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29. 死亡フラグの回避(1)

 ブラウンがゆっくりと目を覚ますと、空から天使が迎えにくる姿が見えた。しかしそれは現実に起こったものではなく、天使の描かれた大聖堂の天井画だった。


「俺は……まだ、生きているのか……」


 『呪いの四将軍(カースド・フォー)』の「鉄の処女」イゾルデの暴動によって傷付いた人々は、いったん大聖堂の広間に移動させられており、そこは野戦病院さながらの慌ただしい状況となっていた。といってもイゾルデの魔剣は身体を切り離すだけで、実は一人たりとも死人はいなかったのだ。シーザーに殺されたイゾルデ本人を除いては――


 ブラウンが起きあがると、勇者シーザーがイゾルデの持っていた魔剣『美しき獣(ビューティビースト)』を使用して、身体を斬られた人々を治して再び身体を付け直していた。そのおかげで、下半身を斬られたアン王女も元通りになり、今は傷ついた人々を癒やして回っている。横を見ると、同じ様に寝かされている女騎士ジャンヌの手足も元に戻っていた。


 ブラウンが自らの脚を見やると、こちらも治してくれていたようで、自由に動くのがわかった。だが自らの火傷痕は全身に広がり死はまぬがれないはずだったのだ。おまけにえぐり取った眼も再び見えるようになっている。なぜ自分がまだ生き残っているのか理由がわからない。


「お兄ちゃん!」


 意識を取り戻したブラウンに気づいた妹のカーマインが、顔をくしゃくしゃにして泣きながら抱き付いてくる。


「カーマイン……、俺はなぜ生きてるんだ……? 目も見えるようになってるし」


「それは……シーザーさんのおかげだよ……。お兄ちゃん、左腕を見てみて」


 火傷痕におおわれていたはずの左腕は、すっかり治り元の肌に戻っていたのである。


「どうやって……」


 ブラウンが意識を取り戻したことに、シーザーたちも気づいたようで、シーザーとアンが治療の手を取めブラウンの元に来る。

 そのシーザーの姿を見て、ブラウンは驚くのだった。シーザーの衣服から覗く左腕は酷い火傷痕でおおわれていたからだ。その火傷が首筋まで続いている。


「お前、いったい何をやったんだ!?」


「イゾルデの魔剣を使ってブラウンと僕の皮膚を移植したんだ。思ったより上手くいったよ」


 シーザーはさらりと言ってのけた。だがそれがどれほどの決意が必要なことなのか、ブラウンも妹カーマインも、アンもよくわかっていた。


「馬鹿野郎……、なんでお前って奴は、俺みてえなもんにそこまでやっちまうんだよ……!」


「いつも言ってるだろ、僕は弱い男だからね……。親友を亡くしたら、きっと正気をたもっていられないと思うんだよ。その悲しみに比べたら、火傷の一つや二つ背負う方が、全然気が楽さ」


「お前はどんだけ馬鹿野郎なんだよ……」


 そう言いながら、ブラウンは自分の眼から涙があふれ出るのを止めることができなかった。

 自分のようないやしい盗賊を親友と呼んでくれるだけでも嬉しかったのだが、しかしだからといって、自らの皮膚まで分け与えることなど普通の人間にはできることではない。

 ましてやシーザーは、自分自身が「反人間カースド」の偽勇者であることさえ告白してしまっているのだ。

 ブラウンは今まで自分こそが不幸な人間だと思って生きてきた。だがこの目の前の勇者はそれ以上に不幸を背負っているにもかかわらず、そんなことを気にせず人に優しさを分け与えることができるのだ。

 ブラウンの中で入り混じる感情の波が、嗚咽おえつとなって吐き出されていくのだった――


 そんな中、ようやくジャンヌも意識がはっきりしたようで起き上がってくる。しばらくは状況を把握するのに時間がかかっていたようだが、ブラウンたちの元気そうな姿を見つけると、少し安心したようだった。

 ただしジャンヌは何か悩んでいたようだ。うつむ逡巡しゅんじゅんしていた面持ちから、何かを決心したように顔を上げると、陰鬱な強張こわばった表情で告げた。


「ブラウンとシーザーに告白しなければいけないことがある。何処か場所を変えて話せないだろうか」と。


◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 ジャンヌたち三人は、大聖堂内の大きめの客室を借りて話すこととなった。彼女が口を開こうとすると、何処からともなくどす黒いオーラを放つ扉が出現して、そこから「死亡フラグの死神」のギガデスが現れる。一方同じように光り輝く扉が出現して、そちらからはロックと本のサロメが現れた。

 アン以外の、この物語の改変に関わる全員が集まったことになる。


「役者は揃ったようですね」


 そう言ったギガデスに、ブラウンやシーザーだけでなくジャンヌも振り向いていた。


「驚いたな……君もハッピーエンダーのギガデスを知っているのかい?」


「知ってるもなにも、私は彼に依頼したことがあるんだ……」


 ジャンヌは苦しそうに言葉を少しずつ吐き出していく。その表情は暗く苦悩に満ちていた。


「謝ってすむことではないのはわかっている。だが、私はみんなをずっと裏切っていたんだ。

 私はこの勇者一行から死人が出るのは宿命だと考えていた。だが自分だけはそれに選ばれたくない、死にたくない、叶うことなら誰かに代わってほしいと強く願った。その悪しき願いが、ハッピーエンダーのギガデスを呼び寄せたのだ――」


「そんな話はしなくていいだろ……結局みんな助かったんだからよぉ」


 ブラウンはジャンヌが吐露とろしようとしていることに心当たりがあるようだった。だから制止しようとしたのだが、彼女はそれを振り切ってさらに続ける。


「私は死にたくない、自分だけは助かりたい一心で、代わりにブラウンを犠牲にしてくれと、ギガデスに依頼したんだ……。

 だが依頼は断られた。なぜなら私が依頼する前に、ブラウン自身が自分を殺してくれと依頼していたからだ。

 正直私はほっとしたよ。ああ、私は死ななくてすむんだ、と――」


 シーザーは驚く。流石にジャンヌのその行動は予想外だった。彼女はいつも高潔で、正々堂々戦う、女だてらに騎士のかがみのような人物だったからだ。だから大丈夫だろうと過信して、そこまで死に対して恐怖心を持っていることに気づいてあげられなかった……。シーザーはそのことを後悔した。

 逆にもしかしたら、ブラウンだけがそれに気づいていたのかもしれない。自らの死を選んだ理由の一つなのかもしれない。

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