イカサマは、彼の男の為に
「女?手を抜く対象になどならんな」
「子供?ゲームの相手にすらならんな」
イカサマをするなら、それなりに態度をわきまえなければならない。イカサマをしてる時点で、俺らは全うにゲームをプレイしているヤツらよりも、地位は下だ。
それも下の下。はるか下。たがそのイカサマ野郎が善良なプレイヤーよりも上に立つことができる瞬間がある。それは、
「ゲームに勝利した時だ」
敗北は勿論、引き分けでもアウト。イカサマやって引き分けなんて、負けも同然。当然、イカサマがバレても負け。
最高のギャンブルだ。ゲームでハラハラ感を味わいたいのなら、私はイカサマをオススメしよう。
ここは、現在、絶賛!鎖国中である「九条の國」。鎖国中の国ではあるが、周りの国々は開国は求めようとしない。
何故ならば、この国はギャンブラーの集う国だからである。治安は決して悪くない。悪化を防ぐために、国が警備隊を大々的に組織しているからである。しかし、一度ここを訪れたものは、決して帰ることはできない。
国が束縛、拘束するといった事は一切行っていない。本人の意思次第で、帰ろうと思えば用意にこの国の外に出ることができる。ただ、この国に来訪して賭けグルイにならない者はいない。そんな国への渡航許可を出す国は殆どない。
そんな九条の國、西の端にあるカモノハシ地区にて、一月ぶりの来訪者が現れたのである。
「いらっしゃいませ。お客様」
「この店に、トランプを用いたギャンブルはあるか?」
店員は懇切丁寧に応じた。
九条の國に存在する店は、カジノや賭け事に関した店以外も全て国営のものある。店員はマナー、作法、行儀を徹底的に躾けられており、清潔感を保っている。また、荒事を治めるために武道もマスターしている。
彼らは決してギャンブルに溺れたりはしない。そうして破滅していった者らを幾人も知っているからである。
「もちろん、ご用意がございます。遊ばれて行きますか」
「ああ」
「では、ご用意致します」
ギャンブルは、トランプ等の場合、その店の店員か、店に居合わせた他の客かのどちらかとすることになる。
ルーレットやその他コインゲーム等は、きちんと一卓につき一人のディーラーが付いている。
そして、唯一この国の人間が関わらない競技がある。それが、チョイス・ユア・ルールズという、競技である。この賭け事は、人数が二人~上限なしというあらゆる形で行われる。ルールは、賭け金が最も多いものが選定する。あまりにも理不尽なものや、人の殺傷を必要とするものは、禁止されている。
そして、当然のこどく、どの競技であっても、「イカサマ」は禁止である。
「イカサマは禁止となりますので、ご理解下さい」
「承知している」
店に訪れた男は、店員と部屋に入り、トランプを始めた。
「この国の店員は皆、国家公務員と聞いた」
山から一枚カードを手にし、男はおもむろに話し始める。
「ゲームは、インディアンポーカーでよろしいですか?」
男はこくりと頷くと、話を再開した。店員は自身の引いたカードを額の前に当て、同じく相手の額に当てられたカードを見つめ、何一つ表情を変えないまま、淡々と自身のカードを取り換える。
「一つ質問なんだが、お前がこの島で一番やりたくない賭け事はなんだ?」
「・・・・・・」
店員は男がカードを取り換えないと意思表示したところでようやく口を開いた。
「チョイス・ユア・ルールズ、通称ルールズというゲームでございます。もし遊んで行かれるのでしたら、後程案内できますが、いかがいたしましょう」
「悪いな。では早速お願いする」
そう言うと、男はテーブルの上にカードを置き席を立った。店員も額に当てていたカードをテーブルに置く。そこに書かれた数字は、男のものより小さかった。
「かしこまりました。賞金は既に振り込まれています。ご入国の際に身に着けていただいた時計から確認ができますので、よろしくお願いいたします。時計はこの島から出国されるまで外れることはありませんので、お忘れなきよう。時計内に振り込まれたお金、また、あなたが入国の際に時計内に振り込んお金は、最終的に残った分を出国の際にお返しいたしまします。勿論、あらゆる通貨への変換が可能ですので悪しからず」
相変わらず、男は不愛想に店員に背を向けたままだった。
「手配した車が到着したようですので」
そう言われると、男は早々に車に乗り込んで去っていった。
店員も客の見送りが済むと、自身の端末に
「カモノハシ区店舗E302 マイナス ワンビリオン」
と記録した。