Kapitel.8
帰り道。真央と秀は並んで帰る。
「んで、いきなりどしたの?」
真央より背の高い秀に、真央は見上げて訊く。
「え」
「いきなり告白だなんてさ」
「別に、いきなりってわけじゃないよ。前から考えてはいたし」
「考えてただけでしょ。行動はしなかったじゃん」
「まぁ」
「何かあったの?」
「……」
真央が訊くと、秀は俯いて黙り込んでしまった。そんな秀に、真央は肩を竦める。
「ま、言いたくないなら良いけどさ」
それから秀が口を開いたのは、電車に乗って暫く経ってからだった。
「俺って嫌な奴だよな」
「え?」
「悪いことだってわかってた。わかってたけど、抑えられなかった。」
「……」
問い詰めても無駄だと思った真央は、ただ秀の言葉を聞いている。
「…俺が真剣にあいつに告白しようと考え始めたのは、悠翔がいなくなってからなんだ」
低く小さく、呟くように言う。
真央の体が小さく震えた。そんな真央を見て、秀は眼を伏せる。
「大人になっても一緒にいれると思ってた。なのにいきなりいなくなっちまって……。俺、怖かったんだ。佑月が悠翔みたいに突然俺の前からいなくなったら、って考えると。怖くて仕方なかった」
「……」
「本当にごめん。俺って自分勝手だよな。こんなこと言って、真央が傷付くことくらい……」
「良いんじゃない?」
俯き泣きそうになる秀を遮って、真央は明るく言った。
「…え」
秀が顔を上げると、笑顔の真央が眼に入った。
「良いと思うよ。間違ってない」
「…、お前何言って……」
「だってさ、本当人間なんていついなくなるかわからないんだよ。早めに自分の気持ちを伝えようとするのは、間違ってない」
「……」
「秀は間違ってないよ。勇気出して」
そう言って真央は秀の肩に手を置く。
秀は弱々しく微笑んだ。
「…ありがとな」
「ほら、しっかりしてよね。明日ちゃんとしなさいよ」
「わぁーってるよ」
この時はまだ何も知らなかった。
明日が人生の分岐点で、迷路に迷い込む第一歩だったなんて、誰も知る由もなかった。