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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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以て血を

”発条(バネ)足”ウリッサ

作者: 志摩鯵
掲載日:2026/07/26




3088年1(・)月(・)3(・)3(・)日(・)。

ザ・ニュース・オブ・オルビステラエが報じる。


ヤーネンドンSW19サートンホローにて、怪人現る。

踵(かかと)にバネ仕掛けを着けた靴を履いていることから”バネ足”ウリッサ。

ウリッサという名前は、記者が考えた仮名である。


彼女は、下腹部を露出した変質者で通行人の前に突如、現れた。

相手が驚くとウリッサは、満足して逃走。

この時に信じ難い跳躍力を見せたと通行人は、説明している。


記事になったのは1月33日だが最初の目撃証言は、先月2日にあった。

しかしあまりに馬鹿馬鹿しく記者も取り合わなかったらしい。

その後、何十という事件が続き、やっと新聞に載ったのである。


12月2日。

リーンズパークの集合住宅(アパート)。

トーマス・ヒルフォードがウリッサの最初の通報者である。


「えひい!?」


7階の彼の部屋にウリッサは、突如現れた。

仕事から帰って夕食を済ませたトーマスは、部屋に見知らぬ女が侵入したと話す。

少なくとも彼は、2時間部屋に居て鍵も掛かっていた。


女だと分かったのは、相手が下半身を露出していたからだという。

服装は、ハッキリと覚えていない。

フルフェイスのヘルメットを被り、顔が分からなかったことが印象に残った。


「な、なんだお前は!?

 い、いつから部屋に居るんだ!!」


トーマスは、泥棒が部屋に隠れていたのだと考えた。

自分は、逃げる隙を伺っていた泥棒と鉢合わせになった。

そう考えるのが論理的だ。


トーマスの目の前でウリッサは、窓から逃亡。

7階から道路に真っ直ぐに着地したという。


もっともトーマスは、恐ろしくて窓には、近づかなかった。

恐らく壁を伝って逃げたのだろうと警察に話している。




次の通報は、12月9日。

ピーグルハウス、オッチストリート22。

目撃者、スペンサー・ウィルワースとリリー・ボールドウィン。


ボールドウィン伯爵夫人は、男娼と連れ立って歩いていた。

そこに”バネ足”ウリッサが現れたという。


「ああん。

 ねえ、もう、ここでいいわ。」


「どうしようもねえ伯爵夫人だぜ。

 おら、しゃがんで俺のをしゃぶるんだ。」


二人がイチャついているところにウリッサは、現れた。

トーマスの話と食い違うのは、顔が見えたらしいこと。

もっとも夜道なのでハッキリ見えなかったという点では、違いはない。


「なんだあ、てめえ?」

とスペンサーは、ウリッサに向き直った。


「売女に用はねえ。

 とっとと他所に行きやがれ。」


そう言ってウリッサに侮辱的なハンドサインを見せたという。

しかしウリッサは、信じられない跳躍で二人を驚かせた。


「うわあっ!?」

「ひいい!?」


ウリッサは、しばらく二人の周りを飛び跳ね続けたという。

やがて満足したのか、ウリッサは、屋根に飛び移った。

そして二人の見えない場所まで逃走したという。


さて、二人は、殴られたり何か盗まれた訳ではない。

通報したのは、近所の住民だ。

大声で騒いでいた二人は、警官の厄介になった訳だ。




”バネ足”の活動は、徐々にエスカレートしていく。

道で通行人を襲ったり、家に忍び込んで住民を驚かせるだけで留まらない。

遂には、押し倒してキスしたり顔を舐めるなどの証言が出た。


「本当にこの高さを?」

と女は、大厦(ビル)を見上げた。


12階建ての集合住宅(アパート)。

復古様式(ネオゴシック)建築で針の山を思わせる尖塔が並んでいる。

巨大な正面部(ファサード)とバラ窓は、大聖堂のようだが民家である。


「こんな高さは、血統鑑定官(ブラッドウォッチャー)でも飛び越せない。

 もしこの高さを登れたとすれば獣(・)だろう。」


女の話を聞いているのは、警察官二人。


「獣は、人間を襲うんじゃない?」

と女の警官が質問した。


二人の警察官が現場に呼んだのは、獣狩りの狩人。

額面通りの猟師ではなく獣と呼ばれる怪物を追う者たちだ。


「もし”バネ足”が獣で目撃者を食い殺してたら、そっちの目撃証言は上がって来ない。

 ”バネ足”が殺さなかった奴が通報してるってことだからな。」


「端的に教えてください。」

そう切り出したのは、もう一人の警官だ。


「狩人は、獣の痕跡や気配を調べる技術があるんでしょう?

 ここでそういう形跡を見つけられますか?」


「さあ。」


「さあ?」


二人の警察官に狩人は、困ったように答える。


「要するにその追跡っていうのにもレベルがあってね。

 私には、分からないだけで得意な奴には、見えてくるものもあるんですぜ。」


「それは、どういう意味?」

と女の警官は、首を傾げた。


狩人は、肩を竦(すく)める。


「だから。

 私が何も見つけられないからって獣じゃないとは、ハッキリ断言できないよ。」


「じゃあ、得意な狩人を紹介して貰えませんか?」

ともう一人の警官が言う。


狩人は、溜息を吐いた。


「狩人の騎士団(シャサール・オーダー)は、そういう横の繋がりはない。

 一方的に騎士団本部から指令が届くだけで私らは、騎士団の運営方針には、関わってないんだよ。

 他のメンバーの顔もほとんど知らないんですぜ。


 それに獣にも色々なタイプがある。

 偏執狂(マニアック)の専門家みたいな奴もいるから単純に得手不得手だけで片付けられる問題じゃないのさ。

 丁度、警察だって殺人や窃盗とか部署があるじゃない?」


「なんだか幻滅したな。」

と女の警官。


「狩人の騎士団って、もっと神秘的な組織だと思ってたのに。」


女の警官が腐すと狩人も帽子を取って頭を掻いた。


「だが、”バネ足”が獣でも狩人でもないなら、こんなバカな遊びは、さっさと止めるべきだと忠告するね。」






深夜。

夜の大ヤーネンドンを半裸の若い女が駆けていく。

足には、特殊な装置が着いていた。


スプルツマス歩兵火器工廠(リトルアームズ)が設計した歩兵用の装備だ。

この驚異的な跳躍力で戦場の兵士の移動をサポートすることが狙いである。


A16というコードネームがあるのみで名前はない。

何と言ってもこんな装備は、他に類を見ない。

仮に”バネ足”とする他ないだろう。


彼女は、帝国陸軍中尉、メイベル・デイビー。

”バネ足”の開発に参加していた若い女士官だ。

もとは、陸上選手であり、身体能力を買われて運用テストに参加した。


結果、この装備は、高い身体能力がなければ扱えないという決定が下された。

誰でもデイビーのように使いこなせる代物とは、言えなかった訳だ。


実際、デイビーが”バネ足”を使いこなせたのは、運が良かった。

運用テストに参加した多くの者は、痛ましい死を迎えた。

最大39mの高さまで飛び上がる”バネ足”は、ケガで済むことはなかった。


「うっひょーっっっ!」


デイビーは、”バネ足”の虜(とりこ)になった。

これほど気持ちのいい体験は、かつてなかった。

街を飛び越え、人々が驚き、自分に注目する。


(これは、私だけが使える”バネ足”だ!

 私は、今、誰よりも自由だ!!)


ガス灯が煌めく大通りと背の高い大厦(ビル)が高速で流れていく。

デイビーは、摩天楼の間を飛び移っていった。


「え………!?」


デイビーは、大厦(ビル)から転がり落ちていた。

両脚にあったはずの”バネ足”は、なくなっている。


「……あれ?

 どこだ、ここ。

 ……イグナティア(イギー)、今、何してました?」


誰かが大厦(ビル)の屋上でキョロキョロと辺りを見渡している。

昼間、女の警官と一緒にいたもう一人の警官だ


女の警官は、デイビーが着けていた”バネ足”を持っていた。


「こいつを取り戻したところだよ、サイファー。」


イギーと呼ばれた女の警官は、そう言って手に持っている”バネ足”を見せる。

サイファーは、キョトンとした顔でイギーに振り向く。


「なんです、それ?」


「そこから記憶がなくなったのか。

 本当に面倒な能力だよ。」


「当てましょう。

 うーん………登山靴。」


サイファーがそう言うとイギーは、首を左右に振る。


「とにかくここを離れよう。

 死体は、人目を惹く。」




大厦(ビル)の下では、滑落死したデイビーの死体に野次馬が集まり始めた。

下半身を露出した奇妙な女に人々は、”バネ足”ウリッサという新聞の見出しを結び付ける。


「ウリッサだ!」

「”バネ足”が建物から落ちたんだ!」

「怪人は、本当にいた!!」




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