Kapitel.15
「話っていうのは、悠翔のことなんだけど」
そう言って真央は話し始めた。
「あの丘に行ってきたんだよ。やっぱ、いろいろ思い出しちゃって、思い出に浸ってたらさ」
ここで言葉を切る真央。自分を落ち着かせる為か、大きく深呼吸をする。
そんな真央を秀と佑月は静かに見守っている。しかし、次の真央の言葉を聞いて叫ばずにはいられなかった。
「……悠翔に会ったの」
「え、えええぇぇぇえ」
秀と佑月がはっとして口元を抑えた。
真央も俯いたまま何も言わない為、沈黙が続いた。
「……本当なのか」
秀の言葉に、真央は俯いたまま頷いた。
「え、どうだったの?」
佑月が恐る恐る訊く。訊かずにはいられなかった。
「予想通りだったよ」
「……記憶喪失ってことか」
顔を上げ、真央が弱々しく微笑む。
「何も覚えてないんだって」
「でも、悠翔はあの丘に来たんだよな」
「なんか、懐かしさで歩いてたら着いちゃった、みたいな感じらしいよ」
「ってことは全く覚えてないわけでもないのか……」
呟くように言う秀。
「それから…どうしたんだ?」
「ん?」
「悠翔と会って、名前とか訊いたのか?」
「それが、訊くの忘れてたんだよ。だから、なんの手がかりもないわけ」
「あ、もしかしたらまだあの丘にいたりして……!」
佑月がナイスアイデアと言わんばかりに言う。
「確かに、その可能性もなくはないけど」
秀まで同意した為に、佑月は身を乗り出して言った。
「ねぇ真央。またあの丘に行こうよ!また会えるかもしれないよ!」
けれど、真央はあまり乗り気ではなかった。
「そうだね……」
「……行かないの?」
「んー。別に良いかな」
「…え、でも……」
佑月にとっては予想外の返事だった。
「だってさ、会ってどうするの?」
「え、どうするって、そりゃあ思い出してもらって……」
「思い出すかなぁ。だって、もう二年経つんだよ」
「え、でも……」
戸惑う佑月に、真央は微笑みながら言う。
「わかってる。佑月の言いたいことも、わかるよ。けどね、何も覚えてない悠翔と会っても、傷付くだけのような気がするんだ」
真央の言葉に、佑月は何も言えなくなる。
「……真央は、それで良いのか?」
「今はそうしたいの。けどまぁ、後々後悔するだろうけど。わかってるんだけど、心がついてこないんだよ」
真央がそう言ったとき、どこからか空腹の鐘が鳴った。
二人の目が点になる。秀が、顔を赤らめた。
「あ……」
「無理もないね。もう八時半だし」
真央が時計を見ながら言う。
「もうそろそろ解散しますか」