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青空のむこう  作者: どるちぇ
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水色のドレスの気持ち

遠く見つめた空にほんのり寒さが残っている、そんな青空。


あなたと一緒に過ごした季節は、とても短かったよね。

でもね、わたしの心の中を占める存在はあまりにも大きくて、どうしたらこの空白を埋められたりするのかな?


ねえ、誰か、教えて…






梅雨も終わり汗ばむ日も増えた頃、不意に飛び込んできた声。

「おはようございます。えーと、まずは各班から進捗報告と……」

のんびりした田園風景にある、小さな縫製工場である週初めの朝礼。確かここで働き始めてから聞いた事は何度もあったはずなのに、今日は何故か耳に入ってきた。

「はい。裁断から。反物は順調に入ってて、裁断も滞りなく進んでます。間もなく冬物に…」

班長は変わってないはず…

なのに、なぜ?





縫製工場では、作っているものが季節とは真逆になる。

夏に、冬物を。冬に、夏物を。

そうでなければ、間に合わない。


夏場に冬物を縫うのはなかなか手強い。

エアコンで空調はコントロール出来るが、厚手のコートなどの場合裁断クズや切った端から細かな[毛]が舞う。汗をかくと肌に張り付く。

カシミアなどの純毛だったりすると、静電気も起きて帯電体質な私はよく指先から火花が出そうなほどビリッとくる。

「っっ!!」

初めこそ悲鳴を上げたが、慣れてくると声も出さなくなる… なんてことは無い。不意にやってくるそれは抑えられるものではない。

「今日、何度目??」

「由莉ちゃんまたかぁ」

と、合間に声をかけられる。

「大丈夫~って言いたいけど、痛いです。」

苦笑いをして返事をしながら、黙々とミシンに向かう。


縫製ラインでは、私以外にも静電気に悩まされてるが居るけれど、裁断ではならないのかな??


聞いてみると、布地同士が動かされて擦れているのは縫製の時。裁断時はぴっちり重なっているから擦れない。だから静電気はないそうな…

なんか、ずるい。



汗をかくと張り付く細かい毛は、赤ちゃんの汚れの首輪みたいになる人もいる。

幸い、私は汗かきじゃないから首輪になることはないんだけど…



裁断場で大きめの切れ端が出ると貰ってきた。

髪留めにするリボンとか、小物を作るのが好きだ。

休み時間に職場のミシンを借りて、ちょこちょこっと縫う。これくらいなら怒られるとこも無い。 幼稚園に通う従姉妹のよそ行きのワンピースを作った時は、自宅のミシンではファスナーが上手く付けられず、社長に言って使わせてもらった。おかげて可愛い水色のワンピースが出来て、結婚式で新婦さんを花束を渡す役目を堂々としてきたらしい。



「ゆーーり。ゆり由莉。」

裁断場の班長が呼ぶ。

「犬じゃないんだから連呼しないでください」

ちょっとスネたように言うと

「そう呼びたくなるんだもんいーじゃん」

ニッカリ笑う顔に白い歯が見える。

「これ、使うか?」

製品が完成して出荷され、手直しなどで戻ってこないのを確認してからだとちょっと大きめの端切れも貰えることがある。

「これくらいだと、スカートくらい作れる?」

「そーだね。ちょっと短めだけど… うん。いいかも」

「俺は短いほうがいい脚が見えて…」

「おじさんの意見だね」

「ちょっと待て?8つしか離れてないんだが?」

「由莉ちゃんからしたら、西部くんだけじゃなくここに居るメンバーみんなおじさんよねぇ」

ステラおばさんみたいな恰幅のいいおばちゃん、石川さんが豪快に笑う。

休憩時間にお邪魔してもいやな顔せず、話を聞いてくれるここのみんなはこっそりと私の癒しなのだ。


「可愛いの作ったらまた見せてね」

石川さんがそう言ってくれるので、ついつい甘えてお邪魔してしまう。今度は、差し入れ持ってこよう。

「明日、休みだろ?みんなで飲むんだけど、行かない?」

「こーら、若い子をそう誘うんじゃないの」

「西部さん、また今度ね?」

何度も誘われるものの、いつも断っていた。

「いっつも振られるんだよなぁ」

西部班長に誘われては、私が断る。これもいつものパターン。




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