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line35.返信メール

 美紀夫と距離を置くことで、俺はみおの事を諦められる、忘れられると思っていた。双子で同じ顔の二人。しかし、実際そう上手くはいかないらしい。俺は美紀夫の姿をますます目で追うようになっていた。

 自分は気が付いていないだけで、本当は同性愛者なのではないだろうか。そんな疑念が頭の中を鳴り響いて止まない。それとも自分はまだ混乱していて、二人を同一人物として捉えてしまっているのか。どちらにせよ、俺は美紀夫を恐れるようになっていた。自分の気持ちを知りたくなかった。臆病になっていた。


 そんな俺の気持ちをそそのかすように、夜分遅くに一通のメールが届いた。部屋で珍しく宿題をしていた俺は、一体誰からだろうと携帯を開いた。


『 件名:こんばんは。

  本文:お久しぶりです、みおです 』


 何とみおからだった。思わず心臓が跳ね上がる。眠気まなこで取り掛かっていた宿題を放置すると、考二に見られないようにと自分のベッドに上がった。毛布を被り、完全にそとの世界をシャットダウンさせてから画面をスクロールさせていく。


『 あの時は取り乱したりしてごめんなさい。まさか礼二君に告白されるとは思ってもみなかったの。あれから自分なりに考えに考えて、正直な気持ちを今ここで綴ろうと思います。長文になりますが読んで下さい。私は礼二君の事、一目見た時から好きでした。もの凄く惹かれる物を感じました。でも、やっぱり怖い。私にとって男性は恐怖の対象でもあります。それでも礼二君は、私にあれこれ気を遣い、何とか側にいられるようにと考えてくれました。私に合わせてくれました。なのに結果的に私がふったような形で別れてしまい、今までメールすら返せなかった自分をお許し下さい。随分と厚かましいお願いかもしれませんが、もう一度、デートからやり直しませんか? 』


 俺は三回程読み返した後、どう返信するべきかと考えあぐねいて画面を閉じた。今更みおからのメールが届くとは。しかも俺の事が好きだと書かれている。俺はあの時、ふられたのではなかったのか? みおに拒絶されたのではなかったのか?


 俺はもう一度メールを見直す。みおの真意がわからない。ここに来て、どうして態度を変えてきたのか。本当に俺の事が好きなのか。もしかしたらこれも美紀夫の差し金ではないだろうか。疑いたくはないが、二人は嘘を付いてまで居場所を教えてくれなかった。あまり信用出来ない。

 返信はもう少し考えてからにしよう。俺は高鳴る心臓を押さえつけながら、なんとか眠りについた。






 バレンタインまで後一週間。及川は休日に作った試作品を、早速亜希にプレゼントした。大きなタッパーに入った、ハート型のチョコクッキー。クッキーの生地にココアパウダーを混ぜて焼いたただけの、初心者にも優しい簡単手作りクッキーだ。


「ん! 普通に美味しい。あんた料理したことないって言ってたから、もっと酷いの食わされるかと思っていたよ」

「失礼ね、本さえあればレシピ通り作れるわよ」自分も味見にとクッキーを食べる。「うん、そこそこイケてるじゃない」

「試作品でここまで作れたなら、合格じゃないの? 次はガトーショコラでも作ってよ」


 及川は持ってきた料理本からガトーショコラのページを開いた。手順が多く、見るからに面倒くさそうだ。


「うーん……そんなこと言って、亜希は自分が食べたいだけじゃないの?」

「あ、バレた?」

「やっぱり」


 及川は目の前でばくばく食べる亜希を無視して本をめくった。どのページも美味しそうなお菓子が載せられている。ガトーショコラなんて、義理にしては重すぎやしないか。当日は失敗の少ないクッキーを渡した方が無難かもしれない。ラッピングの袋もそろそろ買わなくては。及川はウキウキしながら何度もページをめくった。


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