5 ヒトを殺すゲーム
(なにがなんだか分かんないけど、寝逃げでリセットだな……)
目をつむり、真希は眠りにつくのだった。
*
「ふぁーあ……」
佐野真希は目を覚まし、時刻が朝の9時になっているのを知る。睡眠時間は6時間弱といったところか。真希は鏡を見て、やはり自分の姿が黒髪ロングヘアの美少女であることを再認識した。
ぱっちりした目、筋の通った鼻、小顔、適当に乾かしたのにも関わらずツヤのある黒いロングヘア。いよいよ、少年から少女へ生まれ変わってしまったのだな、と真希は案外冷静だった。
「ま、この姿でも朝飯は食べられるし、歯磨きもできるし……ゲームもできる」
起き上がり、真希は洗面所へと向かっていく。口の中が乾燥して、気分が悪いからだ。
洗面台辺りについた頃、真由が歯磨きをし終えていたようだった。彼女は、「おはよ。お兄ちゃん、いや、お姉ちゃん?」と怪訝そうな面持ちになる。
「どっちでも良いよ。見た目なんて、魂の器にしか過ぎないんだから」
「達観的なこと言うね」
「達観したくもなるさ……」
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんすか」
「私も、そのゲームやりたい。ゲーム機貸して」
真希は無言で洗面所に向かい、顔を洗って歯磨きし始めた。
「なんで無視するのさ!」
一旦歯ブラシを口から離した。「真由、悪いことは言わないからやめておいたほうが良い。ヒト殺すゲームに耐えられるんだったら、別に良いけど」
「ひ、ヒトを殺すゲーム?」
またもや歯磨きをし始め、眠気眼のまま真希は口に溜まった歯磨き粉を出す。うがいして、彼、もとい彼女はリビングへと向かっていった。
「なんで無視するのよ! お兄ちゃん!」
「無視はしてない。ただ、どうせ真由がプレイしたら文句ばかり垂れるでしょ?」
「たれないよ! 約束する!」
「あぁ、そう……」端から期待していない態度であった。「とりあえず、朝飯食べようよ。お兄ちゃんが味噌汁と焼き魚作ってやるから」
というわけで朝飯。宮崎翠といっしょにゲームすると、下手すれば10時間以上連続でゲーム世界に捕われる羽目になるため、ここでエネルギーをつけておかなければならない。
さっさと味噌汁と焼き魚を作り、真希は米をよそって食べ始める。
「食べないの?」
「お兄ちゃんがいっしょにゲームしてくれる、って言うまで食べない」
「……真由って、そんなに面倒臭い子だったっけ?」
「め、面倒臭い?」
「面倒臭いよ。だいたい、ゴーグルだって馬鹿にならないくらい高いしさ」
「ゴーグル?」
「ニュー・フロンティア・オンラインに入るための、サングラスみたいな物体。あれ、5万円くらいするんだよ?」
「ご、5万円……」
「おれには到底出せる金額じゃないな。父さんも母さんも帰ってこないから、お小遣いもらうこともできないし」
そこまで言っておいて、真希は朝飯を食べた成果なのか、きのう稼いだ〝パクスコイン〟を思い出した。
「あ」
「なにさ」
「パクスコイン、って知ってる? 真由」
「なんか聞いたことはある。お父さんたちの会社が立ち上げた、仮想通貨でしょ?」
「そー。それをさ、おれ今8万円相当もってるんだよね」
「え、なんで?」
「ゲーム内で稼いだ」
「……ゲームでお金稼ぎってできるの?」
「NFOならできるらしい。今、1パクスコインいくらになってるか調べて」
「うん……、120円だって」
「96000円相当か……。創麗の息のかかってるパソコンショップなら買えそうだね、デバイス」
「え、お兄ちゃん買ってくれるの?」
「どうせ泡銭だし、良いよ。ご飯食べ終わったら、PCショップ行こうか」
真由は満面の笑みを浮かべ、真希に抱きついてきた。
「やったー!!」
「なにすんだよ!!」
「だってお兄ちゃんと同じゲームできるんだよ? しかもお金稼ぎできるとか、最高じゃん?」
「ゲンキンなヤツめ……。まぁ、ゲームでカネがもらえるなんて、そんな良いことないもんね」
「そーそー。よーし、小学生以来にゲームしちゃうぞー!!」




