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line15.ミーティング

 翌朝、俺は五時に起きると学校前のアルバイトに出かけた。今日からテスト週間で部活動は休み、アルバイトも今日までで一旦お休みを貰うつもりだった。

 冬はとにかく起きるのが辛い。眠い目を寒気にさらしながら、まだ日の出ていない川原道を自転車で走る。寒さで手がかじかんで痛いが、俺は昨日から何度も見返したメールに心浮かれていた。ついにみおに会える。それも映画デートなのだ。ようやく俺にも春が来たのかと、鼻水をすすりながら一人にやけていた。


 朝の品出しをいつもどおり終え、急いで駅へと向かう。登校時間ギリギリに間に合う電車に乗り込むと、そこには美紀夫の姿があった。


「あれ? 美紀夫もこの電車か。珍しいな」

「おはよう、礼二君。今朝はちょっと寝坊しちゃって」


 そう言いながら寒そうに体を震わす。俺は迷わず空いている美紀夫の隣に座った。ギリギリ電車ではG校の生徒も少なく、のんびりと席に座れる。その後学校まで走る羽目にはなるが。

 ちらっと、隣の美紀夫の方を見る。確かみおの背丈もこれくらいだっただろうか。同じ顔の美紀夫の隣に座ることで、俺は当時の記憶を最大限に引き出そうとした。


「礼二君、今日もバイトだったの? 」

「ああ、今日までで一旦テスト休みもらった……ところで聞いてくれよ」俺は思わず美紀夫の肩を掴んだ。「みおとデートにこぎつけたんだ! 」

「へ? そ、そうなの? 」


 美紀夫が俺から視線を逸らす。


「ああ、十六日の土曜日。二人で映画を見ることになった! おっしゃあ! 」


 昨日の興奮が覚め切らず、その場で地団駄を踏む。そんな俺を美紀夫がなだめた。


「ちょっと落ち着きなよ、それ、本当なの? 」

「ああ、ちゃんと証拠もあるぜ」


 そう言って携帯電話を取り出し、みおのデート了承メールを見せつける。その画面をまじまじと見つめながら、美紀夫は顎に手を置いた。


「まさかみおがね……で、礼二君は本当にするの? 」

「何を? 」

「告白だよ。次に会ったら、否応がなしに告白するって言っていたじゃない」


 告白。そうだ、そのつもりだ。


「す、するさ。告白ぐらい、俺にも出来る」

「礼二君、告白した事あるの? 」

「ないよ」

「じゃあ告白された事は? 」

「ない……」


 はぁ、と二人そろって項垂れる。


「ああ、もうテスト勉強どころじゃないな。俺の童貞卒業がかかっているんだ、なんとしてでも告白を成功させるぞ」

「ちょっと! その後ホテルだなんて言わないでよね! 」


 美紀夫が血相を抱えて怒ったので、俺は驚いた。


「そんなにびっくりすることないだろ、冗談だよ冗談。第一、高校生がそんな所入れるわけないだろ? 」俺は慌てて付け加える。「男性恐怖症のみおさんに、いきなりそんな事出来るわけねぇよ」

「そ、そうだよね……」


 美紀夫が胸を撫でて安心する。美紀夫の過剰なまでの反応には笑えたが、実際告白もしたことない自分に出来るものかどうか不安だった。みおと二人っきりになるだけで、自分の心臓が爆発寸前になるに違いない。


 電車が動き出し、俺と美紀夫も小さく揺れだす。ふと美紀夫の横顔が、みおに見えた。双子だから当たり前といえば当たり前なのだが、思わず顔が引きつる。何を考えているんだよ、俺。俺が好きなのはみおだぞ、美紀夫じゃない。やがて俺の視線に気が付いたのか、美紀夫がこちらを向いた。


「な、何? どうしたの? 」

「い、いや、何でもねぇ」


 俺は即座にふって湧いた感情をかき消した。美紀夫にときめいてどうする! 顔が同じなだけだろ、顔が!


「? 変なの」


 美紀夫は鞄から参考書を取り出すと、広げて読み始める。俺は美紀夫の隣が気まずくて、通路側の生命保険と書かれたポスターのお姉さんと睨めっこし続けた。






 何とか期末テストを全て終え、俺は終わりのチャイムと共に背伸びをする。名簿順で座っている為、後ろの美紀夫が迷惑そうに顔を歪める。


「ちょっと、そんなに仰け反らないでよ」

「悪い、悪い。いやーっ、やっとテストが全部終わったな! 」

「で、明後日デートなんでしょ? 礼二君、顔にやけてわかりやすいよ」

「あははは」


 俺はさも照れくさそうに席を立つ。トイレに行く途中、廊下で及川とばったり出くわした。


「あ、礼二。この後部活のミーティングがあるの、忘れてないでしょうね」


 今日は気合の入った、可愛らしい赤いピンで前髪をとめている。きっとテストも終わり、部活動もないので午後から遊びにでも行くつもりなのだろう。


「あー、そうだったか。部長の俺は絶対参加だよな? 」

「当たり前でしょ! 冬休みの練習スケジュール決めるんだから、あんたがいないと話にならないでしょうが」


 眉間にしわを寄せ、そう言い放つなりさっさと教室に戻っていく。体操着で殴られて以来、及川の態度が更にきつくなったのは気のせいだと思いたい。

 ホームルームを終え、美紀夫と一緒に第二教室へと向かう。既に及川が準備してくれたのか、机にはスケジュール表が置かれていた。部長の俺や美紀夫、及川も含めると部員は全員で十九名。その内九名が今年入ってきた一年生だ。中でも可愛い女子に一瞬目配りしてから、教卓の前に立つ。


「これで全員か? 」

「まだ長谷川先輩と、顧問の先生が来てないわよ」


 及川が部員とプリントの枚数を確認しながら告げる。また長谷川先輩が来るのか。俺は余計な事を突っ込まれやしないかと内心ひやひやしながら二人を待った。


「悪い、河村。遅くなった」


 大柄の長谷川が教室の後ろから現れ、及川の隣に座る。遅れて顧問の先生も教室に入り、一番後ろに着席した。


「えー、テストも終わったし、お腹も空いたので早めに終わります」


 くすくすと一年生が笑う。よし、最初のつかみはオーケーだな。


「手元にあるのが去年のをそっくりそのまま今年の日付にしたスケジュールだ」俺はそう言ってぺらぺらと掲げた。「今年もこんな感じでよろしく」

「そっくりそのままじゃないわよ。一、二年の冬期補習に合わせて時間を減らした分、二日練習日を増やしたんだから」


 及川が自慢げに言う。


「うわっ、本当だ」

「もう、しっかりしてよね」及川の眉毛が釣り上がる。「冬場は日没も早いから、なるべく練習は午前中にしたの。それに午前中の方が、みんなも予定入れやすいでしょ? 」


 よく見るとイブの日は日曜日で、補習も部活も入っていなかった。やった、ラッキーだ。もし万が一告白が成功して、みおと一緒にイブも過ごせるようになったとしても、このスケジュールなら大丈夫だ。


「礼二君、顔にやけているよ」


 美紀夫が呆れた顔で突っ込む。


「さ、さすが及川だな。素敵なプランをありがとう」俺はプリントで自分の顔を隠す。「よし、他に異論はないな……今年はこれで行くぞ、解散! 」


 ぞろぞろと部員達が教室から出ていく。俺も荷物を持って出ていこうとした矢先、及川に声をかけられた。


「そう言えば礼二、イブの予定は入ったの? 」

「何だよ、お前には関係ないだろ」

「ふーん……ま、そうだけどね」


 表情から悟ったのか、及川が静かに俺の前を通り過ぎる。その後ろを長谷川先輩が追いかけるように教室を出ていった。俺は何故、長谷川先輩が陸上部に顔を出し続けるのか理解した。なるほど、先輩は及川の事が―――。


「早く帰ろう、礼二君」


 美紀夫が先に階段を下りていく。そう言えば美紀夫も、及川が気になっていたはず。


「あ、ああ」


 俺は何だか複雑な面持ちで美紀夫の背中を追った。


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