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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

枝巻き 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ふーん、リボンのカタログねえ。女の人への贈りものとして、リボンはいまどれくらい人気があるんだろうな。ヘアゴムとかシュシュの勢いもあるような印象だな。

 髪の毛をまとめるもの、といって思い浮かべるもののひとつはリボンだろう。

 装飾品としてのリボンの発達は17世紀前後かららしいが、シンプルに髪を縛るものに関しては、古くより扱われ続けている。

 昔は男も、結うために髪を伸ばすことが珍しくなかったし、服の留め帯などにも使われていた。

 そして髪は多くの神秘を宿すもの。魔術のたぐいなどで、髪の毛が成す役割が大きいことは古今でよく知られているな。


 髪の一本一本が強い力を宿すなら、それを束ねるリボンもまた強大。ときにリボンは、人以外に対しても特殊な使い方をすることもあったようだ。

 私の聞いた話なんだけど、耳へ入れてみないかい?



 むかしむかし。

 私の住んでいた地域には、「枝巻き」という風習があったという。

 その名の通り、枝に鉢巻きを巻くわけなのだが、これがただ手作りしただけじゃだめでね。

 14から20までの若い男か女のいずれかが、あらかじめ頭に巻いて20日間たったものを、木の枝に巻いていくのさ。

 樹に関しては、あらかじめ巻くものが決まっている。おのおのの村のはずれには、枝巻用の樹が植えられていたそうだ。

 ひとつの家につき、場所を離して三本。その中のいずれであれば、どの樹でも一番太い枝に巻きつけて構わなかったらしい。

 できればその家に住まっている者がいいが、事情があって若い者がいないと、その親戚のものが代用する鉢巻きを、同じ手順で用意する。

 半年に一度、これらのことは行われ続けた。

 厳重に管理されたうえで方角も全く違う三本だったから、いっぺんに全滅するようなこともなかったという。万一のときは、多少強引にでもよそからの植え替えが行われるほどだったとか。

 すでに興りがいつなのかも、はっきりとは思い出せないほどの歳月が経っていたのだが、これをおろそかにした年には、このようなことが起こった。



 その年は長きに渡る城攻めにより、若い者は軒並み戦へ駆り出されていた。

 留守を守る女たちも、昨年の流行り病で早世した者も多く、条件を満たす若者の数は足りていなかったという。

 そうなると一人で10人分でも、20人分でも間に合わせるよりない。


 条件を満たす女たちは、身体のあちらこちらへ鉢巻きを巻かれた。頭といわず、腕といい、足といい、何十本もの生地を巻きつけられる姿は、時と場所が違えばミイラに思われるかもしれない、隠しぶりだったそうな。

 外に出るのをよしとしない者も、少なくない。20日間の間、条件からはずれる女たちが特例で世話を焼くことが許されたという。

 布を汗以外で濡らすことは良くないとされたから、頭だけに巻いていた従来のようにもいかない。鉢巻き――いや、もはや全身に巻かれるそれを「鉢」巻きと呼べるだろうか――の巻かれ方によっては身体を拭うことも許されず、臭いをごまかすための香もさかんに焚かれた。

 そうして約束の期日が来たとき、はがされている手拭いたちの中には、皮と同化するかと思うくらいべったりと張り付いて、はがすのに細心の注意が求められるものもあったほどとか。


 こさえられた無数の手拭いが、それぞれの枝へ結ばれていく。

 できる限り血の近い者へ担当を振り分けたものの、中には本当にどれほどの先祖がつながっていたか、はっきり説明できないほど薄いつながりもある。

 それらはおおよそ、くだんの慎重に引きはがさねばいけないほど、ぴったりとくっついてしまった鉢巻きたちだったという。

 そこから村人たちがただならぬ事態を察するのは難しいことじゃなく、いつもにも増して厳しい監視が置かれたとか。


 最初に変化が見られたのは、鉢巻きが巻かれてから3日目。

 皮膚から引きはがしたうちの一本が、猛烈な硬さを持ったんだ。結びつけられた枝を離すまいと、ぎゅっとしがみついたかのよう。つまもうとしても、表面を形作る糸の一本さえほぐすことができない。

 皮脂が冷え固まったにしても、こうはいかないだろう。かといってヘタな手出しもできず、引き続きの監視体制。

 そして最初に確認された鉢巻きを追うかのように、他のべたつきの激しかったものから、順に同じような兆候を見せていったんだ。


 さらに7日後。

 真っ先に固まっていた鉢巻きが、今度はぼろりと外れていった。

 そう、ぼろりとだ。先日まで見せていた固まり具合がウソのように、鉢巻きは自らボロボロと身を崩し、いくつもの破片に分かれてこぼれ落ちていく。

 地面に転がったそれらは、いささかも柔らかくなっていない。硬きに硬きを重ねた結果、身が持たずに自分から砕け散っていってしまったかのようだった。

 他の鉢巻きたちもまた、同じような状態へ陥っていくも、今度はすべてが散るのを待ってくれなかった。


 一番手に砕けた鉢巻きの巻かれていた枝。そこからしとどに樹液が垂れ落ちるようになったんだ。

 幹や他の枝に、同じような気配はみじんもない。その分、一本の異状は際立っていて、幹から少しでも離れたところから先に至るまで、水でも被ったかのような徹底ぶり。

 特に先端からは、ときおり思い出したように、短い滝のような飛び出し方をしてしぶきを散らすことさえある。

 樹液の臭いもかぐわしいとは、とてもいえず。生ものを傷ませた夏場を思わせて、ほとんどの人は近寄る気がしなかったという。

 

 あらためて、鉢巻きを用意するべきではないかと、進言する者も出てきた。あの状態が続いてよいことなど、きっとないと。

 ほどなく、その予感は的中する。

 その枝を有する樹が突如、内側からはぜるようにして、一瞬のうちに四散してしまったんだ。その弾ける勢いもさることながら、幹の中はすでに木材として使えるのではないかと思うほど、乾ききっていたんだ。

 同時に、村の女たちにも異変が見られる。あの枝へ巻く、鉢巻を提供した者とその一族だ。

 当人は、かたわらにいた人の前で、みるみるしわくちゃに身体を変じ、干からびながら息絶えてしまった。

 それに連なる者も、近しきものは命にかかわる重体。遠いものでも身体の一部が、枯れたようにしなびてしまい、使い物にならなくなる始末。

 

 これらが、鉢巻きを砕け散らした枝すべてで起こった。

 無事でいられたのは外から来た嫁と、その子供くらいで戦場から帰ってきた男たちは、おおいにおののいたという。

 のちに彼らは、あれらの枝巻きはケガの止血を行うかのように、枝の止液とでもいうべき行為に相当したのだろうと振り返る。

 それが十分に押さえられなくなった結果、液は木の内部はおろか、それとつながりを持つものにさえ出血ならぬ、出液を課したのであろうと。

 


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