3. プロローグ
物語のキャラクターが作者の手を離れて勝手に動き出す――そんな話を聞いたことがないだろうか。
それは紛れもない事実である。
ただし、キャラクターが勝手に動くといっても、「作者としてはここで主人公に逃げてほしいのに、猪突猛進な性格の主人公が、作者の都合関係なく勝手に敵に突っ込んでいってしまう――」みたいなことではない。
実は物語の中には、読者どころか作者すらも知らない別世界があり、そこでは日夜「物語の主人公」たちが、作者の作った筋書きと戦い続けているのである。
ある日突然「自分が物語の登場人物である」ことに気づいた主人公たちが、作者の描いた筋書きに抗い、ストーリーを強引に変えたいと願うことがある。
例えば「死ぬ予定だったヒロインを救いたい」、「全滅エンドをまぬがれたい」と。
しかしその願いはあまりに儚い。
「物語の主人公」たちは無力で、ただ筋書き通りに動く駒でしかない。一方作者は物語における創造主であり、抗うことは不可能なのだ。
物語が作者の思惑通り感動の完結を迎え、読者や世間は絶賛したとしても、主人公が本当に救いたかったヒロインは死んでしまい、生き返らず終わることもある。作品としては無事美しい結末を迎えても、主人公にとっては「救えなかった」という後悔が永遠に残るのだ。
多くの「物語の主人公」たちがそんな筋書きという名の運命を受け入れるしかない中で、しかしたった一つだけ――絶対に物語を改変できる禁断の方法があった。
どうしてもどうしても諦めきれず、作者に反逆してでも物語を改変したいと願う、「物語の主人公」たちの最後の希望――
それを叶えるのが〈物語の精霊〉である「ハッピーエンダー」である。
「幸せの結末をもたらす者」と呼ばれる彼らは、「物語の主人公」たちからの依頼を受け、作者の意図しない展開へ強引に物語を改変する能力を持っているのである。
そんなハッピーエンダーの中でも最強の能力者の一人、「どんでん返し」の力を持つロック――
彼はかつて〈物語の精霊〉の禁忌である、悲劇として完結した物語を無理矢理改変しようとした過去を持つ反逆者であり、別名「脚本砕き」と呼ばれる〈物語精霊界〉の罪人だった。
しかしそれでも、ロックの類まれなる「どんでん返し」の能力を頼りに、今日もまた一人のキャラクターが彼の元に訪れるのだった――