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『今日の柏芽町の天気予報をお届けします。本日は、強い高気圧が日本列島を覆っており、晴れの天気が続く見込みです。


 また、午後からは地球へと降り注ぐ宇宙線量が増加し、ペネストラ第25β系の天体動体が発生するため、捕食者の襲来確率が高くなる見込みです。お出かけの際は近くにある対捕食者専用シェルターの位置を忘れずに確認するようにしてください。


 今日一日、晴れの天気を楽しみつつ、捕食者にも気を付けてお過ごしください。それでは、素敵な一日を!』

 テレビに映ったお天気お姉さんの笑顔を見てから、私は学校のカバンを持って立ち上がった。リビングにいるお母さんに行ってきますと言って、そのまま玄関から家の外へと出る。天気予報通り、外は快晴で抜けるような青空が広がっている。私は家の玄関前に停めている自転車に跨って、そのまま高校へと走り出す。


 いつも通りの朝。いつも通りのルーティン。だけど、今日はいつもよりも少しだけペダルを踏む力が弱い。午後から捕食者が現れる予報があるからだけじゃない。踏切の遮断機が降りて、私は自転車を止める。暑い日差しで湧き出してくる額の汗をぬぐい、私は空を見上げた。


 それから私は昨日のことを思い出す。あの放課後の図書室でのこと。思い出した瞬間、強烈な羞恥心と後悔が襲ってきて、思わず私は自転車のハンドルに頭をくっつけ、大きな声でため息をついた。ため息の声は遮断機の警報でかき消され、目の前を横切る電車が、蒸し暑い風を置き土産に遠ざかっていく。


 私は日差しで熱くなった自転車のフレームを額で感じながら考える。どうして人は誰かを好きになるんだろう。そして、それが絶対に叶わないと知ってても、どうして好きという感情を伝えずにはいられないんだろう。


 教室に到着する。ほとんどのクラスメイトがすでに登校していて、昨日のテレビとか、SNSの話で盛り上がっている。私は誰とも目があわないように顔を下に向け、目立たないように忍足で自分の席へと向かった。だけど、もう少しで自分の席だというところで、誰かとぶつかり、咄嗟にごめんと声を出す。


「……気をつけろよ」


 一番聞きたくなかったその声に、顔を下に向けたまま私は固まってしまう。ぶつかった誰かさんは何事もなかったかのように私の横を通り抜けていく。私はバクバクと脈を打つ心臓を憎みながら、唇を噛む。結局意識してるのは自分だけみたいな気がして、どうしようもなく情けなかったから。


 私は顔をあげ、振り返る。そして、さっきぶつかった雄介を目で追いながら、好きになられる側はなんてずるいんだろうって思った。何かを失うことも、惨めな思いもすることも、行き場を失った気持ちを抱え続けることもないんだから。


 ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴る。私は悔しさをぐっと心の奥に押し込みながら自分の席に座った。何事もなかったように、今日も昨日と同じ一日が始まっていく。

「今日の柏芽町」

 天候:     晴れ

 最高気温:   31度

 最低気温:   22度

 捕食者襲来回数:4回

 被食犠牲者  :土井佐知子(89歳女性)

         飯島辰雄 (82歳男性)   

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