7. もう一人のハッピーエンダー
珍しいことに、ハッピーエンダーのギガデスの元に一人の依頼人がやってきた。
ギガデスが居るのは、〈物語精霊界〉でも誰も近寄らない、地の果てまで十字架の墓標が並ぶ墓場だった。ここに眠るのは、様々な理由で〈物語精霊界〉の大罰を受けて、物語に殺された登場人物たちだ。
その中央の広場にギガデスは佇んでいる。彼は十字架に磔にされた、奇妙な道化師のような姿をしていた。
背中には天使の羽が付いた身長ほどもある十字架を背負い、その羽をはためかせて床から少しだけ浮いていた。足元まで覆う黒いマントに、白黒の菱形の格子柄のマフラーを下げている。二股に分かれた頭巾から覗くのは、おかっぱで丁寧に切り揃えられた黒い前髪で、唇の端を吊り上げた不気味な笑顔を浮かべていた。
ギガデスの元に訪れた依頼人は、『カースドヒーロー』という漫画の登場人物とのことだった。主人公である勇者一行は四人組であり、その中の一人である。そしてその人物は驚くべき依頼をしてきたのだ。
勇者一行の四人の内の一人を――
本来なら物語の登場人物への「その行為」は、〈物語精霊界〉でも大罪中の大罪だ。しかしギガデスだけは、その特殊な「物語改変」能力によって、その依頼を叶えることができる。
彼は依頼人の切実な懇願を聞き、その依頼を受けることにしたのであった。
しかしまだその時は、この物語にハッピーエンダーのロックが関わり長い戦いが始まるとは、知る由もなかったのである――