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海の絵

作者: 雨世界

 海の絵


 私が流れ着いたところ


 私たちはいつも喧嘩ばっかりしていました。

 出会ったときも、恋人になってからも、結婚をしてからもそうでした。

 ずっと、ずっと喧嘩ばかり。

 ちょっとしたことで、いつも喧嘩をしていました。

 私は君のことが大好きだったけど、喧嘩をしているときは本当に大嫌いでした。

 離れちゃおうって思うときもありました。

 でも、そうはしませんでした。(家出くらいはしたけど、ちゃんと君のところに、ただいまって言って、戻ってきました。君は、おかえりって、私に言ってくれました)

 君はいつも自分の大好きな絵のことばかりを考えていました。

 どんな絵が描けるのか、どんな絵が描きたいのか、なんで絵を描くのか、いろんなことを考えているとっても難しい顔をして、いつも自分の絵とにらめっこをしていました。

 君は海の絵を描きました。

 とっても素敵な絵でした。

 私はこの絵を見たときに、本当に嬉しくなって、泣いてしまいました。

 だったその海の絵の中には、私と君がいたからです。とっても幸せそうにして、一緒に手をつないで白い砂浜の上を歩いている、出会ったころの、もうどこにもいなくなってしまったと思っていた、あのころの私と君がいたからです。

 それは記憶とか、思い出とか、写真とか、映像では残せないものでした。

 とても難しいのですけど、『あのころの私と君』が絵の中にはいるのです。

 今の大人になった私と君ではなくて、違う人として、あのころの子供のころの私と君が絵の中にはいるのでした。

 大人になってわかったことは『生きることはとても大変』だということでした。

 生きることはとっても大変なことで、世界にはたくさんの人たちがみんな幸せのために頑張って生きていて、いろんな人がいて、いろんな人生を生きています。

 多様性。価値観。あるいは、宗教や人種や国。本当にさまざまです。

 みんなそれぞれの背景があって、家族がいて、絵があって、だから仕方のないこともあって、大声を出して言い争いをしたりして喧嘩をすることもあるのです。

(嵐がくる日だってあるし、いつも海は穏やかなままではないのです)

 絵の中にいるのは私と君の二人だけでした。

 それはとても優しい絵でした。

 それはとても君らしい絵で、とても穏やかで、静かで、無口で、可愛らしい絵でした。

 私はその絵が君の描いた絵の中で一番大好きな絵になりました。(君が私と結婚の約束をしたときに描いてくれた笑っている私の絵よりも好きになりました)

「子供が生まれたら、うみって名前にしたいんだけど、いいかな?」

 君は私に言いました。

 私はとっても驚きました。だって、私もうみって名前にしたいなって、そう思っていたからでした。

「いいよ。わかった」

 と笑いながら私は言いました。

 それから大きなお腹をした私は隣に座っている君にキスをしました。

 海の絵の中にいる幸せな二人なように。

 どこか遠いところから聞こえている、音楽のような、歌のような、静かな海の波の音を、聞きながら。


 ねえ。遊ぼう。(君の服をひっぱりながら)


 海の絵 終わり

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