Kapitel.49
「一件落着、と幸せそうな時に悪いんだけど。問題が残ってるんだ」
翌日の月曜日、真央が家に帰ると、秀から電話がかかってきた。内容は言わなかったが、話がしたいと言う。
悠翔がいることを了承し、秀が家に来ることになった。
そして秀は真剣な顔でそう切り出した。
「問題って……え?」
真央と悠翔は顔を見合わせる。秀はじっと真央を見て言った。
「…覚えてないか?」
「……テレパシーで送って下さい」
真央が真剣に言うと、秀は溜息を吐いた。
「……佑月のことなんだけど」
「あぁぁあああああああっ」
秀が俯きながら小声で言うと、真央は大声を出した。
「……思い出した。つかごめん。忘れてた」
「だと思ったよ」
秀は苦笑する。
悠翔は二人を交互に見た。
「え、なんの話?」
真央が秀を見る。秀が頷くのを見てから、真央は笑顔で悠翔に言った。
「秀の奴、やっと佑月に告白する気になったんだよ」
「えぇっ。まだしてなかったのかよ」
「………」
正直に驚いたような悠翔に、秀は何も言えなくなる。
「んで、少しは自分で考えたの?」
「それが、全く思い浮かばなねぇんだよ。いつどういう時に告ったら良いんだ…」
秀が溜息混じりに頭を掻く。
「あ、二人だけの秘密の場所とかは?」
悠翔の言葉に、秀は唸る。
「秘密の場所はねぇなぁ…。お前等は告白とかあったのかよ」
「え」
秀が興味津々と二人に迫る。二人は顔を赤くして見つめ合った。
「……まぁ、それなりに?」
「どこで、どんな風に?」
「えぇええ。言うの?それ」
「参考にするんだよ!」
「えー……」
乗り気じゃないような悠翔。真央は苦笑しながら言った。
「場所はあの丘だよ。あそこが私たちにとって誰にも邪魔されない秘密の場所だったし。夕日をバックに、今思えば悠翔も相当動揺したよねぇ」
「そ、そりゃあそうだよ!あんなはっきりと言ったのは初めてだったし……」
「あ、プロポーズの言葉はなんだったんだよ」
「それは訊かないでくれ……」
秀が訪ねると、悠翔は顔を真っ赤にして俯いた。そんな悠翔を、真央がさりげなくフォローする。
「言っとくけど、プロポーズの言葉は自分で考えるんだよ?」
「えっ、なんで?」
真央がさも当たり前のように言うと、秀は目を見開いた。
「なんでって…。むしろ私が聞きたいわよ。なんで私がプロポーズの言葉なんか考えないといけないの」
「え、でも、ヒントとか……」
秀が頼むように言うが、真央は切り捨てる。
「馬鹿!他人に作られたプロポーズなんて貰ったって嬉しくないの!あんたの素直な想いで良いんだから」
「んまぁあ、それもそうか……。じゃあ、いつが良いだろう。放課後とかか」
「定番だけどね。手としては、家っていうのもあるよ」
「家か……。いまいちピンとこないけど」
「でもさ」
真央は妖しく笑って、秀の耳に口を寄せて何やら囁いた。一瞬で秀の顔が赤くなる。
「なっ……。おい、何を言って……!」
悠翔は察してしまい、うなだれた。
「悪くないでしょ!絶対佑月喜ぶって!」
「なんでそんな楽しそうに言うんだよ……」
「え、だって。楽しかったもん」
「……え」
真央の言葉に秀は眉を顰める。悠翔が恐る恐る真央を見た。そんな悠翔ににやりと笑って真央は言う。
「悠翔が……」
「言うなぁぁあああああっ」
悠翔は真央に飛び乗って真央の口を塞ぐ。
「絶対それ以上言うな!」
悠翔が顔を真っ赤にして言うが、秀は顔を手で覆う。
「ごめん、もう手遅れ」
秀が言うと、悠翔は真央のベッドの上の枕に顔を埋めた。
「なるほど。そういう……。ごめん、悠翔。俺お前のこと見くびってたかもしれねぇ。見直したわ」
「見直すな!見くびっててもらって構わない!」
「いや、でもまさか……」
「でしょ。私も最初は吃驚したけど、結構嬉しかったもん。だからさ、ねぇ、どうよ」
真央が推すと、秀は暫く考えて頷いた。
「そうしようかな……」
「おお!うわぁ、見たいわ」
「絶対見るな!」
秀だけじゃなく、悠翔も叫ぶ。真央は舌を出しておどけてみせた。
「冗談だよ」
「夏紀さんに、もう会うのはやめようって言ったの?」
秀が帰ってから、真央は悠翔に尋ねる。
「うん」
悠翔は頷いた。
「だって、これからも夏紀と会うことになったら、真央嫉妬しちゃうでしょ」
無邪気に言う悠翔に、真央は何も言えなくなる。
「……別に、嫉妬するからって殺したりはしないよ」
「うん、それは絶対に止めろ。んでもって、冗談なのかわからんことを真顔で言うな」
悠翔は真顔で突っ込む。真央は笑った。