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第四章 現の裏世界2

 気が付くと、フィアラが泣きそうな顔で俺を見下ろしていた。

 俺が気付いたのを見て、フィアラの表情は笑顔に変わった。

「神崎さん……!良かった……心配したんですよ!」

 心底心配していたらしく、まるで自分のことのように喜んでいる。

 心配されている自分が、嬉しくもあり、情けなくもあった。

「……見ていたのか?」

「…………」

 フィアラは黙り込んだ。

 俺はついさっきまで、昔の夢を見ていた。『仮面児』と俺が目覚めたきっかけ……全ての始まりの夢を。

 恐らく、フィアラは俺と同じものを見ていた。

「『封冥者』の力か……妙な力だな」

「す、すみません……」

 フィアラが本当に申し訳なく思っているのがわかった。

 多分俺を心配して、頭に触れるなり何なりしたのだろう。その瞬間にフィアラの感覚と俺の夢が繋がったのだろう。要するに、不可抗力と言うわけだ。

「気にする事はない。俺も……いずれ話さなければならないと思っていたからな」

 『仮面児』が俺の兄であると言う事に、彼女は疑問を抱いているはずだ。

 それぞれ別の一族に与えられたはずの宿命……。そのうち『聖血の封冥者』と『命狩の執行人』を除く全ての宿命を、俺の一族が背負っていのだ。

 『神威の邪砕靭』……『神術の仮面児』……『背徳の神天使』……『光の黙示録』。そして『闇の黙示録』も。

「恐らく、現在に至るまでの間に、お前と『執行人』を除く一族と結婚し、宿命の殆どが、俺の一族に集中してしまったんだろう。少しずつ……『黙示録』に記されている内容がずれてきているな」

 当時六歳の俺が『光の黙示録』を開いた時、今とは違うシナリオが書かれていた。

 『神威の邪砕靭』と『神術の仮面児』が兄弟などとは書かれていないし、ましてや『光の黙示録』と『闇の黙示録』が同じところにあるなど、記されているわけがない。

 もしあの時、『神天使』に操られていた兄さんが、『光の黙示録』を見つけていれば、『神天使』は完全復活し、今頃はこの世にいる全ての人が、冥界へ送られていただろう。

 どうやら、神達の予期したシナリオとは、全く違った方向へ進んでいるようだ。

「ここは冥界か……『執行人』はどうした?」

「呼んだかよ?」

 レイトは意外と近くにいた。俺の意識が戻るのを待っていたのだろう。あぐらをかいて座っている。

「……ったく、やけに長い間くたばってたじゃねえか。待ちくたびれたぜ」

 レイトは立ち上がり、大きく伸びをした。

 相当待たせてしまったのだろう、かなり眠そうだ。

「で、これからどうするよ?」

 ものの見事に冥界へ落とされてしまった。冥界の扉はもう閉まっているし、ここから出るのは簡単ではないだろう。

 冥界とは無論、死者の集まるところだ。その中に三人も生きた人間が紛れ込んでしまったのだ。この世界の住人達とって、俺達は招かれざる客……。場合によっては攻撃されるかもしれない。

「とりあえず、ここを出ようぜ」

「……『執行人』、何か考えがあるのか?」

 正直、期待はしていない。

 こいつはさっき、自分が望んでいる事を言っただけだ。何かしらの考えがあるとは思えない。

「ねえよ。けど出るんだよ!」

 最早意味がわからない。

 外に出たい。でも方法はわからない。でも出たい。どこのガキだ。

 とりあえず、冷たい目を向けてみる。

「……な、何だよその目は!」

 まだ向けている。

「お、おい……」

 まだだ。

「……」

 まだまだ。

「……ああ、もう!悪かったよ。だからそんな目で俺を見るな!」

 勝ったな。何の勝負かは置いといて、とにかく勝った。

「おい、『邪砕靭』」

 さっきとは違うノリで、レイトが話しかけてきた。

「俺のことを『執行人』って呼ぶな!」

「?……お前も俺を『邪砕靭』と呼んでいるぞ」

 はっ……!

 言ってみて気づいた。

 『邪砕靭』、『封冥者』と、『執行人』の決定的な差に。

「お前やフィアラはまだいい。けど俺の場合、『執行人』じゃ意味がわからねえんだよ!」

 『邪砕靭』は、意味がわかればわざわざ『神威の』をつけなくても伝わる。邪を砕く刃だ。少し漢字が難しくなっているが、問題はない。『封冥者』はそのままだ。『冥界の扉を封じる者』縮めてある事がわかる。これも問題ない。

 しかし、『命狩の執行人』の『執行人』は、『命狩の』をつけなければ、一体何を『執行する者』なのかわからない。俺やフィアラのように伝わらないのだ。

「いいか、俺はレイトだ!絶対に『執行人』って呼ぶなよ!」

「……わかった。わかったから静かにしろ。下手に見つかったら面倒だ」

 何に見つかるか。それはわからないが、とりあえず用心しておくに越した事はない。

 とりあえず呼び名については、適当に済ませておく。

「よし。じゃあ気を取り直して、ここから出る方法でも考えるか」

 そう言って、レイトは頭を抱えて悩みだした。

 忘れた人のために言っておくが、レイトは眼鏡をかけている。なので、初対面の人間は、あいつが頭の言い人間のように思えるだろう。だが、それは大きな勘違いだ。

 こいつは別に頭がいいわけじゃない。むしろ精神論を吐いて壁を砕こうとするタイプだ。

 ……せいぜい、いい案が出ることを期待しておこう。

「あの……神崎さん?」

「?……どうした」

「ここ……冥界ですよね?」

「ああ」

「と言う事は、この世界をまとめる方がいらっしゃいますよね?」

「だろうな」

「太古に、『神天使』との戦いで、人を勝利に導いたのは、誰でしたっけ?」

「前に話しただろう。冥……」

 ――――っ!

 そうだった。ここは冥界なのだ。

 気付くのがあまりに遅かった為、フィアラは半分呆れ顔である。

「……フィアラ、もう少し早く言ってくれないか」

「な、何だよ、どういうことだ?」

 不思議に思ったレイトが話に入ってくる。

 フィアラは意外と頭が切れる。……と言うより、気付かない俺がおかしいのだが。

「太古に人間に協力した冥王なら、俺たちを出してくれるかも知れない」

 フィアラはこれを言いたかったのだ。

 敗北しかけていた人と神の連合軍に冥王が参加した事によって、一気に戦況が覆ったのだ。何故人に協力したのかは知らないが、門前払いされることはないだろう。

「何だそういう事かよ。実は俺もそれを考えてたんだ」

 嘘だな。

 俺とフィアラは、もう一度レイトに冷たい目を向けた。

「う……すみません、嘘です」

 ……まあ、何はともあれ、こういう軽い雰囲気で行動するのも、なかなか悪くない。

 俺は笑っていた。フィアラも笑っていた。レイトも笑っていた。

 ずっとこのままと言うわけにはいかないが、できるだけ長く、こういう時間が続いてほしかった。だが……。

「のんきなものね」

「……!」

 どこからか声がした。声と共に殺気が辺りの雰囲気を一気に重くする。

 この声……俺は知っている。一瞬ではあるが、俺はこの声の持ち主と会った事がある。それは俺よりも、フィアラのほうが先に気付いたはずだ。

「この声……まさか……」

「久しぶりねフィアラ。いえ、『聖血の封冥者』さん」



 気が付いたら、私は叫んでいた。

 昔からずっと仲良しだった友達の名前を。

「レイディル!」

 私は走り出そうとした。

 大切な友達が目の前にいる。もっと近くで話したい。

 けれど、神崎さんが私の腕を掴んだ。

「よせ!行くんじゃない!」

「離して下さい!何で邪魔するんですか!」

 必死で腕を振り払おうとしたけれど、神崎さんは私を放さなかった。

「落ち着いてよく見ろ。奴が手に持っているものを!」

「て、手……?」

 言われたとおり、レイディルの手に目を向けてみた。

 その手に収まっているものこそ、神崎さんが、私をレイディルに近づけなかった理由でした。

「け……拳銃……?」

「悪いわね、フィアラ。私はあなたとの再会を喜び合うつもりはないの。むしろその逆」

 ゆっくりと、拳銃を握り締めたレイディルの手が上がる。

 その銃口は、私に向けられていた。

「私はあなたを殺しに来たのよ。『聖血の封冥者』」

 衝撃的でした。銃を向けられたこともさることながら、名前ですら呼んでもらえない事に。

 唖然としていると、神崎さんが前に出ました。その腰に納まった刀を、鞘から解放しながら。

「……どうやら冥界の住人と言うわけではなさそうだな。フィアラを殺しに来たと言ったが、何故だ?」

「簡単な事。レミネス様の意志……そう言えばわかる?」



 レミネスか……!

 それは、太古に冥界の扉を開き、人々に破滅を予感させた『背徳の神天使』の名。恐らく、レイディルの言うレミネスは、神崎しんざきゆう……『神術の仮面児』のことだろう。

 あいつ……まさかレイディルを助けているとは。

「……つまりは、俺たちをここで葬る為に来たのか?」

「そういうこと。私は命を助けてもらった身。レミネス様の意志は絶対よ」

 まずいな。

 フィアラは未だに唖然としているし、レイトは状況を理解していない。今この状況でまともに戦えるのは俺ぐらいか……。とは言え、相手は遠距離用の兵器を持っている。近距離でしか戦えない俺やレイトでは不利だ。しかし、俺達の中に、遠距離で戦える人間はいない。厳しいぞ。

「刀や大鎌みたいな近距離武器では、遠距離兵器に勝てないわ。賢いあなたならわかるわよね?」

 それにしてもレイディルめ……やけに雰囲気が変わったものだ。

 レヴィジット邸で会った時は、落ち着きのない騒々しい女にしか見えなかった。しかし今は、あまりにも落ち着いた……いや、割り切ったと言うべきか。そんな目で銃を向けてきている。

「確かに、現状でお前に勝てる可能性は低いだろう。だが、こちらもそう簡単に『封冥者』を死なせるわけにはいかない……!」

 フィアラは言わば、人が全滅してしまう事を避けられる唯一の希望だ。

 『黙示録』に詳しくは書いていなかったが、フィアラには『特殊な力を癒す力』、『他人と心を繋げる力』の他に、まだ見ぬ力を持っている。恐らくその力が、人類を救う為の力なのだろう。

 今思えば、『黙示録』には肝心な事がかかれていないな。

「それはいいけど、どうする気?そっちのお姫様は、半分気を失っているわ」

 フィアラ……いつまでボウッとしているつもりだ。

 かつての友が敵になったのだ。ショックなのはわかる。しかし、このままでは、お前がその命を落とす事になる。それがわからない程、お前は馬鹿じゃないはずだ。

「止まった的を撃ち抜けないほど、私の腕は悪くないわよ」

「なら、狙う暇を与えなけりゃ良いだけだろ?」

 ザクッ!

 レイディルの後ろから、レイトが大鎌を振った。ぎりぎりで気付いたレイディルがそれをかわし、大鎌は地面に突き刺さる。

「お前とフィアラがどう言う関係なのかは知らないけどな、『封冥者』の命がかかってるんだ。俺も黙ってるわけにはいかないぜ!」

 どうやら、状況を把握しなければ戦えない……と言う訳ではなさそうだ。

 近寄り方と言い、今の一撃と言い、なかなかのものだった。

「さすがは命狩りの専門家ってところかしら。今のは危なかったわ」

「へっ!いつまでもそんな幸運が続くと思うなよ。おら『邪砕靭』、やるぞ!」

「……ああ!」

 俺たちは同時に、レイディルを挟み撃ちにする形で走った。



 ガウンッ!

 静かな冥界に、高く太い音が響いた。銃声を聞いたのは久しぶりだ。

 私がまだ冥王となっていなかった頃は、兵器の音など、休むことなく聞こえていたものだな。

 それはさておき、一度安定した世界を荒そうとするのならば、放っておくわけにはいかん。冥界の秩序は、冥王たる私自身が守らねば。

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