表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/51

Kapitel.28


 思い出してくれないのね。

 真央は、強くなった雨に打たれながら思った。

 もう、あの子は悠翔じゃない。私の大好きな悠翔じゃない。私の大好きな悠翔は、もういないんだ。

 雨と一緒に、涙が落ちる。

 馬鹿だな、私。

 悠翔はもういないって、わかってたのに。二年も行方が掴めなくって、諦めてたのに。

 記憶なんて、簡単に思い出してくれると思ってた。ちょっとした出来事で全てを思い出すようなアニメやドラマを、沢山見てきたから。だから、すぐに思い出してくれるって。

 私は、愚かだったんだ。そんな簡単じゃないなんて、今更気付くなんてね。ねぇ、神様。私、もう疲れたよ……。

 真央は、石に凭れながらそっと眼を閉じた。



 悠翔はただ走った。雨も何も気にしない。ただ走って、森の出口が見えて立ち止まった。

 雨が強く叩きつけてくる。

 悠翔は黒く染まっているように見える空を眺めた。まるで、自分の心のようだ。

 雨は、悠翔の涙を奪って流れてゆく。

 真央の酷く傷付いたような顔が、頭から離れない。

 なんてことを言ってしまったんだ。真央の気持ちも察してあげるべきだったのに。なのに、僕は自分のことばかり……。

 けれど、本心でもあった。

 僕を見てほしい。僕を、悠翔の代わりにしないでほしい……。

 雨に打たれたまま悠翔は眼を閉じる。

 雨と一緒に、この悲しみも流れてしまえば良いのにな……。



 どれくらい経ったかはわからない。

 悠翔は走ってきた道を振り返る。

 ……真央は、どうした?

 出入り口はここだけのはずだから、会っていないということは、真央はまだこの森の中にいるということ。この雨の中だ。視界も悪いし、地面もぬかるんでいる。それに何より、真央は今風邪を引いているのだ。雨も強く降り続いているのに、外にいたら……。

 悠翔は、丘を目指して走ってきた道を逆走した。



 「真央っ」

 真央は石に凭れていた。雨は容赦なく真央を叩きつけている。

 悠翔は真央を抱き起こした。

「………っ」

 真央は完全に冷えている。

「真央、真央っ」

 力強く揺すりながら名前を呼ぶ。しかし、真央はなんの反応も示さない。

 悠翔は、一瞬頭の中が真っ白になった。

「……嘘、だよな」

 ふと思いついて脈を計ってみる。その時。

「……悠…翔」

 真央の口から、今にも消えそうな声が聞こえてきた。

「大丈夫かっ」

「……ごめん、ね。ごめん……」

 悠翔を見て、真央は泣きながら謝る。そんな真央に、悠翔は首を振った。

「僕が悪いんだ。ごめん、本当に……」

 泣きそうになるのをぐっと堪えて、悠翔は顔を上げた。

「真央、立てるか?」

 悠翔は真央を支えるようにして、石の上に座らせる。そして真央をおぶってやると、真央は恥ずかしそうに言った。

「え……、駄目、重い、から……」

「馬鹿、この状況で何言ってるんだ」

 悠翔は一歩、歩を進めた。



 森を出て、悠翔は迷った。

 真央の家はどこだろう。

 そんな悠翔を察して、真央は家の方角を指す。

「こっち……」

「あ、ありが……」

 悠翔が言う途中に、指した真央の手が、だらりと落ちた。

 やばい。

 悠翔は真央が示した方へ歩き出す。

 なるべく早く、早く……。

 歩いていると、交差点にぶつかった。悠翔は迷うことなく右へ曲がる。

 悠翔は無我夢中で歩いて、一軒の家に辿り着いた。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ