Kapitel.5
「どう思う?」
去っていく真央を見ながら、秀が言った。
「怒ってると思う。いつにも増して歩くの速いし…」
「え、あぁ、そうじゃなくて」
「え?」
「さっきの、本音だと思うかって」
「あぁ」
真央の姿が遠くなると、二人は家路に着く。
「本音ではあると思うよ。けど……」
言葉にならない佑月の言葉を秀は理解する。
「だよな。口ではああ言ってたけど」
「好きな人がいなくなるなんて、あたしには考えられないもん。あたしには真央の悲しみはわからないと思う……」
「じゃあそんな話するなよ。二年経ったとは言え、そんな話してあいつがどうなるかくらい想像できるだろ」
「だって……」
「まぁ、真央も口ではああ言ってたけど悲しんでるはずさ。夜でにも電話すれば?」
「そうだね。なんか、悪いことしちゃったかな」
「だろうな。でもま、明日には戻ってるだろう」
「真央だもんね」
そう言って、佑月は力なく微笑んだ。
『何?』
真央の第一声には棘があった。
「あ、いや…。特に用は……」
家に帰り、夕食を終えてから佑月は真央に電話してみた。
『用がないなら切るよ』
「え、あ、ちょっと待って」
あっさりした真央の言葉に、佑月は慌てて言う。
『何よ』
「あの……」
引き止めたはいいが言葉が見つからない。
真央も忙しくはないらしく、それから何も言わなかった。佑月はもう何言っていいかわからず、静寂が二人を襲う。
そんな静寂を破ったのは真央だった。
『悠翔ね、毎日のように日記を書いていたんだ。それをさっき読み返してたの』
真央の言葉に棘はなかった。寧ろ優しささえ感じられる。
『あいつさ、私と出かけた場所とか、細かく書いてるんだよね。それを読むだけで、愛情が伝わってくるくらいに』
佑月は日記帳の件は初耳だったが、悠翔が日記を書いている光景は容易に想像できた。
『私も覚えてないようなこともさ、悠翔は大切にしてたんだなって、本当に……』
真央の言葉が途切れる。泣きそうになるのを我慢しているようだった。
「真央…」
『佑月の言う通りだよ。もしかしたら悠翔は生きてるかもしれない。けど、もし生きてたとしたら、どうして私の前に現れないのかな』
それが限界だったらしい。
真央の泣き声が聞こえる。佑月が何を言っても、佑月の声は届いていないかのように真央は泣き続けた。
『姉ちゃん、どうしたの?』
電話口から、真央の弟である一樹の驚いたような声がする。
佑月は電話を切った。そして、ディスプレイを眺めながら呟く。
「我慢し過ぎだよ」