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line17.初めてのデート 後編

「はぁー、凄く面白かったね! 」


 みおが頬を紅潮させて喜ぶ。確かに映画は面白かった。設定も凝っていたし、派手なアクションも十分見応えがあった。あったが、俺はみおを盗み見ながら見ていたので、きちんとした内容まで頭に残ってなかった。


「結構アクションシーンも凄かったね。みおさんは原作のゲーム知っていたの? 」

「ううん。でも、美紀夫がおすすめだからって」

「そっか」


 一度俺たちは夕食を食べに駅前へと向かう。先程よりみおとの距離は縮まったが、それでも三十センチ以上はあった。手を繋ぐのは、流石に無理だろう。俺は寂しく行き場のない両手をジャケットにしまい込んだ。


「ご飯どうします? 何か食べたいのがあったらそれにするけど」


 うーんとみおが立ち止まり、考え込む。俺はその間周囲のイルミネージョンに目を奪われていた。これは告白するのに、ぴったりの演出ではないか。なるべく人混みの少なそうな、少し離れた所にあるイルミネージョンに目星をつけると、そこまでどうやってみおを連れて行こうか検索し始めた。


「私、ハンバーグが食べたいな」


 みおのリクエスト通りにハンバーグの店を探す。やがて俺たちはセントラルタワーズ十二階、レストラン街にたどり着くと、ハンバーグ店の最終列に並んだ。土曜日の夕食時ともあって、結構どのお店も並んでいる。薄明るい照明の中、俺とみおは三十センチ以上の隙間をあけて立つ。


「結構混んでいますね、時間大丈夫ですか? 」


 時刻を確認する。もう夜の八時前だ。


「私は大丈夫。河村君こそ、大丈夫? 」

「平気平気、明日は部活も無いし、バイトも午後からですし」

「そっか、でもなるべく早く帰った方がいいよね? 明日疲れちゃうし」

「日頃から走って体力つけていますし、大丈夫……あの、寮の門限とかはないんですか? 」


 みおが「あっ」と小さく声を上げて携帯画面を見る。先月発売されたばかりの、最新型の赤い携帯だった。


「ごめんなさい、寮の門限十時なの。ここから三十分かかるから、九時半までには帰ってもいいかしら」


 みおが申し訳なさそうに俺に謝る。やっぱり彼女はどこか抜けているようだ。俺はわかりましたと笑って答えた。


 二十分程待った後、ようやく席へと案内される。注文を済まし、時刻を確認する。今から食べて、ここを出ると丁度いい時間だった。さっきの所まで戻って、告白する時間はとてもなさそうだ。

 俺はどうしたものかとおしぼりで冷えた手を温めながら、みおの方を見た。みおも俺の事を見ていたらしく、思わず目が合った。


「…………」

「…………」


 みおが恥ずかしそうに慌てて顔を伏せる。俺もあまりの可愛さに直視出来ずに目を逸らす。そう言えばみおと向かい合ったのは、これが初めてだ。俺は手で顔を隠しながら、みおの顔を観察した。ずっと帽子を被ったままだが、やっぱり可愛い。両手をテーブルの下に隠して、恥ずかしそうに俯いている。

 どこが美紀夫とそっくりだ、みおの方が百倍可愛いじゃないか! そう認識すると、俺はメニュー表で自らの顔を隠した。


「わ、悪い。正面は苦手だったんだよな」

「う、うん。ごめんなさい」


 みおのかすれた声に顔を上げる。すると俺はメニュー表の僅かな繋ぎ目から、みおの顔が見えるという大発見をした。

 こ、これはいいぞ! みおがこちらに気付いてないのをいいことに、俺はメニュー表に向かって喋り出した。


「あの、そう言えばみおさんは何処の女子校なんですか? 」


 今一番知りたい情報だった。何故なら、みおの制服姿を思い浮かぶことが出来るからだ。みおが困ったように水を飲んでから答える。


「……さ、桜ヶ丘女学院……」

「さ、桜ヶ丘!? 」


 桜ヶ丘女学院と言えば、県内でもトップクラスの有名校だ。全国でも少しは名が知られているんじゃないだろうか。俺はあまりの学力の差に返す言葉がなかった。


「で、でも全然凄くないよ。私、その中でも落ちこぼれクラスだから……」


 目を伏せ、物悲しそうに手でくるくると髪を巻きつける。そ、そんなにみおが賢かったとは。自分との差が歴然とし、俺はとんでもない高値の花に恋をしてしまったのだと実感した。


「そ、そうなんですか……」

「う、うん……」


 気まずそうに顔を背ける。俺は桜ヶ丘の制服を細部まで思い起こそうとした。確か紺色のブレザーに、赤のリボンとシンプルなデザインだったはずだ。……うん、悪くない。悪くないぞ、俺の好きなブレザーだ。


「部活は何かしているんですか? 」


 みおの目が宙を泳ぎ、ただ一言「何も」と呟かれた。まずい、ここは話題を変えたほうがよさそうだ。俺は慌ててみおに趣味の話をふった。


「そうね……やっぱりお買い物かな? 可愛いアクセサリーとか、ついつい欲しくなるかも」


 そう言って胸元にぶら下がっているペンダントをつつく。そ、それはネックレスが欲しいと言う合図なのか。俺がペンダントを凝視していると、上から声がした。


「お待たせいたしました。スペシャルハンバーグセットです」


 店員の声に慌て顔を上げ、何事もなかったかのようにメニュー表をしまった。スペシャルなだけあって、結構な量だ。二人で「頂きます」と言い合ってから食べ始める。うん、肉汁がジューシーで美味い!

 みおも火傷に気を付けながらゆっくり食べ始める。左手で髪の毛を押さえながら食べる仕草が、何とも愛くるしい。やがてみおもスペシャルセットをぺろりと平らげてしまった。


「みおさん、結構食べるんですね」

「あ……ご、ごめんなさい、お腹空いていたからつい……」


 俺も驚いてみおの皿を見る。このセットは男の俺で丁度いいと感じた量だった。細い人に大食いは多いと聞くが、ひょっとするとみおもその類なのかもしれない。


 食事代も割勘にして外に出ると、時刻はもう九時を回ろうとしていた。みおが再びお手洗いに行き、俺も食後のブレスケアもかねてトイレへと向かう。尿意を済ませ、口臭もかき消した所で俺は覚悟を決めた。時間がないが、いくしかない。告白するしかない。今度みおがいつ会ってくれるのかも分からないし、あんなエリート校なら冬休みもまともにあるのかさえわからない。鏡を見つめ二、三発頬を叩いてからみおと合流した。


 しかし、どのタイミングで言うべきなのだろうか。俺は高鳴る心臓を押さえつけながら下りのエレベーターを待った。今か今かと震えだっていると、みおが何かを発見した。


「ここ、展望台もあるんだ」


 エレベーター横に彫られた文字を読み上げる。そうか、展望台か。確か十五階から名古屋駅を一望出来るお手軽スポットだが、この時間帯は下のイルミネーションも見られるかもしれない。


「時間ないけど、行くだけ行ってみる? 」


 うん、と恥ずかしそうに頷く。やべぇ、今の俺、声が震えていたのかも知れない。手汗をみおにバレないよう、ジーパンの生地に擦りつけると、俺たちは予定を変更して上行きのエレベーターに乗り込んだ。この狭い箱では嫌でもみおに接近してしまう。俺は極力彼女に触れまいと体を仰け反らせた。


 十五階の展望台までやってくると、ガラス張りの窓一面にイルミネーションが広がっていた。十五階は意外と高く、先々の住宅街はおろか、ライトアップされた名古屋城までここから伺える。みおが嬉しそうに窓辺に近づく。ムード演出の為か、照明も足元のみと必要最低限にとどめられており、周りもよく見るとカップルだらけだ。

 俺は薄暗い中、ちらっと腕時計を見た。もう九時を過ぎている。ここにいられるのも、後十分くらいだろう。俺は深呼吸して鼓動を少しでも押さえ込もうとした、落ち着かせようとした。ここは行くしかない、行くしかないんだ。俺は唾を飲み込むと、隅の方で街を眺めているみおにゆっくりと近づいた。少しの距離を置いて、隣に立つ。全身に鳥肌がたった。手や、足が緊張で震え上がった。銀色の手すり越しにみおにまでこの緊張が伝わったのか、先程から全身が硬直したかのようにピクリとも動かない。俺は意を決っして、周りの空気を吸い込んだ。そして、告白をしようと彼女に話しかけた。


「あ、あの……み、みおさん」


 声の震えが、自分の耳に痛いほど伝わる。胃の辺りがせり上がり、先程食べたハンバーグが逆流を起こしていた。あそこもすっかり緊張で縮み上がっていた。みおは聞こえているのか、いないのか、こちらに顔を向けようとはしない。それどころか石のように動かなくなってしまった。


「そ、その……」


 もう涙までこみ上げて来そうだった。最初の一文字が中々口から出てくれない。頑張れよ、俺。たった一言「好きだ」と言うだけだろうが。


 やがて何分くらいお互い立ち尽くしていただろうか。みおがやっと小さな声で「何? 」と聞き返してくれた。もう時間もないんだ、これ以上長引かせる訳にもいかない。俺は汗でべとべとした拳を握りしめると、ようやく自分の想いを口にした。


「す……好きです、みおさん。俺と付き合って下さい! 」


 言えた、ついに言ったぞ。俺の告白はみおの耳に届いただのだろうか。みおは何と言って返してくれるのだろうか。緊張ですっかり収縮しっぱなしの身体を他所に、俺はどんな返事がきてもいいよう足を踏ん張らせた。


 みおは何も言わない。が、微かに震えたっているのが分かった。


「も……これ以上は……無理っ……! 」


 おえっと、みおが気持ち悪そうに低い声を出し、口を両手で押さえ込む。しゃがみこみ、涙を大量に流しながら何かを必死に耐えている様子だった。


「お、おい……大丈夫か」


 みおの突然の行動に戸惑う。ど、どうしたんだ? 気分が悪いのか? 俺がみおに触れようと手を伸ばした途端、物凄い力で叩かれた。


「…………っ!! 」


 突如立ち上がり、顔も見ずにエレベーターへと走り出す。俺は今しがた何が起こったのか理解出来なかった。どうして? 何故? 何が起こったんだ?


 叩かれた右手がじんじんと痛む。ただ一つ分かったのは、みおに拒絶されたという事実だけだった。


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