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14. 勇者シーザーの依頼(2)

 勇者シーザーからの依頼をくだらないと言い捨てたロックは、その理由を語り始めた。


「理由は二つ。

 一つはお前さんは『物語改変』の深刻さを理解してない。作者が身を削って生み出した作品を、おいそれと改変していいもんじゃない。この物語の作者が『皆殺しの鈴木』という悪名を持つ、キャラクター殺しの常習犯だとしてもだ。

 例えばもし俺がお前の物語を改変したとしよう。

 『急に天使が現れて可哀想だからと全員生き返らせてあげました。ついでに魔王とも仲良くなりました』なんて作り変えてみろ。その作品は破綻はたんして、誰からも納得されない物語となり、漏れなく『倉庫』行きだ」


 ロックは背後に並ぶ本棚たちを指差す。


「ここにあるのは、そうやって無理矢理改変されて、この世から消滅した物語だ。〈物語精霊界〉から大罪の烙印を押されてな」


 「これが全部ですか……?」


 シーザーは終わり無き本棚の列に、思わず生唾を飲み込む。


「お前には、この世から消滅してまでも『物語改変』したいって、その覚悟があるのか? そっちの方がより地獄かもしれないのにだ」


 ロックはシーザーの返答を待たずにさらに続ける。


「理由二つ目は、一つ目を踏まえた上で言わせてもらうと、最強のハッピーエンダーと呼ばれる俺にとってこの物語の改変は、まさしく『赤子の手を捻るより楽な作業』ってことだ。

 今読ませてもらった情報だけで、物語を破綻はたんさせず、作者もお前さんも誰もが納得する簡単な解決方法があるというわけだ」


「まさか、そんな……。そんな方法があるわけがない。あるなら教えてください、その方法を!」


 食い気味で尋ねるシーザーに対し、もったいぶるかのようにロックは話をらす。


「まあ待てよ。本題に入る前に、本筋とは関係ないんだが、まず勇者一行の名前がイケてないんだ。そもそもジャンヌじゃなくて、本来ならジェーンやジョアン、もしくはジョーンとかだ」


「いまキャラクターの名前なんて話している場合じゃないでしょう。それに名前が何か関係あるんですか?」


 シーザーが疑問を口にすると、ロックは自信満々に話し始める。


「国による名前の呼び方の違いさ。お前さんの仲間たち、他のキャラクターは英語読みなのに、女戦士のジャンヌだけフランス語読みのままだ。まぁジャンヌ・ダルクあたりから取ってきてそのまま使ったんだろうさ。

 ただ、こういう所に気を使わない作者ってのは、実はシナリオにも矛盾が残ってたりしがちでね」


「何が言いたいんです?」


「つまり付け入る隙があるってことさ。作者が気づいていない物語上の矛盾をついて、キャラクターが勝手に行動して予定調和をぶち壊す、その隙を見つけ出せばいいのさ。そうすることによって、作者も誰もが納得せざるを得ない『物語改変』ができるのさ」


 ようやくシーザーにも話が読めてきた。


「つまり、その隙を突けば、〈物語精霊界〉の禁忌を犯すことなく、『物語改変』が可能だってことですよね」


「そうさ。やっと冷静に頭が回ってきたようだな。

ただ注意点もある。

 物語の主人公であることを自覚したお前とハッピーエンダーが組めば、ハッピーエンダーの改変能力を使わなくとも有利に物語を進めることができてしまう」


「主人公が本来知り得ない有利な情報、物語展開の先読みや、敵の弱点なども読めてしまうってことですよね」


 思案げに回答するシーザー。


「察しがいいな。しかし当然ながら、〈物語精霊界〉によってそれらも大罪とされているし、万一そんなことをしても、魂の死んだ物語は誰からも読まれない作品となってしまうだろう。

 だからあえて答えは言えないが、作者は多分お前が想像しているより一段階上のハッピーエンドを考えているはずだ。おまえ自身も本当はそれに気づいているんじゃないのか?」


 ロックの見立てでは、この勇者シーザーは馬鹿ではない。二人の犠牲者ではなく、一人の犠牲者だけ出せばすむ解決策を思いついているはずだと、そう言いたいようだった。


「そもそも皆殺し作家の醍醐味は一人一人見せ場を作りながら殺していくところさ。人気のあるキャラクターをいっぺんに二人も三人も殺したらもったいない、と計算してるはずさ」


「確かに作家にとって僕たちは物語を進める駒でしかないでしょうしね。ただ、まぁ人気云々でいえば、僕やアンやジャンヌはともかく……ブラウンはその、あんまりなかったみたいですけども……」


「逆にいえば、確かに作者はここで仲間を一人殺して物語を盛り上げようとしているのかもしれない。だがさっきも言ったように、最強のハッピーエンダーのこの俺なら、物語の魂を殺さずとも誰一人犠牲を出さずに物語改変できる」


 ロックは「どんでん返し(リバーサル)!」と叫ぶと、サロメから一際ひときわ輝くページを抜き出す。


「お前さんに本当に覚悟があるのなら、この『物語改変』をくれてやる。ただし、それはより苦しい、かっこ悪い道かもしれない。お前にはそれを成し遂げる勇気があるのか?」


 シーザーにはそんな勇気などなかった。だが彼の脳裏に浮かぶのは、仲間たちの覚悟の姿だった。自らの顔が骸骨になるのもいとわず人々を癒すアン、腕がぐしゃぐしゃになるまで戦うジャンヌ、自分のことはいいからジャンヌを救ってやってくれと頼んできたブラウンたちの、強い生きざまだった。

 自分が彼らと同じように強く生き抜くことができるとは思えなかった。だがそれでも見捨てるわけにはいかないのだ。


「僕は臆病者です。でもどうせ臆病者なら、前のめりに死にたい」


 シーザーはそう言うと、ロックの差し出す輝くページを、震える手でつかみ取った。

 するとそれを待っていたかのように、シーザーがこの世界へ入ってきたときの扉が、まるで導くように再び光りだしていた。


「確定した物語は変えられないが、これから描こうとしている物語は、お前さん主人公たちの力で変えることができるはずだ。さあ、お前さんの戦いっぷりを期待してるぜ」


 そのロックの言葉にシーザーは無言でうなずくと、扉に向かっていくのだった。



 残されたロックとサロメ。思わずサロメがいたずらに尋ねる。


「こないだまでは『もう二度と物語改変の能力を使うつもりはない』と豪語していた人が、いったいどんな心境の変化かしら」


「こっちもちょっと数字を稼ぎたくてね。それにちょっとばかし嫌な予感がする」


「言い訳が下手ね。本当は彼のこと、少し気に入ってるんじゃなくて」


「確かにあいつはおかしな奴だ。自分の命は簡単に投げ出せるのに、人の命は選択すらできずにハッピーエンダーを呼び出したんだ。

 優しすぎるが故に『本当に死ぬまでに何度も死ぬ勇者』って奴の冒険が少し気になっただけさ。本当にちょっと興味が湧いたのさ」


 その無理やりな言い訳にクスクスと笑うサロメ。


「相変わらずあなたも嘘が下手ね」


「サロメ、君に比べたらマシなほうさ。それに、嫌な予感がするのは本当だ。『報奨金は山分けだぜ』なんて仲間の死に際の台詞、出来過ぎだ。

 今回だけじゃない、これからもまだ『物語改変』が必要になる気がするんだ……」


 ロックはそう呟くと、シーザーが旅立っていった扉を深く見つめるのだった――

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