4 きれいなピンク色
我が父ながら薄情だな、と感じつつも、通話を切られてしまった。真希は途方に暮れ、意味もなく部屋の中を歩き回る。
「きょうからおれは黒髪ロングヘアの少女、か……とりあえず、お風呂入ろうかな」
5分ほど部屋をトボトボ歩いて出た答えがそれなので、もう真希の人生は暗転しかかっているのかもしれない。
ともかく、風呂場へと向かおう。
「あれ? お兄ちゃんの彼女さん? こんばんは」
意気消沈しながら廊下を歩いていると、妹の佐野真由とすれ違った。まぁ恋人と間違えるのもせん方ないが、なにか負けた気がするのも間違いない。ここは馬鹿正直に伝えてしまうか。
「いや、おれはお兄ちゃんだよ」
「は?」
「そうなるよね。でも、おれは佐野真希だ」
「なんの冗談?」
「こっちが聞きたいよ。VRMMOやってたら、こんな姿になってしまった」
「VRMMOってなに?」
真由はゲームにあまり詳しくない。詳しい分野は主に、真希自身もよく分からない韓国系のアイドルである。
「要するに、仮想現実の世界に入り込めるゲームってこと」
「意味分かんない」真由はその大きな目で真希を覗き込む。「ねぇ、貴方が本当に私のお兄ちゃなら、私の好きなアイドル全員言えるよね?」
「言えるわけないじゃん。興味ないもん」
「あー、それは完全にお兄ちゃんだわ。イマドキ、アイドルの名前も知らないヒトなんてお兄ちゃんくらいだしね」
それで良いのか、我が妹。とは思いつつも、真由が納得したのは間違いないようだった。
「で、なんで女の子になっちゃったの?」
「だからこっちが聞きたいんだよ。なにが悲しくて、黒髪ロングヘアの少女にならなきゃいけないのさ。いくら夏休みとはいえ」
「良いじゃん。この際、女の子ライフ楽しんだら?」
「真由はいつでも楽観的だね……」
「大丈夫だよ、どうせお父さんがなんとかしてくれる。創麗グループの最高幹部なんだから、下手な政治家より権力あるし」
「権力で黙らせても、周りが納得してくれるものか」
「こんな可愛い女の子がお願いしたら、みんな納得するでしょ。んじゃ、私はもう寝るから」
「うん、おやすみ。マイペースな真由」
真由が立ち去っていき、真希は風呂場へと再び歩みを進める。
(……考えてみれば、同い年くらいの女体を見たことがないんだよな)
未使用品のままいなくなったリトル真希に思いを馳せつつ、彼女は服をおもむろに脱ぎ始めた。男子用の服だが、身長自体はさほど縮んでいないためブカブカというわけではない。
「うわ、きれいなピンク色」
風呂場に入り、鏡を見ると、そこには色素の抜けた乳首。さほど乳房は大きくないが、それも相まって神秘的にすら感じてしまう。
されど、性欲が湧かないのも事実。深夜2時15分ともなれば、もう疲れていて性欲云々の話ではない。
お湯に顔半分を入れて、ぶくぶくと泡を吹きながら真希は不満げな表情をあらわにする。
「なんでおれが女子に……」
髪の毛が湯船に浸かることも気にせず、真希は今まさに出来上がった不満に苛立つのだった。
*
風呂から出て、真希はスマホを確認する。宮崎からメッセージが大量に送られてきていた。正直もうあのゲームにログインしたくないが、いかんせん〝ザ・ミラクル〟を取っ払う方法もあのゲームの中にしかなさそうなので、真希も腹積もりを決める。
「きょうはもう寝るから、あしたやろう、と……」
真希はドライヤーで乱雑に髪を乾かす。サラサラヘア? そんなもの、知ったことか。とにかく眠たい人間に、いちいち見た目を気にする余裕はない。




