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実家に帰らせて頂きます!(前編)【コミカライズ発売記念】

 春のぽかぽかお天気に誘われて…ぐー。


「王妃陛下起きて下さい」


 冷やかな声が執務室に響いた。

 目を覚ますとこれまた冷やかな視線が…。


「お疲れのようですし、少し散歩でもされたら如何ですか?」


 え?珍しい。明日雪でも降るのかな?

 目を見開いて専属護衛隊長を見つめると怪訝な顔をされた。


「私を鬼か何かだと御思いで?」


 穏やかな顔でゆるりと首を横に振った。

 思っていたのかと思われたのかルイゼルの眉間の皺が深くなった。


「じゃあお言葉に甘えて散歩でもしようかな」


 ルイゼルの機嫌が悪くなる前に立ち上がり伸びをすると行儀が悪いと言いたげな顔をされた。

 はい。慎みます。


 回廊に出ると暖かな日差しが足元を照らした。

 寒い冬も終わり、春の訪れを感じた。

 雪では失敗したけど今度は桜を咲かせてみたいな。

 そしてお花見!いいね~。

 スキップしたい気分を落ち着かせながら悠然と歩いた。

 だって後ろの人、怖いんだもん。


 最近、春になったせいか眠気と食欲が凄くて牛になりそうな勢いだ。

 過去三回運動しようとして挫折したけど、今度こそ運動しよ!


 ルイゼルと回廊を歩いていると角の奥から話し声が聞こえてきた。


「聞いたか?ついに陛下が側妃を迎えられる決断をされたって話」


 近くまで来て聞こえてきた話に足を止めた。


「ああ。前回視察に行った伯爵家の娘だろ?」


 あまりの衝撃的な話に心臓が嫌な音を立てた。

 私、そんな話、聞いてない…。

 呆然と立ち尽くしているとルイゼルが歩み出て話をしていた兵士達に咳払いをした。

 このままでは話が中断されてしまう。

 私は咄嗟にルイゼルの前に出た。

 私の出現に兵士達はヤバいと顔を真っ青にしながら頭を下げた。


「今の話、詳しく聞かせて」

「王妃陛下!?」


 ルイゼルが止めるのを手で制した。


「貴方達を罰する事はしません。知っている事を全て話しなさい」


 私の有無を言わせない態度に兵士達は低頭したまま顔を見合わせた。


「早く話しなさい」


 肩を震わせた兵士達は意を決して口を開いた。


「陛下が視察に行かれた時に伯爵家の娘を気に入られたとかで側妃に迎えると仰っているという噂を聞いたのです…」


 側妃…。跡継ぎの出来ない私にいつかは出る話だと思っていたけれど…。

 一言相談して欲しかった…。

 俯く私を兵士達は恐る恐る窺っている。


「分かりました」


 突然声を発した私に驚いて兵士達は姿勢を正した。


「話を聞かせてくれてありがとう。もう行きなさい」


 兵士達は逃げるように立ち去った。


「陛下の元に行かれますか?」


 ルイゼルに問われて顔を上げた。

 ゼオンを信じていたのに…絶対に許さない!!


「実家に帰らせて頂きます!!」




 急いで寝室に戻り魔法の箒を手に取った。


「落ち着いて下さい。一度陛下と話をした方がよろしいかと…」

「ルイゼル」


 私の声にルイゼルは姿勢を正した。


「私は側妃を迎える事に怒っているわけじゃないの」


 そりゃあ気分がいいものでもないけど。


「ゼオンが私に一言も相談なく、そういう話が出ているということが許せないの」


 火のない所に煙は立たぬとよくいうけれど、それらしい話はあったのだろう。

 でなければ噂になるはずがない。


 外に出て箒に跨った。


「受け入れる時間を私に頂戴」


 空に浮くとそのまま実家に向かって飛び立ったのだった。



 ゼオンには転移魔法がある。

 以前もそれで先回りされている。

 だがしかし!今回は絶対に捕まってやらないんだから!!


 そう意気込んではみたものの…。

 少し離れた空から子爵邸を観察した。

 ゼオンは魔力感知が出来るうえ、魔法の師匠でもある。

 私の使える魔法は全て熟知している。

 大魔術師のゼオンに勝てる気がしない!

 ラスボス恐るべし。

 こうなったら奥の手を使うしかない。

 その名も『冷たい瞳』。

 私だけがゼオンにダメージを与えられることができる唯一の技だ。

 魔力も何もあったものではないが。


 屋敷の前に降り立った途端、扉が開いた。


「エリィ!」


 やはりいたか!!

 私は駆け寄るゼオンを無視して屋敷に入ろうと歩みを速めた。


「エリィ!誤解なんだ!」

「あーあーあー今は聞きたくない!」


 必死のゼオンの言葉を遮った。

 ゼオンが私の歩みを止めるため、前に立った。

 『冷たい瞳』発動!

 一瞬怯んだが、ゼオンも必死なのか立ち向かってきた。


「エリィに話す必要がないほどどうでもいい話だったんだよ」


 足を止めゼオンを睨んだ。


「どうでもいいかどうかは私が判断することじゃないの!?」


 ゼオンの悲しそうな瞳に少し心が揺らぎそうになったところで溜息とともに家主の声が響いた。


「屋敷の前で騒がれては困ります。部屋にご案内致しますので話は中でして下さい」


 現れた父の顔は痴話喧嘩は他所でやってくれの顔だった。



 ティーカップを口に付けたまま父は右に左にと視線を動かしている。

 右はそっぽを向いている私、左は説得を試みようとしているゼオン。

 その姿に父はカップをテーブルに置き、深いため息を吐いた。

 私もゼオンも肩を震わせた。


「陛下。お互い頭を冷やす時間を作るためにも、一日だけ距離を置かれては如何でしょうか」


 父の言葉にゼオンの見えない耳が垂れた。

 勝った。

 心の中で喜ぶ私をゼオンが哀愁漂う眼差しで見つめてきた。

 見たら負けだとそっぽを向き続けるとゼオンの立ち上がる気配がした。

 そのまま転移するのかと思いきや、何故かゆっくり歩いて部屋の扉を開け、もう一度チラリとこちらを窺っている。

 私の気が変わるのを待っているのが見え見えだ。

 その光景に父がもう一度深いため息を吐いたのは言うまでもない。



 


読んで頂きありがとうございます。

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