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病院事変・後

 目が覚めると四畳ほどの中央にベッドがある部屋にいた。ここが待機場所だろうか。

 一歩進み、ベッドの感触を確かめる。ふかふかで高級品であろうことは間違いない、ここで眠れば楽に死ねるということかな。


 ベッドに腰かけて考える、勝ち筋に関してだ。

 まず、真珠のジジイは黒だろう。これはほぼほぼ間違いないと思う。理由は会議の時に話し合った通りだね、あのジジイなら糾弾する材料を持っていたら振り回すはずだ。それを行わなかったということは、その場の思い付きで吊り逃れを敢行したってほうが理屈が通る。

 次に呼び巫女、いわゆる霊能者と呼ばれる彼らは真珠のジジイが黒であることを前提にするけど、ほぼ内通者と本物、灰白って可能性がほとんどだ。理由はジジイが役に立たないのに吊られる位置に来るはずがないから。夜会話でそれは事前にわかっていたはずだ。

 進行としては、銀が瑪瑙か玫瑰の二人のうちから黒を見つければゲームセット。正直、もう真珠のおかげで詰みに近い状況なんだよね。

 銀が瑪瑙に白を出せば、逆説的に玫瑰が黒であるとほぼ言えるし、その逆も然り。内通者は白扱いだから、残りの黒を吊ればその時点で勝ちだしね。

 負け筋としては明日呼び巫女を吊っちゃって、本物を引いてしまうことかな?


 コンコンっと扉もないのにノック音が鳴った。

 スッと、以前に閻魔様がやったように空間が裂ける。


「待たせたね、瑠璃君」

「やはりアナタでしたか」


 現れたのは玫瑰のお婆さん。占えと言った場所は間違っていなかったようだ。


「ふふっ、お見通しだったのね」

「真珠のおかげですよ」

「あら嫌味? いえ、確かにそうよね」


 コロコロと上品に笑う玫瑰。おおよそ俺を殺しに来たようには見えない言動だ。


「真珠とアナタが黒、多分ですけど……。ああ、これは言っちゃダメか」

「私は内通者が誰かわかっていないものね。どうして私だと思ったか教えてもらえる?」

「簡単ですよ、真珠があれだけ悪目立ちするなら相方は目立たないようにするか、食ってかかって繋がりがないと思わせるのが一般的です。アナタは前者でした」

「瑪瑙ちゃんもあまり喋らなかったようだけど?」

「彼女は広い視野でもって全体を把握しようとしていただけですね。聞かれたことには積極的に答えてますから、黙って見守っていたアナタとは印象が違う」

「そう…。お見事ね、アナタがこちら側なら勝てたのかしら」

「真珠みたいな奴が身内にいたら勝つものも勝てませんよ」


 それはそうねと、玫瑰は柔らかく笑い、スッと真顔に戻った。


「ごめんなさいね、お空の上で見ていて頂戴。私と真珠だけなら喜んで負けを認めるけれど、内通者の命も預かっている以上、まだまだ勝ちを目指すわ」

「ええ、悔いのなさらぬように」

「ありがとう、さようなら」


 玫瑰が光で構成された剣でもって俺の腹部を貫いた。

 何ら異常のなかった身体が光の粒になって消えていく。


「もう会うことはないけれど、よい人生を歩まん事を祈ってるわ」










「お、来たのう」

「閻魔様」


 気づけば例の真っ白な空間にやってきていた。

 そこでは閻魔様が白い靄が集まったモニターにて、そろそろ始まる会議を観戦していた。


「見事な立ち回りじゃった、殺されるところを含めての」

「経験者ってだけで殺される可能性が高かったですからね。精一杯勝ちの目を残せたと思います」


 実際にほぼ詰みの状態だしな。

 頼むから進行役の銀さんは下手を打たないでくれよ?


「お主、配役はどう見た?」


「銀が祈祷師、金が呼び巫女、硨磲が内通者、真珠と玫瑰が黒で消去法的に瑪瑙が宿直。こんなもんですかね?」


「うむ、見事だ。金を本物と見抜いた要因は?」

「『ほう、君が内通者か。≪呼び巫女宣言≫、私が本物だよ』、硨磲が呼び巫女宣言した時に言った言葉です。金が本物と考えたのではなく、硨磲が偽物と判断した理由ですね。

 なぜ内通者と決めつけたのか、あの段階では黒の可能性だってありましたよね? 思わず咄嗟に自身の役職を擦りつけようとして出てしまったんでしょう。指摘しないことで彼を金より吊りやすくするメリットがありますからスルーしましたが。

 まぁ、相棒が気づいてくれるかはわかりませんね」

「ふーむ、黒が有利じゃったが結果はこのざまか。なかなか難しいのう」

「テーブルゲームは一人無能がいれば崩れるものですよ、ある程度は仕方ありません」

「そういうものか。

 お、そろそろ刻限じゃ。会議はどう転がるかの?」










 前日と同じくブザー音が鳴り、天井のタイマーが始動した。会議時間は変わらずに一時間だ。


≪瑠璃が輪廻の輪へと返りました≫


『ああ、相棒…。やっぱりか。≪祈祷師宣言:瑪瑙白≫!』

『はいはーい、≪呼び巫女宣言:真珠黒≫!』

『同じく、≪呼び巫女宣言:真珠黒≫!』


 想定通りの役職結果だ。詰みだね。

 内通者はここで白を出さないといけないのに両者が黒だししてしまった。


「ここから黒が勝つにはどうすべきかな?」

「無理でしょう。考えれば負けは覆せないと理解できます。

 あるとするならば、どんでん返しで呼び巫女を吊るぐらいですが信用的にも硨磲が先に吊られるので意味がないです。

 玫瑰のお婆さんが宿直を騙ればもしかしたらがありますが、白は農民の俺しか死んでないのでカウンターで瑪瑙が宿直で出て潰されて終わりですね。

 むしろ、瑪瑙さんの頭の回転の速さなら先手で宿直だと宣言するかもしれません」


 現在は確定した銀と真珠を除いて、五人のうちに黒と灰が一人ずつか黒一人の状態だ。

 そのうち呼び巫女は灰白、もしくは黒白。全体で見れば瑪瑙、瑠璃、玫瑰の三人に灰か黒は確実に混ざっていることになる。

 そして、ここで瑪瑙に白。内通者か白しか有り得なくなった。ならばグレーゾーンにいる玫瑰を狙うのが常道。彼女だけ色がわかっていないから、瑪瑙の白か灰で悩むより黒の可能性がある者を狙うほうが勝率が上がるからね。

 金も銀も、情報の出し方的に瑪瑙を白と思ってるだろう。銀は昨日の真珠に対する怒りが本当かどうかを見極めたくて占ったんじゃないかな。で、結果は白だったので腹の中では玫瑰一択になっていると思う。


「ほう、お主の考えは参考になるの」

「考えを読むのやめてくださいよ……。聞かれたら答えますから」

「すまぬすまぬ。つまり瑪瑙を吊れば黒の勝ちで、玫瑰を吊れば白の勝ちってことじゃな」

「まぁ、簡単に言うとそうですね」


 瑪瑙と銀が答えを導いてくれるだろうし、安心してみているとしようか。



『呼び巫女は両者共に黒出しか』

『アンタは私に白出しだね、銀』

『昨日の真珠に対する態度が本物かどうかが気になってな。相棒にアンタと玫瑰の二択だって言われたんで素直にアンタにしたよ』

『そう。じゃあ宣言するわ、≪宿直宣言≫! 昨日守ったのは銀、アンタよ。今日は玫瑰吊りで文句ないわね?』

『ちょっと待っていただける? ≪宿直宣言≫、彼女は内通者ね。真珠との同陣営を疑われないために、彼に対して怒ったのだと思うわ』

『おっと…。こいつは参ったな……』


 お、悩んでるな銀さん。ブレるとまずいから、当事者から外れている金君がアドバイスをしてあげてほしいな。


『銀のお兄さん、吊るのは玫瑰のお婆さんにしたほうがいい』

『ん? そいつはなんでだ、金の字』

『白を吊っても勝ちには繋がらないから。呼び巫女の中に本物と黒か灰が居て、銀お兄さんは本物。それで瑪瑙お姉さんは白だから、中身は内通者か白。これ以上は詰められる情報が出ないからお婆さんを吊って明日に賭けたほうがいい。瑠璃お兄さんもそう考えると思う』


 金君は人の思考をトレースするのが得意みたいだ。

 俺の言いたかったことを銀さんに伝えてくれた。


『銀、アナタの選択を私たちは恨まないわ。瑠璃が託した今日を、相棒と名乗ったアナタが繋ぐべきではなくて?』


『そうか…』


 銀さんはかなり悩んでいるようで、彼は腕を組み制止する。沈黙が場を支配した。


『決めた、すまんな婆さん。今日はアンタを吊る』


 銀さんが選んだのは玫瑰だった。

 玫瑰のお婆さんは肩を落として落胆し、スッと前を向いて言う。ここから覆せるか。


『もし明日が来た場合のことを考えて、先に相談しておくべきではないかしら。

 私の視点だと今日の犠牲者か瑠璃さんで内通者が落ちていない限り、明日は黒と内通者でパワープレイになるわ。宿直はもういなくなりますからね』

『そうだな、明日のことを話しておきたい』

『と言っても、今日さえ乗り切れば詰みでしょ? 白からしても黒にしても』


 金君は盤面が見えているみたいだ。

 頷いている瑪瑙さんもな、黒陣営の敗因はやはり真珠のジジイだな。


『玫瑰が偽物なら、私が本物だから銀の占いが絶対通る。つまり呼び巫女の真偽が出て終わり。私が偽物ならば、玫瑰が本物なので宿直がおらずに銀が噛まれて黒が実質人数で上回ってパワープレイ盤面ね。私の票を巡って呼び巫女同士が黒だと言い張る状況になる。

 簡単に言うと、生存三人黒白灰、生存四人黒白白白の二パターンで明日は来るわ。玫瑰が黒なら今日で終わり。玫瑰か瑠璃が灰だったなら黒白白白で銀が呼び巫女を占った結果出して黒陣営の負け、私が灰なら占いが噛まれて呼び巫女が黒の主張をするしかなくなるってわけね』

『君を黒が噛む場合があるのではないか?』


 硨磲が結果以来の発言をする。半分諦めてるなこれは。


『なんでよ? 占いをつぶさないと確定で負けよ。私を噛むわけないじゃない』

『失礼、そうだったな…』


 もう、参加している人たちは配役をわかっているみたいだ。それを言わない優しさはあるが。


『ねぇ、銀さん。私から票を変えるつもりはないのよね?』


 重い雰囲気になっている中、玫瑰が言葉を発した。


『ああ、明日が来るにしても来ないにしても今日は婆さんを吊る』

『そう……、ごめんなさいね硨磲さん』

『……いえ、潮時でしょう。アナタは頑張ってくださいました』


「自白したのぅ」

「玫瑰を吊るのは変えないと言い切りましたからね、負けるなら最後の言葉を残したいのでしょう。

 閻魔様、何かメモを残してあちらの世界に持ち帰ることはできますか?」

「不可能じゃ、ここは精神だけの世界だからの。

 だが、ここで聞いたことをお主の記憶に刻み込むことはできる」

「お願いします、硨磲さんと玫瑰さんの御遺族に最後の言葉を伝えたいですから」

「ふむ、損な生き方をするのお主」

「慣れてますよ、いつものことです」


 その言葉を聞いて、笑顔で俺の頭を触る閻魔様。ぼぉっと頭が暖かくなり、なんだかさえわたっている気がする感覚に陥った。


『そうよ、私が黒の謀反者。どう頑張っても負けみたいだから、私と硨磲さんの最後の言葉を家族に伝えてもらえるかしら』


 玫瑰の発言で白陣営の参加者は表情が曇る。

 その光景を見て、玫瑰はコロコロと笑った。


『落ち込まないで、むしろ私は負けたことで真珠が生き返らないことに安堵しているわ。硨磲さんには申し訳ないけどね』

『いえ、私の命であの痴れ者を地獄に連れていけるなら安いものですよ』


 穏やかな表情で硨磲は玫瑰を擁護した。口の端が震えている、自身に迫りくる死への恐怖は拭えていないのだろう。


『ありがとう。私の名前は天量寺喜久子、六十八歳。息子の大輔には嫁の涼子さんを大切にするようにと伝えてください。

 涼子さんには、不束な息子ですが末永く支えてあげてくれるようにと。産まれてくる孫には家の畳の下に隠してあるへそくりで玩具でも買ってあげてと、言伝をお願いします』

『確かに、承った。硨磲さん、アンタは?』


 震える声で銀さんが硨磲さんにも問う。


『そうだね、特に言伝はないが…。私、大島卓の墓には桔梗を一輪備えてほしい。早くに亡くした妻と同じ名前の花なんだ』


 金君も、瑪瑙さんも耐えられずに涙をこぼして、テーブルに頭を擦りつける。


『ごめんなさい……。アナタたちの犠牲の上で私たちは生き永らえます……!』

『いいのよ瑪瑙さん、死ぬのが私たち年寄りでよかったと思っているもの。懸命に生きて、あちらに来たら土産話を聞かせて頂戴?』

『はいっ……! はい……っ必ず!』

『お婆ちゃん、硨磲さん。僕、心臓の病気なんだ。でも絶対治して頑張ってリハビリもするから…!』

『うんうん、世の中楽しいことも多いわ。アナタの土産話も楽しみにしてるわね』

『う”ん!』


 瑪瑙、金、玫瑰で励ましあっている中、硨磲と銀が会議の内容を確かめる。


『硨磲さん、アンタずっと手を抜いてただろ?』

『わかってしまったかい? うん、若い子ばかりだったからね。負けてもいいとは思っていたんだ。金の少年も私の対抗だから確実に白だったし、そういう意味じゃ導いてくれた瑠璃の青年にも感謝しないとね』


 まったく発言しなかったからな、やる気がないように取れた。それで偽を疑っていたがやはりわざとか。


『すごいやろ? 俺の相棒だからな』


 いつの間にか凄い信頼である。

 そこで終了のブザーが鳴った。


『時間になりました、投票を行ってください』

『では諸君。我々の分まで良い人生を!』


≪硨磲が投票を完了しました≫


『自分は選べないのね…。言伝、よろしくお願いしますね』


≪玫瑰が投票を完了しました≫


『そういや、名乗ってなかったな。まぁ、生きてたらまた会えるだろ! 相棒の瑠璃にもな!』


≪銀が投票を完了しました≫


『同じ病院にいたんだしね。じゃあまた! あっちで会おう!』


≪金が投票を完了しました≫ 


『必ず、アナタたちのことを伝えるから!』


≪瑪瑙が投票を完了しました≫


≪投票が終了しました。結果、玫瑰肆票・銀壱票≫

≪玫瑰が処刑されます≫




≪謀反者は討たれ、素晴らしい朝がやってきました≫




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