表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/51

Kapitel.26


 やっぱ会わない方が良いのかもしれないな……。

 家に帰り、悠翔は思った。

 自分と会うと、真央は必ず悲しい顔をする。自分と似てる悠翔を思い出してしまうのかもしれない。

 だったら、会わない方がいいだろう。 

 悠翔はそっと眼を閉じ、唇を噛んだ。

 その時、悠翔の携帯にメールが届いた。悠翔は真央かと思い、勢い良く携帯を開く。

 送り主と内容を見て、悠翔は眼を伏せた。



「……待たせてごめんなさい」

 悠翔が約束の場所に行くと、既に夏紀は待っていた。

「ううん。来てくれただけで良い」

 そう言って夏紀は微笑む。

 今日の夏紀は、やけに大人っぽかった。いつもの夏紀とは全く違う。一目で、勝負に出たのだとわかった。

 昨日、メールの送り主は夏紀だった。内容はデートがしたいとのこと。真央のことを忘れたいのもあって、悠翔はそれを承諾したのだ。

「今日は思いっきり楽しもうね」

 夏紀はそう言うと、悠翔の腕に自分の腕を絡ませる。悠翔は曖昧に笑った。


 どうも宜しくない。どうしてか夏紀といても楽しいと思えない。むしろ、罪悪感が残ってしまう。真央のことが頭から離れず、つい上の空になってしまっていた。

 そんな悠翔に気づいていたものの、夏紀はわざと元気良く振る舞う。

 結局、この日はただショッピングモールを歩き回っただけだった。




 あれ、なんだろう。これは、夢だろうか。

 僕は遊園地にいた。隣に、誰かいる。顔だけぼやけて、輪郭が掴めない。けれど……、女だ。

 あ、そうか。この人が、僕の好きな人……。

 真央なのか、それはわからないけれど、二人が愛し合っていうのは十分感じられた。隣にいる彼女が、僕に話しかける。僕が何かを答えると、彼女は笑った。幸せそうな二人。


 気付くと、電車にいた。僕はなんだか嫌な予感がしていた。けれど、そんな気分を紛らわすかのように、僕は隣にいる彼女と話している。

 隣の彼女は、さっきの人だろう。彼女は幸せそうに僕に話しかけている。突然、電車が揺れた。彼女が僕の手を強く握った。僕は、彼女を守るように抱きしめて-。



 悠翔は飛び起きた。頭が痛い。

 さっきのは……僕の記憶なのか。僕は電車に乗ってて、事故に遭って…。

 けど変だな、僕は彼女といたんだ。悠翔はいなかったはず。悠翔は、もっと昔に亡くなってたのか。

 悠翔は起きあがってカーテンを開ける。

 今日の天気は曇り。今にも雨が降りそうだ。

 考えれば考えるほど矛盾している気がするし、頭が痛くなる。

 ……忘れてみよう。

 悠翔は曇天模様の空を眺めながら思う。

 真央のことは考えない。真央とは会わない。真央のことは、遠くから見守っていれば良いだろう。きっと、それが真央の為なんだ。真央が苦しまない方法なんだ……。



 ふと気付いて、悠翔は呆然と立ち尽くした。

 ……僕は、いったい何をしているのだろう。どうして、こんな場所なんかに……。

 悠翔は、あの丘に来ていた。

 悠翔は頭を抱える。こんな所に来たら、真央のことを思い出すに決まっているではないか……っ。

「………」

 ふと、後ろに真央がいる気がして振り返るが、人の気配さえなく。

 悠翔は溜息を吐いて、石の上に座った。

 空は曇っていて、辺りが暗く感じる。携帯を見ると、今は三時過ぎ。

 ただただそこから見える町並みと空を眺めるうちに、悠翔は何かを思い出せそうな気がしてくる。こんなにも懐かしいなんて……。

 ひんやりとする風に当たりながら、悠翔はいつしか眠ってしまった。


 『わぁ、綺麗!こんな近くにこんな場所があったなんて!』


 『その二人、幸せになれたのかなぁ』


 『私たちが結婚したら、悠翔が料理担当だね』


 『ありがとう!一生大切にする!』


 『もう、良いじゃない、恥ずかしがらなくても』


 誰の声だろう。懐かしい声……。


 『誰にも邪魔されなくて済むし、ね』


 『……馬鹿』


 『ねぇ、約束して。ずっと、一緒にいてくれるって』


 『もう。悠翔は優しすぎるよ』


 『私も好きだよ、悠翔』


 ふと眼を覚ます。

「ほああ。あれ、寝てたのか」

 無意識のうちに携帯を見ると、十五時と表示されていた。

「五時か……。て、ええぇえぇ。二時間も寝てたの?」

 眼を擦って再び見ても、時刻が変わることはなく。

 ただ、風が更に冷たくなったような気がした。

「あぁ、もう帰ろう……」

 そう呟きながら立ち上がって、悠翔は固まる。

 ……折角ここまで来たんだし。いや、でももう真央には会わないと決めたんだ。けど……。

 しばらく考えて、ダメ元で電話してみることにした。

 電話ってこんな緊張するものだったっけ。

 そう思っていると、電話口から真央の冷たい声が聞こえた。

『…何』

 電話口から、げほげほと聞こえてくる。

「……え、風邪ですか?」

『ちょっとね。大丈夫、大したことじゃないから』

 そう言う声の次に、大きな咳が聞こえてくる。

 あまり大丈夫には思えないな……。

『で、何よ』

「へ、あ、えっと……」

 どうしよう、会いたいなんて言ったら会えるのかな。でも、風邪引いてるなら駄目だよな。天気だって危ういし、いつ雨が降ってくるかだってわからない……。

『ちょっと、聞いてるの?』

 悩んでいると、真央の怒ったような声が聞こえてくる。

 悠翔は慌てて言った。

「あ、あの、今丘にいるんです。良かったら会えないかと……」

 言ってから悠翔は少し後悔した。これで風邪が悪化したらどうしよう。それに、もう会わないと決めたのに…。

 悠翔が前言撤回しようとしたら、突然電話が切れた。

 「……えぇええぇぇぇぇぇ」

 悠翔は呆然と携帯のディスプレイを見る。

 …なんで?





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ