1 ニュー・フロンティア・オンライン
20××年、人々は仮想現実──VRMMOに夢中だった。
ゴーグルひとつで入れる仮想の日本では、どんなことをしても自由。たとえヒトを殺しても、強盗しても、ただ愛車で走り回っても、すべてが自由。
しかもこのゲーム、〝仮想通貨〟を稼ぐこともできる。実績や強盗、仕事をすることによって、現実のカネと変換できる暗号資産を手にして、いわゆる〝億り人〟になった連中も少なからずいた。
そんなVRMMO──ニュー・フロンティア・オンラインに足を踏み入れた少年佐野真希は、早速PK厨に命を狙われていた。
「マジかよぉおおおお!! なんでランク1なのに、戦闘ヘリに襲われなきゃいけないんですかァ!?」
ただ東京を模した街を歩いていたら、いきなり現れた戦闘ヘリにガトリングをお見舞いされ、盗んだ車で逃げるも、車のエンジンは爆発寸前。いくら仮想通貨とはいえ、こんな死に方は嫌だ。
エンジンがついに爆発し、寸のところで真希は車から飛び降りる。ライフがだいぶ減ってしまったが、あのまま車に乗り続けていたら確実に死んでいたので、致し方ない。
しかし、遮蔽物がない。ゲームに慣れている真希は、近くにあるはずの遮蔽を探すが、東京のスクランブル交差点にそんなものはない。
「もうやめてぇえぇええ!!」
心からの叫びをぶちまけるが、現実は非情だ。ガトリングがこちらを向いて、いよいよ真希を仕留めようとジジジ……と機関銃が鳴り始めた頃、
パリンッ!! と、音が聴こえた。明らかに銃弾の音ではない。戦闘ヘリが粉々に散って、破片が真希の顔をかする。
「た、助かった……?」
真希はヘリの残骸を見て、続いて先ほどの閃光の先を見る。そこには、茶髪でギャルっぽい少女が禍々しいライフル──〝レイルガン〟を持って立っていた。
「大丈夫?」
茶髪でギャルみたいに学生服を着崩している、目鼻口ともに整ったツリ目の少女は、真希へ敵意はないようだった。真希はコクコクと頷く。
「全く、ランク1のザコをいじめてなにが楽しいのやら。でもまぁ、一度PKしちゃえば、リアルタイムで24時間ログインできないし、とりあえず安全だね」
彼女は微笑む。手には、一瞬でヘリコプターをも消し炭にできるレイルガンを携えているが、それでも敵意はなさそうだった。
真希は彼女のランクをスマホのようなデバイスで確認する。ランク150。なかなかの猛者だ。
「あの、なんで助けてくれたの?」
「コイツの仮想通貨を奪うために決まってるでしょ。アンタ、このゲームの仕組み知らないの?」
「仕組み?」
「なんらかの理由で死んだヤツは、24時間再ログインできない。すると、仮想通貨も落としてくれるわけ。通貨は有限だから、こうやって奪い合うんだよ」
「怖っ」
「慣れれば楽しいよ。あたしなんて、もう100000パクスコイン溜めたし」
「100000パクスコイン?」
「それも知らずに、良くNFOやろうと思ったね……」彼女は呆れ気味だった。「今、1パクスコインは100円相当。だからあたしは1000万円相当のお金を持ってる計算になるね」
「い、1000万円……」
真希の驚きなど意に介さず、彼女はPK厨のパクスコインを拾う。「1000コインか。コイツ、PKにカネ賭けすぎたみたい」そして、真希のデバイスに500コインを送った。「はい、アンタの分け前。およそ50000円にしかならないけど、まぁ初めての実績にしては上等じゃない?」
「50000円!? おれ、まだ高校生だよ!?」
「それを言っちゃ、あたしだって高校生だよ。通信制だけどね」
高校生でも1000万円稼げる仮想通貨。彼女の説明を聞く限り、ハイリスク・ハイリターンのようだが、それでも失うものがない以上やらない手はない。
「ねぇ、名前は?」
「ハンドルネームあるでしょ。MANGO1224だよ」
「……?」
「どうしたの? 怪訝な顔して」
「いや、SWORDFISH1130、ってIDに見覚えない?」
「え」彼女は目を丸める。「アンタ、佐野?」
「そうだよ、宮崎」
ギャル的な見た目をした彼女は、なんてことのない同級生だった──。




