Kapitel.33
暗闇の中、真央は光るものを見た。
……何、あれ。
徐々に、闇が晴れてゆく……。
真央は、あまりの眩しさに眼を閉じた。実際、そこまでの明るいわけではなかったけれど、闇に比べると十分眩しい。ゆっくり眼を開けると、そこには悠翔がいる。
駆け出そうとしたが、真央は動けなかった。
悠翔が、怖い顔をして何か叫んでいる。それも、真央にじゃない。
誰に、何を言ってるの?
真央は、悠翔の視線の先を見た。そこには誰かいて、手には包丁を……。
真央は眼を見開いた。
何、これ。何が起きているの。
呆然と立ち尽くしていると、急に誰かの声が真央の頭に響いてきた。
『どうして私を見てくれないのよっ』
どこから聞こえてくるのかもわからない。
真央が辺りを見回していると、急に包丁が動いた。悠翔に向かっている。
真央は無我夢中で駆け出すが、反応が遅かった。
悠翔が、スローモーションで倒れてゆく。腹部には包丁が……。
「悠翔っ!」
真央は飛び起きた。と同時に咳込む。
部屋には、誰もいなかった。
「悠翔……」
真央は慌ててベッドから出る。階段をかけ降りて、リビングに駆け込んだ。
「あれ、どうしたの?」
悠翔がいつもと変わらない笑顔で言う。彼は台所に立って、何かを作っているようだった。
「よく寝てましたね」
真央は大きく息を吐いて座り込んだ。
良かった……。
座り込んだ真央を見て、悠翔が慌てて言う。
「どうしたんですか、そんな慌てて。お腹空いたんですか?」
「いや……。ちょっと、嫌な夢を見ちゃって」
「嫌な夢?」
きょとんとする悠翔をじっと見て、真央は頷いて言った。
「うん。あんたが殺される夢」
さらりという真央に、悠翔は飛び退いた。
「ふぇっ」
「そんで部屋にいないからさ。本当に殺されたのかと思った」
思いもしなかった真央の言葉に、悠翔はつい絶句してしまう。
なんという夢を……。
そんな悠翔を安心させるように、真央は笑顔で言った。
「良かった。生きててくれて」
「……まだ、死ねませんよ。やること沢山あるし」
そう言って悠翔は微笑む。
「記憶も取りもどなさいと」
「そう…だね」
悠翔は真央を支えるようにして立ち上がらせ、ソファに座らせた。
真央は、ふと時計を見て眼を見開く。
「に、二時!」
「うん。よく寝てたましたよ」
「マジか……」
「昼ご飯食べます?今作ってるんですけど」
悠翔が聞くと真央は笑顔で返事した。
「食べる!」
「熱はまだあるんですか?」
悠翔が台所から質問する。
「良くなってるんじゃないかなぁ。まだ頭痛はするけどね。熱は計ってないけどさ」
真央の返事を聞いて、悠翔は不安になった。