45 大好きなぬいぐるみ
私にはセフレが居る。
恭平とは手芸教室で会って、酔った勢いでそうなって、関係が1年近く続いてる。
1年も一緒に居たらセフレっていうか好きになっちゃう。クリスマスも正月もバレンタインも一緒だったしもう彼女でしょ。寧ろ奥さん?
恭平は普段素っ気ないんだけど、この前手作りの黒猫のぬいぐるみくれたの!
「恭平……」
私、このぬいぐるみが大好き。毎晩一緒に寝てる。
明日も恭平に会うの。夕飯を作りに行くんだ。
「ご飯美味しい?」
「んー……」
「んふふ」
肉じゃがを食べ終えた恭平が気の無い返事をする。それも可愛くて私は頬を持ち上げた。
「今日は帰るね。週末また来るからその時、ね?」
「んー……」
スマホを弄り始めた恭平にクスリと笑い、私は来慣れた部屋を出たのだった。
週末会ったらこう言おう。「本命にして下さい」って。
「恭平好きぃ」
家に帰ってから、私はずっと布団で大好きなぬいぐるみを抱き締めていた。
「早く週末にならないかなー……」
その時、LINEの着信音。
恭平かな? そう思って手を伸ばした――瞬間。
ドンッ!! と爆発音が響いた。
「っ!?」
顔面から熱波に襲われた私は、いとも簡単に意識が途絶えたのだった。
***
ピーポーピーポーとサイレンが響く中、俺はスマホを取り出した。
消防車が向かう先、セフレ――いや、勘違い女のアパートが燃えている。
「どんどん怖くなっていったよなあいつ……」
セフレで居る内はまだ良かった。
いつしかクリスマスも正月もバレンタインデーも家に押しかけ始め、遂には「恭平ー!」と家で夕飯を作って待ちだし始めた。俺がどれだけ素っ気なくしようが通い妻気取り。
その恐ろしい勘違いっぷりがいつ俺に牙を剥くのか。それが堪らなく恐ろしかった。他に彼女を作ったら殺されそうだし。
だから殺される前に殺そうと思った。
ぬいぐるみに盗聴器と遠隔爆破装置を仕込んでプレゼントし、あいつがぬいぐるみの近くに居る時に爆破スイッチを押す。
スマホの近くで燃えたなら火元も簡単に特定出来まい。多少の爆発音すら誤魔化せる。証拠も全て燃え完全犯罪の出来上がりだ。
「やっと終わったーー」
俺は目一杯伸びをする。罪悪感よりも解放感があった。そんな俺も、きっとあの女と同じくらい頭のネジが外れてる。
胸いっぱいに夜の空気を吸い込み、俺はマッチングアプリを開きながら歩き出した。
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