー終わった終わった。次の仕事行かなきゃ。
次のナレーションは……『雪の女王』?
よかった。王子とか出てこないね。かわいい子どもに癒されに行こう。
待っててね、ゲルダちゃ~ん。
ナレーターと会話するタイプの話を一度やってみたかったのですが・・・なんだかいつもと変わらない雰囲気になってしまいました。
なんか完成予想図と全然違う・・・。
ちょいちょいしつこいところがありますが気にしないでいただけるとうれしいです。
読んでくださってありがとうございました。