Kapitel.0
私は何も感じなかった。
電車なんて、滅多に乗らなかったからだ。
けれど今思えば、不審に思っていた人はたくさんいたのかもしれない。
* * *
私の返事が、彼にとっての誕生日プレゼントだと言った。
けれど、私はもう彼への誕生日プレゼントを買っていたんだ。
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何も考えられなかった。
私の心は、彼がいなくなった時に死のうとしていた。
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私は左足や右腕の骨折などで済んだ。
全治三ヶ月だと診断された。
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このことを、マスコミやメディアは大々的に取り上げた。
軽傷で済んだ人や遺族たちに、あらゆる取材が来た。
テレビ出演という話を持ち掛けられた人もいたそうだ。
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夕日がきれいな場所だった。
いつの間にか、そこが私たちの思い出の場所になっていた。
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何が起こったのかがわからなかった。
ただ無我夢中で彼を助けようとした。
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彼はさらりと言った。
それは凄く自然だったけれど、彼の顔を見てつい笑ってしまった。
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私の隣に彼はいなかった。
けれど、彼のぬくもりは残っていた。
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中でも観覧車は特に混んでいた。
昼、観覧車は二時間待ちだった。
夜、観覧車の待ち時間は三時間だった。
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彼がいなくなって暫くは、私は魂のない抜け殻みたいなものだった。
リハビリにも力は入らないし、お見舞いに来てくれた人さえも記憶にない。
生きる意味が消えたと思っていた。
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彼を男だと実感する機会が多くなっていた。
それと同時に、私の中で、彼の存在が大きくなっていることにも気付いていた。
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やっとのことで観覧車に乗れた。
待ち時間は三時間と書いてあったが、実際に並んだのは二時間半程度だっただろう。
そこから眺める夜景は、凄く綺麗だった。
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風は心地よく吹き、空は雲一つない青空だった。
死ぬことに、抵抗はなかった。
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一度、自殺しようとした。
病院の屋上へ行き、飛び降りようとしたのだ。
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急に、左足に激痛が走った。
彼の声が聞こえる。
気付いたら、いろいろなものが私の視界を遮っていった。
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彼に抱きしめられながら頭を撫でてもらう時間は、本当に幸せだった。
私が泣いていた時、彼は決まってそうしてくれた。
* * *
幼なじみである私と彼は、一緒にいることが多かった。
小学生までは勿論、中学生になっても一緒にいた。
当然最初は周りからの冷やかしが多かったが、私も彼も全く気にしないんで、私と彼は既に付き合っているということになっていた。
* * *
暑い日だった。
そのせいか、彼の顔は真っ赤だった。
多分、私の顔も真っ赤だったのだろう。
吉岡真央は、目を覚ました。