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line34.疎遠

 俺は美紀夫を避けるようになった。朝練がある日は一本早いのに乗り、部活動中でも最低限の会話をお互いに守る。美紀夫も何も言わず、自分に与えられた罰かのように、ただ黙々と基礎練習に励むようになった。自分で招いた結果だが、これで良かったのだと言い聞かす。二人が許せないと思ったし、単に嘘をつかれたのも悲しかった。俺は美紀夫の事を親友だと思っていたが、それは思いあがりだったらしい。二人に俺の感情は振り回されてばかりだと気付いた。今は側にいたくない。

 やがて教室でも殆ど顔を合わす機会が無くなり、弁当や教室移動の時などは同じ中学校出身の、高橋や山本とつるむようになっていた。


「礼二! 早く着替えて体育館に行こうぜ」


 高橋がそわそわした面持ちで、まだ教室に女子が残っているにも関わらず着替え始めた。この時期、体育ではバレーボールの授業を行っている。バレー部の高橋にとって、唯一の見せ場なのだろう。俺は笑いながら二人に遅れまいと学ランを脱ぎ捨てた。


 美紀夫と喧嘩したのかと言われるけど、実際はそうじゃない。挨拶は勿論お互いに交わすし、日常会話もする。ただ一緒に登校したり、一緒に弁当を食べたり、一緒に美紀夫の家でゲームをしなくなっただけだ。つまり俺達の関係は、転校してきた当初の頃に逆戻りしていた。きっと今までの俺が、美紀夫に依存し過ぎていただけなのだ。あの日のデートの事も、俺は素直に受け入れられるようになっていた。俺は女にふられた、それだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。




 二月に入り、俺を含めた男子全員が淡い期待を抱く『バレンタイン』なるものが近づいてきていた。駅やバイト先のスーパーでもバレンタインフェアなんて物を開いているし、教室でも女子が料理本を片手に騒いでいる。最近では『友チョコ』と言って女の友達にも渡す習慣が出来たらしい。俺は楽しそうにお喋りしている女子を尻目に、冷たい紙パックのジュースを啜った。


「今年もバレンタインの季節がやってきたなぁ」


 高橋が女子のスカートから覗く白い太腿を吟味しながら、にやにやと肘をついている。この時期に考える事は皆同じらしい。俺は昼休みの教室を見渡すと、楽しそうに弁当を広げている遠藤と目が合った。いつになくすらっとした彼女の腕からは黒のセーターが顔を覗かせている。紺色のベストから絶妙にはみ出たそのライン。遠藤の細い指先は、何事もなかったかのように箸を動かし続けていた。バイト先は同じなのだ。俺は勝手に遠藤から義理チョコくらいは貰えるだろうと踏んでいた。


「なぁ、勝負しねぇか? 誰が一番多くチョコを貰えるかどうか」


 高橋が俺の視線を戻した。


「お前、宛てでもあるのかよ」

「何、バイト先の女をちょっと引っ掛けてやるまでさ」

「酷いなぁ。貰った分、お返しはどうするつもりなんだよ」

「いいねぇ」俺の話を無視して山本がノッてきた。「で、罰ゲームは?」

「三人分全員のお返しを用意するってのはどうだ? これなら文句ねぇだろ」


 自分が勝つ気満々で高橋が笑う。母親から貰うチョコレートは果たしてカウントされるのだろうか。半ば乗る気のしないまま、俺は強制的に勝負に参加させられる事になった。


「そう言えばお前、最近ちっこいのといないよな。喧嘩でもしたのかよ」


 高橋の顔が急に真面目になったので、俺は面倒くさそうに弁解した。


「喧嘩まではしてねぇよ。挨拶くらいはしているだろ? ……あいつとは、ちょっと距離を置いているだけだ」

「距離ねぇ。ま、俺らから見ても確かに近い部分はあったよな」


 高橋と山本、二人そろってくすくすと笑う。からかうように山本が続けた。


「傍から見ても、お前らちょっとホモ臭かったぜ。離れたのは正解だったかもな。いくら久瀬が女顔だからって、流石の礼二も男には勃たなかったか!」

「あはは、違いねえ!」


 山本の言葉が、俺の心臓に鋭く突き刺さった。傍から見たらホモ? 俺が? そんな風に俺と美紀夫は見られていたのかよ。怒りと恥が幾重にも混じり合って、胃がひっくり返りそうな程煮えたぎっていた。胃液がせり上がって来るのを、無理矢理唾液で押し返す。気分が悪いのを堪えるのに必死だった。同時に、美紀夫を押し倒してしまった出来事がフラッシュバックされる。男にしては色っぽかった。乱れた前髪、少し腫れぼった唇、恥ずかしそうに潤んだ大きな瞳に、はだけたシャツ。


「どうした礼二? お前も山本の言う事を一々真に受けるなよ」


 ばしばしと俺の背中を叩きながら高橋が笑っているが、その下の下半身は確実に反応していた。


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