Kapitel.50
「真央!」
一年後のある朝、いつも通り学校へ行くために真央の家に来た佑月は、真央を見ると大声で叫んだ。不意を吐かれた真央は、つい後ずさりをする。
「あんた、なんてことを秀に吹き込んだのよ!」
「……え?」
真央は首を傾げる。佑月の言っている意味がわからなかった。
「何の話?」
真央が訊き返すと、佑月は顔を赤くさせた。
「あの話じゃないかな」
秀に呼ばれ家から出てきた悠翔が笑いながら言う。
「やっと告白したんだろ。一年使うとかありえないと思うけど」
悠翔の言葉に、秀が「うるせえ」と小さく呟く。
「あっ」
真央は小さく声をあげてから、秀に訊いた。
「え、あれをしたの?」
秀は佑月と同様に顔を赤く染めながら小さく頷く。
「ほんとに!?」
「やれって言うからっ!」
「え、でもさ」
真央は佑月に向き直った。
「嬉しかったでしょ?楽しかったでしょ?」
佑月は息をのんで、それでも恥ずかしそうに頷く。
「ほらほら!そんなもんなんだって」
「でも、よくあんなこと秀に言ったよね」
「まぁね!私も嬉しかったし、佑月にも同じ思いしてほしかったし」
「……まさか楠本がするとは思わなかったわ」
佑月は、複雑な気持ちで悠翔を見る。
「悪いか!別に良いじゃんか!」
「私が良いんだから良いんだよー。ねっ」
真央は悠翔に笑いかける。悠翔は恥ずかしそうに頷いた。
「でも、本当に凄いと思う……。二人に薦められなかったら絶対に俺やらなかったし」
秀もじっと悠翔を見る。
「そんな眼で見るなよ!……この際だから言うけど、めっちゃ緊張したんだからな」
「だと思う」
真央と秀と佑月は、悠翔の言葉に一斉に頷いた。
「私にも緊張が伝わってきたくらいよ」
「秀も緊張してたよね」
佑月はからかうように秀を見る。秀は恥ずかしそうに叫んだ。
「あっ、あったりめーだ!緊張しないわけがないだろ!」
「でも、これで本当の一件落着だよね。一ヶ月も経ったけど、秀もやっと告白したし、悠翔も高校に行けたし」
真央はほっと一息吐いた。
「こんな日々がまた来るなんて、信じられなかったよ」
しみじみ言う真央に、三人は顔を見合わせた。
空気を察さないと、真央は悠翔に手を差し伸べる。
「んっ!」
悠翔は笑って、真央の手を握った。二人で並んで歩く。
そんな二人を見て、佑月は小さく呟いた。
「良いなあ」
秀は佑月を片目で見て、空を仰いだ。そしてさり気なく佑月の手を握る。
「!」
佑月が驚いたように秀を見ても、秀は顔を合わせようとしなかった。佑月は満面の笑みを浮かべる。
後ろを向いて二人を見た悠翔と真央は、笑い合った。
「今日は雪が降るよ。珍しく秀が積極的だもの」