6 TS化の悲しき性
真由はウキウキと破顔した。兄、いや姉? としては嬉しい限りである。
「お兄ちゃんとゲーム! お兄ちゃんとゲーム~!」
「喜ぶところ、そこ?」
「当たり前じゃん! 小学生のとき以来、お兄ちゃんゲームにドハマリして、私に構ってくれなかったんだから!」
「うーん、そうかな」
「自覚ないの? ずっと寂しかったんだからさ、こっちは」
中学生の妹なんて、一般論でいえば兄を忌避しそうなものだが、真由にその常識は通用しないようだ。といっても、嫌われるよりはマシだ、と真希は思った。
「んじゃ、食べ終わったらデバイス買いに行こう──もう食べ終わったの? ちゃんと噛まなきゃ駄目だよ」
「こんな日くらい良いでしょ! さぁ、行くよ。お兄ちゃん!」
まだ食べ終わっていないのに、真由に細い腕を引っ張られて外へ連れて行かれるのだった。
*
「(うぉ、すげぇ美人がいるぞ)」
「(姉のほうだろ? 妹はそんなでもない)」
「(おれ、ナンパしようかな……)」
真希はPCショップに向かう道中、そんな会話を3回ほど聞いてしまった。
(聴こえてるんだよなぁ……。きのうまで男だったヤツをナンパするなんて、愚かしいけどさ)
やはり佐野真希は、絶世の美人高校生になっているらしい。正直、悪い気がしないのも事実だった。男たちから一重に目線を集め、ヒソヒソと褒め称えられる。悪い気がしないどころか、良い気分だと感じてしまう。
「着いたよ、真由」
かなりの敷居面積を誇るパソコンショップについた。BTOパソコンからゲーミングデバイス、そしてVRMMOデバイスが売っている。しかも決済はパクスコインで可能。真希は一応、スマホと連携されているニュー・フロンティア・オンラインのアカウントに、80000パクスコインが入っているのを確認した。
「うわ、変な匂いがする。なんか、雑巾みたいな匂い」
「……そういうこと、大声で言わないの。PCショップなんてそんな場所なんだから」
「まぁ良いや。こんな臭いところに長くいたくないから、早くデバイスってヤツ買ってよ」
「分かったよ……」
3階に登り、真希と真由はサングラスみたいなデバイスを見つける。
「何色が良い?」
「なんでも良いよ。しいていえば、おに──お姉ちゃんといっしょなのが良い」
「なら、黒色だね」
公の場で女子になった兄をお兄ちゃんと呼んだら変なのは、真由も分かっているようだった。リアルでTSしました、なんて誰にも信じてもらえないだろうし。
「すみません。この黒のNFOデバイスをください」
店員にそう話しかけ、真希はケースの中からデバイスが取り出されるのを待つ。
「50000円になりますが、よろしいですか?」
「あぁ、パクスコイン使えますか?」
「使えますよ」
「なら、それで決済します」
バーコードでパクスコインを支払い、真希と真由はデバイスの入った箱を持って外へ出る。
「はー、空気がうまい!!」
「そんなこと言うなよ……。聴こえるぞ?」
「聞こえたって問題ないもん。私にはお兄ちゃんがいるし」
「(お兄ちゃんって呼ぶな。一応お姉ちゃんって呼んでおけ)」
「はいはい。んじゃ、帰ろうか」
「うん。……って、すげぇメッセージが来てる」
真希は先ほどスマホを出したが、そのときメッセージがあり得ないくらい溜まっているのも見てしまった。おそらくは……、
「やっぱり宮崎か。真由、少しストップ。メッセージ返信しなきゃ、だからさ」
「メンドッ。歩きスマホすれば良いじゃん」
「おれは、そういうことしない主義──「おれって言った。クラスの3軍女子みたい」
「……私はそういうことしない主義なんだよ」
一人称を安定させなくてはならない。これがTS化の悲しき性というものだろう。




