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line14.デートだデート!

 部活が終わり、いつもどおり美紀夫と一緒にM町で降りる。その間いくら新着メールをチェックしてみても、そこにメールが届くことはなかった。


「はぁ、もう一度会いたいなぁ」


 自分の部屋で寂しく呟く。弟の孝二は塾なのか、まだ帰ってきてはいない。部屋着のジャージに着替え、木造建ての寒さに思わず布団の中に潜る。よっぽど疲れていたのか、俺はそのまま寝入ってしまった。




 しばらくして携帯電話の着信で目が覚めた。なんだ、そのまま寝ちゃっていたのか。つきたての寝癖を抑えながら携帯を開く。みおからだった。


『 件名:遅くなってごめんなさい。

  本文:やっぱりメールだけでは満足出来ませんか? 私、礼二君に会うのが怖くて……その、決して嫌いな訳じゃないの。ただ、自分の覚悟が出来ないの 』


 自分の覚悟? それほどまでに俺の事が怖いのか。俺は眠気まなこな目を擦りながら、もう一度読み直した。どうしてそこまで怖がるのか。やっぱり俺が男だからか? 俺は何だかみおがわからなくなってきた。


『 件名:待ちくたびれました (笑)

  本文:俺の事が怖いかもしれなけど、でも、やっぱり会って話がしたい。俺の気持ちを知って欲しい。向かい合うのが怖いのなら、隣で立っているだけでいいです 』

 一か八かの妥協案を送信してみる。十分ほど携帯と睨み合った後、みおからのメールが届いた。


『 件名:ごめんなさい

  本文:……あまり私を見ないと約束してくれるのなら、考えます。ごめんなさい、私男の人の目が怖くて……礼二君が悪い人じゃないのはわかっているのに。本当にごめんなさい 』


 よし! お決まりの『そうですね』ではなく、考えますと前向きの答えに俺はガッツポーズをした。


『 件名:じゃあ

  本文:そこまで謝らなくても (笑) じゃあ帽子、被ってきて下さい。それでも駄目ですか? 』


『 件名:そうだね

  本文:それなら……何とかなりそうかな? でも、駄目だったらごめんなさい 』


『 件名:よっしゃ

  本文:ゆっくり克服してもらえば大丈夫。もし無理そうなら、その場で帰ってもらっても結構です。だから一度、俺とデートしてください 』


 女性をデートに誘うのに、こ、こんな文章でいいのか? 俺はまじまじと自分の打ったメールをチェックする。それとも、もう少し軽いノリの方が……いや、みおは真面目だからこんな感じで……いや待てよ、ちょっとストレート過ぎる気が……。

 俺が送信ボタンを押そうか押さまいか考えあぐねいていると、突然部屋の襖が開いた。その拍子に驚いて送信ボタンを押す。


「あーーーーっ!! 」


 即座に中止ボタンを押そうとしたが、携帯を見事落っことして送信されてしまった。


「な、何? どうしたの? 」


 いつもどおり部屋に入ってきた弟の考二が戸惑った様子でこちらを見ている。俺は恥ずかしさと後悔のあまり考二に攻め寄った。


「お前入る時くらいノックしろよ! ああ、メール送信しちまったじゃねぇか……」


 涙目で落ちた携帯電話を見つめる。穴があったら入りたい。まさにこの状況をさすのではないか。


「悪かったよ。ごめん、もしかして携帯壊れちゃったの? 」


 自分が壊してしまったのかと考二が携帯を拾い上げる。その瞬間に、画面が光った。


「わっ、よせ! これ以上俺に恥をかかせるつもりか! 」

「へぇ、みおって言うんだ」


 考二がすかさず名前を読み上げる。俺は考二を一発殴ってから携帯を取り返した。


「お前、今度見たらただじゃおかねぇぞ」

「壊れてないか見ただけじゃないか」考二が乱れた髪を戻す。「それよりメール届いたみたいだけど」


 そうだったと、俺は片目をつむってそっと本文を開けた。どきどきしながら両目で確認する。


『 件名:ふふ

  本文:わかりました。その条件をのんでくれるのなら、私も頑張ります。でも、なるべく人混みが少なく、時刻も夕方頃がいいです 』


 本文を読み終えた俺は、うおーっとその場で喜びの雄叫びをあげた。やった、もう一度みおに会える! デートだデート! 生まれて初めてのデートだ! 俺はついさっき考二を殴った事も忘れて踊りだした。その様子を考二が冷ややかな目で見つめていた。


「怒ったり喜んだり……礼二兄ちゃんは忙しいね」






『 件名:日時ですけど

  本文:今年中は無理でしょうか? 冬休みに入った方が都合いいですか? 』


『 件名:えっと

  本文:期末テストもありますし、テストが終わった次の週くらいで。場所はどうしましょう? 』


 期末テスト。そう言えばそんなものがあったな。俺は恐ろしい現実を目の当たりにしたかのように、考二の机に貼られたカレンダーを睨みつけた。今日が十二月四日の月曜日で、期末テストは十二月十二日からの四日間。あれ? でもみおとはそもそも学校が違うのだから、俺の基準で考えちゃ駄目か。

 みおとどこへ行こう。先程のメールに書いてあったように、なるべく人が少なく、夕方からでも楽しめるような所……結構条件が厳しく、限られてくるなぁ。


 俺は散々悩んだ結果、無難な映画しか思いつかなかった。一緒に映画を見て、食事をし、別れ際に告白する……よし、それで行こう。自己完結後、俺はみおとメールで交渉し、日時と待ち合わせを決めた。日時は十二月十六日の土曜日、午後四時に名古屋スクエアシネマの劇場前。随分と街中な気もするが、みおが名古屋の方が出やすく、他の友達に見られたくないとの希望だったのでそこで合意した。確かに地元では、他の連中に見つかる可能性が高い。ただでさえ自分は目立つらしいので、知り合いに冷やかされるのだけはなんとしてでも避けなければならない。


 俺はその日を待ち望みながらおやすみメールを送った。みおはどんな格好で現れるのだろう。帽子を被ってくるだろうから、きっとそれに似合うファッションをしてくるに違いない。あの時電車で見たような、ちょと年上風の格好でくるだろうか。それとも可愛いふりふりな感じか。どちらにせよ、みおは何でも似合いそうだ。

 俺は布団の中でたくましく妄想を働かせながら眠りについた。


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