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Kapitel.47


 手術中、というランプが消える。

 真央や沙紀、夏紀に加え、駆けつけた一樹、秀、佑月、そして美波は一斉に立ち上がった。

 中から出てきた悠翔の左目には包帯が巻かれている。

 真央と秀、佑月は悠翔の病室まで行き、美波、一樹、沙紀、夏紀は担当医である笹野の話を聞いた。

「信じられない……」

 病室で、佑月が溜息とともに呟く。

「こんなことになるなんて」

「そういえば、真央は大丈夫なのか」

「うん……。悠翔が守ってくれたから」

 悠翔の寝顔を見ながら真央は答える。その時、ぞろぞろと五人が戻ってきた。

「全力は尽くしていただいたけど……、視力は戻らないと覚悟してほしいって」

 美波の言葉に、秀と真央は眼を伏せる。

「とりあえず今日はゆっくり寝て、また明日包帯を外すらしいわ」

「でも、命に別状がなくて良かった……」

 真央が、悠翔の頬を撫でながら心の底から言う。

 美波が頷いたとき、和彦が駆け込んできた。

「悠翔は……っ」

「しっ、寝てるわ」

「……何があったんだ?」

 和彦が誰ともなく訊くと、夏紀が泣き崩れた。

 沙紀は唇を噛みしめながら夏紀を支える。そんな沙紀の手を夏紀は払い、美波と和彦の前に正座した。

「私が…、自分勝手な行動をしたせいで、悠翔さんを傷つけてしまいました。……本当にごめんなさい……」

 か弱い声で、泣きながら土下座する。

 美波は慌てて彼女を起きあがらせた。

「土下座なんてやめて。悠翔から聞いたわ。貴方が夏紀さんね。記憶のない悠翔と一緒にいてくれてありがとう。私たちがこうして悠翔に再び会えたのは貴方のおかげよ」

 そして、美波は沙紀にも言う。

「貴方は沙紀さんよね。貴方もありがとう」

 しかし、夏紀は激しく首を横に振った。

「違うんです。私があんなことしなかったら、悠翔さんはもっと早く記憶を取り戻したかもしれない。私のせいでみんなを苦しめたんです」

 どうしても頭を上げない夏紀に、困ったように美波は和彦を見る。和彦はそっと夏紀の肩に手を置いた。

「過去のことをどう言っても変わらないだろ。過去を振り返るのは良いけど、立ち止まっちゃ駄目だ。本当に反省をしてるのなら、誰も君を責めたりはしない」

「その通りだよ」

「ひゃあぁあ」

 突然に聞こえてきた声に、佑月はついしゃがみ込む。そんな佑月をとっさに秀が支えた。

「あ、ごめん」

「悠翔!大丈夫なの!」

「うん。痛くないよ」

 そう言って悠翔は微笑む。

「おかしいな。先生は明日まで起きないだろうって言ってたのに」

 同意を求めるように一樹が美波を見る。美波は大きく頷いた。

「気持ち良く寝てたんだけどね。誰かさんの泣き声で眼が覚めちゃったよ」

 みんなが一斉に夏紀を見る。夏紀は顔を赤くした。

「あ、ごめんなさい……」

 悠翔が笑ったのをきっかけに、病室に笑いが響いた。



「じゃあ包帯を外すけど……、覚悟はできてるかい」

「はい」

 笹野に聞かれ、悠翔は力強く頷く。

 笹野がちらっと真央を見たので、真央も頷いた。笹野の手によって包帯が外され、悠翔はゆっくりと眼を開ける。誰もが息を飲んだ。

「…うん。大丈夫です」

 辺りを見回して、悠翔は頷く。

「その大丈夫はどういう大丈夫なのかな。左目は見えるのかな」

「いえ……。でも、右目は見えるので大丈夫です」

 一斉にみんなが溜息を吐く。もしかしたら、という期待が裏切られたような雰囲気だった。



 それから、美波と和彦は笹野から話を聞き、悠翔は夏紀と沙紀と話をし、残された四人は屋上へ行った。

「懐かしいな。なんて、あまり良い思い出ないけど」

 真央が透き通った空を仰ぐ。

「本当、あの時はどうなるかと思ったよ」

 佑月も溜息と同時に言う。

「まぁ、一件落着ってかな」

 秀が空を眺めながら呟くと、一樹も良かったと呟いた。

 そして四人で暫く空を見上げていると、後ろから声が聞こえた。

「こんなところで何をしてるんだい?」

 四人で一斉に振り向くと、笹野は少し驚いたように苦笑した。

「あ、先生」

「いろいろあったけどさ、良かったな」

 真央を見て笹野は肩を竦める。真央は苦笑した。

「彼が噂の悠翔くんか。良い子だなぁ」

 笹野も同じように空を眺めながら言う。

「視力を失っても、前向きに生きている。後悔も何もないようだね」

「そういう奴だからな、悠翔は」と秀。

「本当、あの性格には関心するよ」と佑月。

「……もう大丈夫だな」

 笹野は確認するように真央に訊く。真央はゆっくりと頷いた。

「悠翔は大丈夫なんて言ってたけど、多分支障は出ると思う。だから、その分私がフォローしてくよ」

「悠翔くんのご両親が言ってたんだ。悠翔くんのことは真央ちゃんに任せるってね」

 笹野は笑いながら言う。真央も微笑んだ。

「まぁ、頑張れよ。自殺なんか絶対するんじゃないぞ」

「もう大丈夫だって。先生は心配性なんだから」

 真央がからかうように言うと、笹野は頷く。

「まぁ、そうだな。うん。じゃあ一樹くん、悠翔くんのことも含めて真央ちゃんのことを頼むぞ」

「姉ちゃんのこと信用してないでしょ」

「頷いたあとに何を言うんだか」

「絶対矛盾してるって」

 一樹と佑月と秀が突っ込むと、笹野は豪快に笑って去っていった。

「もう大丈夫だよ」

 そんな笹野の後ろ姿を見ながら、真央は強く頷いた。




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