Kapitel.4
「絶対なんかあるよね」
部活が終わって電車に乗ると、佑月が唐突に言った。
「え、何が?」
「沙紀よ沙紀。恋話の件でさ」
「あぁ。何の話かと思った」
「あたし、ずっと考えてたんだよ」
「部活中もずっとかよ…」
真央が呆れて言う。
「だって気になるじゃないか」
「まぁ、確かになんかありそうだったけどさ」
「だしょ。どうする、聞き出す?」
「ちょっとちょっと。それじゃあ沙紀と変わらないでしょ」
楽しそうな佑月に、真央は冷たい視線を突きつける。
「え?」
「沙紀だって言いたそうじゃなかったじゃん。それを聞き出すのはあの時の沙紀と一緒よ」
「あぁ、そうか」
「別に、聞き出したいならどうぞ。私は参加しないけど止めはしないわ」
「え、なんで。真央はそういうの嫌じゃないの?」
「大嫌い。けど、沙紀は私たちに聞き出そうとしたでしょ。そんな沙紀に聞き出そうとするのを止めようとは思わないな」
「ふーん。でもま、真央がやらないならあたしもしない。真央がいなかったら絶対聞き出せないもん」
「お好きにどーぞ」
「でもさ、気になるよね。あれはただ初恋が終わっただけじゃないと思うんだよなぁ」
佑月が独り言のように言う。
「……私と同じだったりして」
真央が、小声で呟いた。
佑月が真央を凝視する。佑月は、数秒時が止まったかと思った。
「え、え……」
「ん」
混乱してる佑月に、何事もなかったかのような笑顔を向ける真央。
佑月は、その笑顔が偽りだということにすぐに気付く。
「それって……、え」
「知らないけどさ」
未だ混乱してる佑月に対し、真央は素っ気なく答えると同時に席を立った。二人の最寄り駅に着き、扉が開いたのだ。
電車を降りて、外へと出る。
暫く歩いて、別れ道に着くと佑月が言いにくそうに切り出した。
「ねぇ、真央…」
「ん?」
「……もしも、もしもさ。楠本が生きてたらどうする?」
佑月が地面を見ながら恐る恐る言った。
真央の動きが止まる。見ると、真央の脚が微か震えているようだった。しかし、それも束の間。真央が無理に笑顔を作って言う。
「そうね。思いっきり甘えたいかな」
そんな真央を見て、佑月は本当に申し訳なく思った。しかし、そんな思いもこの後の真央の科白で消える。
「例え話なんてやめよ。あいつはもう……」
「…、死んでるって言うの?」
真央の科白を遮って、悲しそうに佑月が言う。真央は言い返せなった。
「死んだかなんてわからないよ」
「じゃあ、死んでないなんて言えるの?」
「死んでないかもしれないって話。だって遺体も発見されてないんだよ」
「遺体が発見されてようがなかろうが、関係ないよ。問題はあいつが……、悠翔が私の前にいないことなんだから」
「なんでそうなるの?生きてるだけでも良いじゃない」
「例え悠翔が生きてても……。私の近くにいなきゃ意味ない」
真央に睨まれ、佑月は何も言い返せなかった。
「その辺で終わりにしたら?」
タイミングを見計らってたのか、角から誰かが出てきた。
「秀…」
その人物を見て、佑月が呟く。
「確かに佑月の意見も一理あるけどさ。当事者にしかわからない気持ちってのもあんだろ。俺たちがあれこれ言う筋合いはないと思うけど」
そう言って秀は、それ以上二人が何も言わないとわかると、この話を強制終了させた。
「さ、もう帰ろうぜ。真央の言う通り、この話の例え話はしない方が良いよ」
「そうだね。じゃ、明日」
秀に続いて真央が笑みを浮かべ言い、振り向くことなく歩いていった。その背中が、怒っているようにも見えたけれど、悲しんでいるようにも見えた。