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 既に日は落ちていた。

 人工の明かりが全くない闇夜を、ただ一つ、空に浮かぶ月だけが照らしていた。

「ぐっ……!」

 とある豪邸の屋根の上で、黒い髪と茶色の服を着た少年が、呻いて膝をつく。右手で押さえられた左肩から、片刃の刃物……つまりは刀を握る左手の指先へ、真紅の血が滴り、青い屋根の色を変えていく。

 少年は、自分の前に立つ、自分に傷をつけた黒い獣を睨んだ。

「ガルルル……」

 蛇の尾を持った三つ首の獣は、少年の息の根を止めるため、跳びかかるタイミングを待っている。左端の首の傷は、少年の刀によってつけられたものである。

 少年の左肩の出血は、止まるという言葉を知らないかのごとく、傷から溢れていく。

 少年は焦っていた。早く決着をつけなければ、自分の命が危ない。このまま出血多量で野垂れ死になど御免だ。

 意を決した少年は、真っ赤に染まった左手で、怪しく光る刀を、強く握り締めた。

「ガアァァァァァッ!」

 黒い獣が雄叫びを上げ、三つの首全ての口を大きく開き、少年に向かって跳びかかる。それを見た少年は、刀を縦向きに構え、そのまま低い姿勢で刀を振った。

「ギアァァァァッ!」

 両端の首が悲鳴をあげた。真ん中の首の下顎から腹までを、少年の刀が切り裂いたからだ。

 黒い獣は屋根に倒れこみ、息絶えると、幾つもの光の玉となり、少年の前から消えていった。

「……っ!」

 獣を倒して気が抜けたのか、少年は一瞬苦しそうな顔をしたかと思うと、屋根から地面に落下した。

「ケルベロスが一匹やられたかぁ……。でもまあ、問題ないかな。たかが猟犬の一匹ぐらい」

 先程の戦闘を見ていたらしき少年が、微笑を浮かべる。幼い容姿をしているが、その背にあるものは、人間という種族の姿形にあるべきものではなかった。

 純白の翼……。その姿は、「人間」と言うよりも、「天使」と言うに相応しい。

「どうやら彼女の所への誘導はうまく行ったみたいだし、計画は順調ってところかな。『神威しんい邪砕靭じゃさいじん』……これからどうなるか楽しみだよ」

 純白の翼を羽ばたかせ、少年は何処かへと飛び去った。




「……?」

 部屋で寝ていた少女の近くで、大きな音がした。何か重いものが落ちたような音だ。その音に睡眠を邪魔された、赤い髪とは対象的な青い目の小柄な少女は、不機嫌そうにベッドから出る。こんな時間に一体何だ。そう言いたげなのが、目でわかる。

 しかし、上から落ちてきたものの正体を見た途端、少女の表情が一変した。

「何?」

 少女の発した言葉である。当然と言えば当然だ。自分の家の庭に、人が倒れている。少年のようで、酔っ払いの人ではない。

 少女は庭へ出て、少年に声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「!」

 余程驚いたのか、少年は勢いよく少女から離れた。

「動かないでください!」

「…………」

 などと考えていると、左肩に激痛が走った。しまった、出血していることを忘れていた。

 少年の出血を思い出した少女は、急いで部屋に戻り、どこからかガーゼと包帯を持ってきて、少年の肩に巻いた。

「大丈夫だと思いますけど、出血がひどいです……今日は私の部屋で休んでください」

 家に連れて行こうとすると、少年が手を振り払った。

「こ、断……っ!」

 言い切る前に激痛に襲われ、少年は気を失った。

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