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夏霞  作者: あかるい
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ふらんす物語

リハビリで短編を書いていきます


りおくんがあたしに告白しそうになったのは、さだかではないけれど、大学四年生のときだったと思う。そのとき、あたしは全力で逃げた。何でかわからないけど、腕を大きく振って、なるべく速い速度で逃げた。りおくんは追ってこなかった。あたしは夢中で階段を駆け下りて慌てて電車に乗った。

そんなりおくんときょう、あたしは夕飯を食べる。りおくんの予約してくれたフランス料理屋で。

「ついたよっと」

あたしは車の中でりおくんにLINEを送る。それからリップを塗り直して前髪を整える。りおくんのことを男として見ているわけじゃない。けれどもりおくんは一度わたしに告白しようとしてくれた人だから。いつまでも、彼にとってのファムファタルのような形でいたいというのが女心なわけで。

しかしいつまで経ってもりおくんはこない。もう約束の七時になっちゃうよ。あたしはしぶしぶ車を降りて、先に店に入ることにした。予約したりおくんがいなくて、エスコートを受けるはずのあたしの方がさきに店に入るなんて、なんだかみっともないなあと思った。LINEもないし、どうしたのかなあ。

「いらっしゃいませ」

五十代くらいの優しそうな女の人は、ゆったりとあたしを奥のテーブルに座らせた。お水を持ってきてくれた金髪の男の子はとても美しくて、含んだような笑い方をしたので、あたしをどきりとさせた。りおくんが来なければ、話しかけていたかも。あたしはお礼を言ってメニュウを眺める。お肉やキッシュ、ピッツァなどが並ぶ。やっぱり、お肉かなあ。りおくんは、何を食べるんだろう。

りおくんは、十分後、走ってきた。ごめんね、出る時間を間違えた、と言った。いいよ、いいよ。それよりなにを食べる? あたしは聞いて、メニュウを渡す。結局、あたしはピッツァを、りおくんは、ラザニアを食べることになった。せっかくだからということでコースにして、黙々と食べた。料理はおいしかった。でも、あたしはなんでもおいしいと感じるから、特別味が一流だとか、そういうのはわからなかった。

「それで、社長、前は表現することを否定するわけじゃないって言っていたのに、会社の信用に関わるから、もう小説は投稿するなって言われたんだよ?ばかみたい」

あたしの言うことに、りおくんはうんうん、と聞いていた。りおくんのニュートラルな、肯定とも否定ともいえないようなあいづちがすきだな、と思った。しっかりした顎と歯並びと、そういうあいづちがすきだな、と思った。

あたしはりおくんの分までお会計をした。あたしが誘ったから、今回はまかせてくれというと、りおくんはありがとうと言った。無駄にかっこつけないところもいいと思った。

お店の外へ出ると、りおくんは「車を擦っちゃったんだよ」とあたしを手招きした。あたしがしゃがんでどこ?というと、りおくんもしゃがんで、ここ、と言った。しばらくふたりで黙っていた。キスをするのかなあと思ったけれど、しなかった。りおくんとキスしたことがなかった。何度も遊んでいるのにキスしたことがなかった。そこも好きだった。

「またご飯行こうね」

「うん」

「仕事頑張ろうね」

「頑張ろう」

車の中からりおくんに手を振った。りおくんも手を振りかえしてくれた。車を走らせる。街中の光が線になって過ぎ去っていく。いい一日だったなと、あたしは思った。

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