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獅子奮迅記 3

作者: くまそば

『獅子連合』

関東地区をそれぞれ統一する高校の、全国から悪くも評判の高い番長とその補佐たち16人の不良の総称。これはそんな奴らのくだらなくも眩しい日々を綴った記憶の物語である。


放課後というにはちょっとだけ遅い、陽が薄ら陰って街が紅く染まり始める時間。都心から裏に進んだ、常に薄暗さの目立つ路地を突きあたりまで進んだところにある小さな定食屋にいた。

「…ってことがあってさ」

「へぇ、それは楽しそうだね。わしも参加したかったなぁ」

「テンシが参加したら優勝だね」

「何のじゃ」

「え、全てにおいてに決まっとろうもん」

「真顔やめろよ殴りたくなるだろ」

「…!!」

「テツ、顔がうるさい」

サビれた店のサビれたカウンターに座るのは、真っ白い羽のような髪をなびかせる、この世に舞い降りた天使と表現しても足りない美の権化と言っても過言ではない今日も最高にカワイイテンシ。その幸せいっぱいの空間に割って入るのは、背中のサビれたテーブル席に胡坐をかいている錆色頭と“殴る”という言葉に反応して立ち上がった鉄色頭。

「つかワタシとテンシの会話に割って入らんといてもらえますー?」

「あ?こっちが先にいたんじゃけど?」

「先人だからって割り込む権利は無いと思いますけど」

「勝手に聞かせてきたのはそっちじゃ」

「は?テンシとの大切で貴重でかけがえのない時間を他のやつらに聞かせるわけなかろうが」

「ハイハイ、ふたりともそこまでな」

「だってー」

「…ち」

ヤンキーの見本である錆を止められる発言力を発揮したのは、ココの主である食料の供給の手を止めない緑頭。優しそうな笑顔をこちらに固定しながら手は千手観音並みに増殖して見えるから怖い。

「おかわり(モグモグ)」

「キシは口の中にあるもの空にしてから喋ろうな」

「だいじょうぶ(モグモグ)」

「いや、喉に詰まらせたら危ないな」

「?」

そうして作られた色とりどりの料理が、しかし秒で黄色頭の口の中に吸い込まれていく。ワタシもずいぶん前に注文をしたと思ったのだが、こいつがいる以上もはや今日は食べられる期待はしない方が良いだろう。

「ミドリさん、食べてるキー坊に何を言っても無駄だと思うよー」

錆の向いで長ったらしい足を組んだ橙頭は、嘘くさい笑顔を浮かべている。

「しかし若は相変わらずバカな…面白いこと考えつくよねー」

「お目付け役だろ止めとけよ」

「管理外のことはちょっとー」

「それで?本当にバンドやるのな?」

「…バカとキンがものすっごくノリ気だからな。それに今更断ったらチャッパがまたうるさそうだから一応保留にして、忘れてくれるのを待ってる」

「えー、やればいいのにー」

「付き合うこっちの身にもなってくれよ」

「その割に楽しそうであったぞぃ」

「!!」

盛大な溜息をついたその一瞬、背後に気配が現れて反射的に体が大きく跳ねた。

「おかえり」

「只今戻り候」

テンシがニコニコとワタシの後ろに手を振る。ゆっくりとそちらに顔を回すと、いつも通り口元を黒マスクで隠した灰色頭がいた。そして、その片手には襟を掴まれ引きずられる銀色頭がいた。

「…いつも言っていると思うが、勝手に背後に立つな」

「あいすまぬ。クロ殿の背後は立ちやすく」

「立ちやすい背後ってなんだよ」

「おかえりーハイロ。ギンジ見つけてきてくれてありがとー」

「うむ。遅くなり申した。銀殿がうまく見つからず」

「ぬぬー。ジブンはちゃんとこちらに向かっていたと思うたんすけどね。仕方ない」

「何も仕方なくねぇよ」

そのまま銀は椅子に縛りつけられていた。目を離すとすぐどこかに消えてしまうやつでも、鉄がその縛りを担当したせいでしばらくは逃げられないだろう。

「まぁ、どうせムラキとチャスケもきてないし(モグモグ)」

「…あー、今日って補佐集会やるの?」

「むしろここまで揃っていて何もしないと思っている方が素晴らしいですね」

「テツ、顔も言葉もうるさい」

「遠慮せずその欲望をぶつけていただいて構いませんよ!」

「ただ手を丸めただけだから黙ってくれるか」

両手を広げる鉄を無視して、改めて体ごと後ろに向き直す。

補佐集会とは月一くらいで行われている獅子連合の補佐役が集まる会のことで、その内容はただの近況報告なり、自分が担当する大将の自慢なり、力比べという名のケンカで補佐内のランキング決めなど意味のない連れ合いである。大体この店で開催されるため、ここが家の緑とよくデート(自称)のために立ち寄っているテンシとワタシは慣れたものだ。

「今回は何するの?」

「あー…いい加減、コレの補佐役を決めようかと」

「…は?」

「はあ!その蔑んだ顔さすがです!ミーに向けてくれたらもっと最高です!!」

「テツ、全部うるさい」

銅に指さされ脊髄でそれを叩き落とす。勢いで回った腕に殴られそうになったが鉄がすかさず間に入って受け止めてくれていた。

「ワタシ一般人なんだけど。か弱い女子高校生なんだけど。補佐とかつけられたらオマエらみたいな不良と間違われてしまうじゃないか」

「いっぱんじん?(モグモグ)」

「オキィ、食べながら首傾げるのやめようか」

「どの口が言ってんじゃ」

「ココにいる時点で手遅れだね」

「テンシのいる場所こそ我在る場所なり」

「うわドヤッてる顔うざいー」

「失礼か」

全員が微妙な顔をするのはいつものことだが、ケラケラと笑う橙は後で殴ろうと思う。いや、絶対殴る。

「というか、何でそんな話になったんだ」

「連合トップのひとりであるアンタが補佐のひとりもいないとなると、連合として締まらないんすよね。それがピラミッドのてっぺんであればなおのこと」

「何度も言うが、一般人で普通でか弱いJKなのね」

「普通のJKは学ラン着てないと思うっす」

「女子用の制服作られてなかったんだよ」

元男子校で女子ゼロだったからとはいえ、用意ぐらいしておいてほしかったとは今でも思っているが。

「それにヤンキー連合のトップになった覚えも連合に参加した覚えもないのね」

「参加してないの?」

「参加は、したかもしれん」

「クロさんはシロさんに甘々なのな」

「僕たちだって納得はしてないけどこの連合の成り立ちを考えたらキミがトップなのは自然な流れだよー。納得はしていないけどー」

「確かに、うちのミドリが一番じゃ」

「…いやいや、一番はうちの若でしょー」

「キン先パイやね」

「もも(モグモグ)」

「主が最強と申しておろうが」

雲行きが怪しくなってきたと思ったら、やっぱり話が脱線した。内容はしょうもないくせに不良たちは空気が張り詰めるくらいバッチバチに顔を突き合わせている。だが、その顔はどこか楽しそうだ。

「…はいはい全員そこまでな」

しかし、それも緑の一言で解けた。彼も笑顔だが、ここにいる誰より重い空気をまとっていることが一般人のワタシでも分かる。

「…とにかく、トップ同士の再戦がない以上クロミーさんが我々の番長なのでその補佐を決めねば、という話になったのです」

「いらんて」

「もらっておいたら?」

「テンシの言葉でもなー。邪魔なだけじゃん」

「…さすが主とクロ殿は、ミドリ殿の圧にも平然としておられる…」

耳がかゆくてほじっていたから灰の声が上手く聞こえなかったが、何か不実なことを言われた気がする。

「…ふつうにかんがえたら、ミィさんところのオマエらどっちかだろう」

「キイロさんでさえ食べるのやめとるわ」

「あ?それならそっちの桃組じゃ」

「うちはふたごだからふたりでちょーどよい」

「お前らの方がコレの扱いは上手いじゃろ」

「そっちのほうがなかよしだ」

…ちょっと待て、なんでワタシが押し付け合われているんだ。

「タダ飯大食いと十八禁も嫌だけどただのヤンキーとドMも断る」

「ゼータクだなー」

「正当な評価だろ」

「お前のために話し合ってやってんだろうが。ブッコロスぞ」

「ハイ脅迫罪セーリツ。おまわりさーんこっちですー」

「よし、今すぐその口きけなくしてやるよ」

「お?ケンカですか?!ぞくぞくしますね…!!」

「ミドリ止めろよ。この錆色の保護者だろ」

「放任主義なのな」

「く」

「クロちゃん、少し遊んであげたら?」

「えーテンシが言うなら」

「あ、やるなら店の外でな」

「移動面倒だからやめとくか」

「あ?なめてんじゃねえぞ!!」

今にも殴り掛かりそうな銅は、しかし緑の店ということがブレーキになっているのかあと一歩抑えている。駄犬なりにしつけが行き届いているようで何よりだ。

「さっさと表出ろや!!」

「だが断る」

「すまんけど相手してくれな。好物作って待ってるな」

「えー」

「!」

「黄殿がやる気になってしまっておる」

「もうそっちで勝手にやればいいじゃん」

さっきまで緑に萎縮していたやつらも、いつの間にか元の面倒な感じに戻ってしまった。体の底から深い溜息をついた時、ふいにテンシと目が合った。

「…」

「!!」

テンシが天使の笑みを浮かべていらっしゃった。

「いってらっしゃい」

「いってきます!!」

いちもにも考えず、銅とついでに黄の首根っこを引っ掴んで店を跳び出す。一般人でか弱いとはいえ、テンシのお言葉を断れるほど野暮であるつもりもない。そして、いつの間に鉄もついてきていて鼻息荒くこっちを見つめるので気持ち悪い。

「やっぱり、シロさんが我らの中で最強かもしれないな」

「そう簡単なら、ワシはここまで楽しめとらんよ」

「そうかもな」

立て付けが悪いせいか何もしていないのに背中で扉がぴしゃん、と閉まった。ちなみに、普通JK代表のワタシは不良の相手なんぞできるわけがないので、初動でワンパンくらってもらって終了しました、まる。

忘れた頃にやってくるのでまたやってみたくなる。

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