Kapitel.43
目が覚めると、頭痛が治っているように思えた。身体もそう重くない。熱を計ってみると、三十七度三分だった。
その時丁度一樹が部屋に入ってきた。
「起きてたんだ。大丈夫なの?」
「おかげさまで三十七度三分まで下がったよ」
真央の科白に、安心したように息を吐いた一樹だが、少し考えてから叫んだ。
「って、まだ熱あるじゃん!」
「あ、ばれた」
「ばれたじゃないよ。大人しくしてなさい」
一樹が言うと、真央は拗ねたように口を尖らせた。
「……悠翔は」
「家に帰ったよ」
「あっ、そっか」
一樹が言うと、真央は安心したように眼を伏せた。
家のインターホンが鳴り、一樹が扉を開けると悠翔がいた。
「よっ」
「遅かったね。久々に家族でゆっくりできたかな」
一樹が言うと、悠翔は幸せそうに頷いた。しかし、すぐに表情は曇る。一樹は不思議になって訊ねた。
「何かあるの?」
「実はさ」
椅子に座りながら悠翔は言う。
「今日、真央と一緒に夏紀に会いに行くつもりなんだよ」
お茶を用意していた一樹の手が止まる。
「……え」
「あいつにちゃんと言おうと思ってさ」
「あ、え、でもなんで姉ちゃんも……」
一樹はお茶を用意するのを止め、悠翔と向かい合った。
「夏紀が話したいんだと」
「…そうか」
何か言いたそうに一樹は口を噤んだ。
「おはよ」
寝てるのかと思ってそっと入った悠翔に、真央が言った。
「あ、起きてたんだ」
「うん」
暇で暇で仕方ないの、と真央が身体をほぐす。
「ちゃんと寝てなきゃ駄目だよ」
「大丈夫だよ。熱だって下がったし、だるくないし」
「え、下がったの?」
真央が口と尖らせて言う為、悠翔は驚いて聞き直した。
「下がったんだって!」
「ちなみに何度?」
元気だった真央が、悠翔が尋ねると一瞬で倒れる。
「……三十七度三分」
「それは微熱と言うんですよ、真央さん」
「だって元気だもん!歩けるし、ご飯だって食べれるよ!」
悠翔が、何があってもご飯は食べてたけどな、と呟くと、真央は恥ずかしそうに、そんなことないもんっと頬を膨らませた。
「真央はただでさえ無茶をするんだから。今のうちに休んどけ」
「でも、暇で暇でどうにかなりそうだよ」
「精神的には元気でも、肉体的に疲れてんだよ。少しくらい休ませてあげなきゃ」
悠翔の科白に、真央は渋々頷く。
「そういえば、朝食まだなんだってな。腹減ってないのか」
「別に、昼と一緒で良いよー。そんなことより、悠翔はこれからどうするの?」
真央が真っ直ぐに悠翔を見て問う。
悠翔は一瞬言葉に詰まったが、深呼吸をしてから自分を考えを述べた。
「中学は卒業してないけど、中学卒業認定試験的なのを受けて、高校に行くつもり。夏休み明けに高校入れたら奇跡だな。なんて、そんな奇跡を狙ってるんだけど」
そう言って悠翔は苦笑する。
「それって、どうやって勉強する気なの?」
「問題集とか買ってさ。自力で勉強するよ」
「もう、何それ。私に遠慮してんの?」
え?、と悠翔が首を傾ける。真央の言葉の意味がわからないようだ。
「だから、それだったら私が教えてあげるのに。教科書だってあるし、問題集なんて買わなくても良いじゃない?」
暫く悠翔は真央をじっと見てから、突然大声を出した。
「あぁ!その手があったか!」