Kapitel.21
暫くして、真央が焼きそばを食べ終わった頃。家のインターホンが鳴った。
「あれ、今日誰か来る予定でもあったの?」
「さぁ…?」
一樹が首を傾げながら玄関まで行く。
「あ。姉ちゃん、秀さんたちだ」
「え」
一樹がドアを開ける。そこには秀と佑月が立っていた。
「っ、真央!」
「え、どうしたの?」
「……大丈夫なのか」
「へ」
秀の科白に、真央はぽかんとする。
一樹は全てを察し、秀と佑月を招き入れた。
「どうしたのよ、二人とも」
「いや、まぁ」
ソファに腰を下ろし、真央は早速訊く。そんな真央の質問に、佑月と秀は顔を見合わせて答えない。
一樹はくすりと笑って言った。
「大方、佑月さんが秀さんに悠翔さんのことを話したんじゃないんですか。それで、また姉ちゃんが無理をするかもしれないって心配してくれたんでしょう」
三人が驚いたように、台所にいる一樹を見る。
「え、そなの?」
「あ、あぁ、まぁ……」
佑月が言葉を濁した。
「……ごめん、どうしても耐えられなくて。あれからどうなったのかもわからなかったし・・・・・・」
「いやいや、謝ることじゃないけど」
一樹がお茶をそれぞれ配る。
「ねぇ、あれから何があったの。なんか良いことでもあった?」
佑月が問い詰めるように訊く。真央はそれをひらりとかわした。
「んー。良いことはなかったかなぁ」
「の割になんか元気だよな」
秀の言葉に真央と一樹はお互い眼を合わせ、笑った。
「一樹に相談したの。そしたら楽になったわ」
そう言って、真央は悠翔から訊いた記憶をなくした経緯を話した。
「懐かしい、って言ったのか」
最後まで聞いた後、秀が確かめるように訊く。真央は頷いた。
「てことは、微かな記憶があるってこと?」
「かも、しれない。けど、相手が悠翔だからね。何を考えてるのかわからなかったよ」
真央は肩を竦める。
「でも確か、悠翔と初めて会ったのはあの丘だろ。あいつ、少しは記憶残ってんじゃねぇか」
「あ、そうだよね。あんなとこ、なんとなくで行ける場所じゃないし」
秀の意見に佑月が同意する。真央も考えるように言った。
「まぁ、その可能性はあるかもね。でも、思い出したわけじゃないよ。問題は……」
真央が顔を歪めながら言う。
「沙紀、だよね」
その言葉に、空気が重くなる。
「明日どうしよう。あんな別れ方しちゃって…。しかも、沙紀は楠本のこと……」
「違うよ。沙紀が好きなのは悠翔じゃない。龍さん、だよ」
真央がはっきりと言う。
佑月はそうだね、と答えた。
「ねぇ、明日どうする?沙紀、話しかけてくるかな」
「悠翔について訊くんじゃねぇの、普通は」
「正直に言うんですか?」
一樹の言葉に、三人は黙り込んだ。
「だって、本人だって何も知らないのよ。言わない方が良いんじゃないかな」
「でも、絶対怪しんでるだろ」
「言ったら駄目でしょ。お姉さんから楠本に通じちゃうかもだし……」
「問題は、黙ってるとしてもなんて答えるかだよね。知らない人、なんて信じないでしょ」
「そりゃあ、まぁ……」
「知らない人、という嘘はばれるでしょう。いっそのこと、知り合いだと言っちゃった方が…」
一樹が提案する。
「知り合い、で沙紀に通じるかな……」
「まして、沙紀はお姉さんの恋を応援してるからね。もしかしたらお姉さんのスパイとしていろいろと訊かれるかも」
「どうする?」
「……あんたには関係ないでしょ、ってどう?」
「駄目っ」
真央の提案に、三人は即却下する。
「だよね…」
「言えないって言えば?」
「そんなこと言ったら余計不信に思うだろ」
「まぁ、考えたって仕方ないし。言わない方向でいこう。悠翔には本名も伏せてあるから、何も言わないようにね。沙紀の前では龍さんだよ」
真央が、締めくくるように言った。