Kapitel.6
真央は呆然と突っ立っていた。一瞬、朝だから頭が回っていないのかと思った。
一つ、大きく深呼吸してから言う。
「何があったの?」
「いやぁ、あたしもよくわからないんだよ」
駅へは真央の家の方が近い為、佑月が真央を迎えに行く。いつものように家を出ると、佑月の隣に秀がいた。
「…とりあえず行こうか」
疑問を残しながらも、真央は二人を誘導する。
小学校の時から、秀が佑月と一緒に真央の家まで来た事など一度もなかった。寧ろ、同級生の男子に冷やかされるのが嫌だと言って秀が避けていたのだ。
「んで、突然どうしたの?」
暫く歩いて考えても答えは出なかったから、真央は単刀直入に秀に訊く。
「別に。一人で行くとどうにも遅刻しそうになるからな。電車使うし、遅れるわけにもいかねぇだろ」
「なんか上手く使われてるような感じなんですけど」
「そりゃそうだ、使ってるもんだから」
「うっわ」
一人増えただけで、賑やかになる。
真央は佑月に小さく冷やかした。
「良かったじゃん、好きな人と登校できて」
そんな真央に、佑月は小さく牙を剥く。
「じゃあ私たちも使わせてもらおうかな」
「げ、何するつもりだよ」
考えるように言う真央に、秀が顔を顰める。
「ボディーガード」
「あ、良いね。そうしよ!」
真央の提案に、佑月が嬉しそうに言う。
「何でだよ」
「良いじゃん、秀。か弱い女の子二人くらい守ってよ」
佑月の科白に、冷たい目で二人を見る秀。そして小さく呟いた。
「か弱い女の子…、ねぇ」
「何よ!なんか文句あるわけ?」
「本当にか弱い女の子なら守ろうとか思えるのにな」
「あたしがか弱くないって言うの」
そんな二人のやり取りを優しく微笑みながら見る真央には、哀しさが映っていた。
教室に入り、席に着いて鞄を開いて真央は気付いた。鞄の中に、小さな手紙が入っていることを。
「……」
無言で紙を開いて内容を理解してから無言で閉じ、忘れないように再び鞄の中に入れた。
「…、え、なんで?」
その送り主と内容に、真央は何度考えても疑問しか残らない。
「ねぇ、真央。明日って空いてない?」
「えっ」
突然佑月が話しかけてきた為に、真央は素っ頓狂な声をあげる。
佑月は真央が考え事をしていたのはわかっていたが、悠翔のことを考えているのかと思い、わざと元気良く言った。
「明日って日曜日だよね。多分大丈夫だけど。何かあんの?」
「買い物したいの。服が欲しくてさ」
「あー、いいよいいよー。どうする、何時から行く?」
「九時くらいに真央の家行こうか。あそこのスパゲッティ食べたいし」
「ほーい。あ、話変わるけど、今日先帰っててくれない?」
真央の言葉に、佑月は心底驚いたように見せる。
「え、なんで」
「ちょっと用事ができちゃってさ。ごめん」
「あ、そう…。わかった」
本当はもっと追求したかったけれど、たまには一人で帰りたいかもしれない。
昨日も悪いことしちゃったし、ここは素直に引き下がろうと佑月が考えた時、突然耳に息を吹き付けられた。
「うわっ」
お決まりのように佑月が飛び跳ねる。
「さ、沙紀!何してるの!」
「ははー。良い反応だねー。そういう反応してくれると嬉しいよ」
佑月の後ろで、沙紀が楽しそうに立っている。
「もう!吃驚したじゃん」
「吃驚させたんだもん。真央は反応しなさそうだからさ」
沙紀の言葉に、真央は苦笑する。
「よくわかったね。真央、こういうの強いんだよ」
「でしょ。その点佑月は弱そうだもん」
「やってみれば?」
楽しそうな沙紀に、不敵に笑いながら真央が言うと、沙紀は即構える。
「ちょ、虐めは駄目だよっ」
そう言いながら佑月が一歩後ろに下がった時、チャイムが鳴った。