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ロマンスを求めて(後編)

 私は寝室に戻ると私物が入っている引き出しを開けた。

 そこには過去に使用した様々な魔法陣が描かれた紙が仕舞われている。

 確かこの中に…。

 一枚ずつめくると私の文字に追加でゼオンの文字が書かれた魔法陣が出てきた。

 これだ。

 後にも先にも私の書いた魔法陣にゼオンが手を加えたのはこれだけだ。


 テーブルの上に魔法陣を広げて観察すると私の描いた雷の魔法陣に絡ませるようにゼオンの文字で他の魔法陣が描かれていた。

 これを参考にすれば!

 希望が見えてきたところで疑問が出た。

 ちょっと待てよ。

 これが描けるって事は、ゼオンは三元素の魔法陣が描けるという事じゃないのか?

 いやいや。これはきっと師匠からの課題なんだ。

 私が雪を降らせたいと言ったのだから自分で何とかするんだ!

 改めて雪を降らす決意を固めたのだった。



 この日から失敗続きの日々を送った。

 魔方陣が上手く発動せず水飛沫を浴びたり大粒の雹が降ってきたり嵐が起こったり…。

 近くの石に腰掛けて項垂れた。

 三元素…難易度高!!

 あちらを立てればこちらが立たず、調整しようとすると必ず力が弱まる所が出てきてしまう。

 力が弱まれば他が強くなり大惨事になる。

 二元素の時は二つだけだったから調整が簡単だったが、三元素が難しいという事を身を持って体験した。

 肘を突き、顎を両手の上に置いて次の方法を考えていた。


「悩んでいるね、エリィ」


 顔を上げるとゼオンが微笑みながらこちらに歩いてきた。


「ゼオンが難しいと言っていた意味が分かった」


 私の隣に腰をかけ肩に手をかけて抱き寄せられた。

 私はゼオンの肩に頭を乗せた。


「魔術ってさ、魔法陣が完成するまでの過程が面白いよね」


 ゼオンの言葉に首を捻った。

 既に組み上げられている魔法陣なら直ぐに魔術を発動できるのに、魔法陣を新しく作るとなると時間も労力も必要となる。

 それなのにそれが面白いの?


「その様子だと気付いていないようだね」


 ゼオンがクスリと笑った。


「エリィは雪を降らせる魔術を作る過程で既に三種類の魔術が使えるようになっているんだよ」


 ??どういうこと?


「水飛沫や雹や嵐の魔術が発動したでしょ」


 確かに…失敗とばかり思っていたが、考えようによってはあれらも新しい魔術になるのか!

 目から鱗が落ちるとはまさにこの事。

 目を輝かせてゼオンを見上げると優しく微笑むゼオンと目が合った。


「使える魔術かどうかは別だけどね」

「ちょっと!上げて落とさないでくれる!!」

「ごめんごめん。お詫びに魔法陣を見てあげるから」


 ゼオンをポカポカ叩くと笑いながら防がれた。

 不貞腐れながら最後に発動した魔法陣をゼオンに見せた。


「ああ…。なるほどね」


 一人で納得しないでもらえますか?

 ジト目で睨むとゼオンが私の頭を撫でた。


「初めてにしては良く描けているよ」


 そ…そんなに褒めても…喜んでしまうだろ!!

 喜んでしまっている事が悔しくて歯を食いしばりながら視線を逸らした。


「問題は全てを同時に発動しようとしている事かな」


 再び首を捻った。


「魔法の箒を作った時を例に挙げると最初に描かれた魔法陣は何だった?」

「確か…雷を留める魔術?」


 ゼオンが不正解とばかりにニッコリと無言で微笑んだ。

 え?違った?

 最初でしょ…最初は確か私がゼオンに相談に行ってちょっと甘い空気に…ってそこは飛ばして…その後は確か浮く力は雷の魔術が必要だって…。


「雷の魔術だ!」

「正解。正確には水と風の魔法を組み合わせるところから始めるんだけど、雷の魔術は既存のものがあるからね」


 それは役に立たない魔術ばかりを開発している私に対しての嫌味ですか?

 ジト目再び。


「エリィの魔術だってそのうち何かの役に立つかもしれないよ」


 不穏な空気を察したゼオンがフォローになっていないフォローをした。


「とにかく俺が言いたいのは、必要な魔法陣を一つずつ発動するように組めって事」


 ゼオンに渡された自分の描いた魔法陣を確認した。

 三元素の魔術を書き込んで力の分配をしているだけのものになっている事に気付いた。


「魔法の箒の魔法陣を参考にすれば水蒸気を発動させた後に風魔法に繋げられるようになると思うよ」


 ゼオンはキスをすると私の頬を一撫でして戻って行った。

 何だかんだ言いながらも協力してくれるゼオンの優しさが嬉しくて可笑しくて思わず笑ってしまった。

 ゼオンのお陰でやる気を取り戻した私は再び魔法陣に向き…合えなかった。


「王妃陛下。そろそろ公務にお戻り下さい」


 ルイゼルという名の邪魔が入ったのだった。



 ゼオンのアドバイスのお陰で段々雪に近付いてきていた。

 そして公務を切り上げた夕方。


「師匠!行きますよ!」

「うん。これが成功したら弟子を卒業してね」

「嫌です!!」


 腕を組みながら渋い顔をしているゼオンが見守る中、私は空に向かって雪の魔術を放った。

 二人で空を見上げているとちらちらと白い綿雪が降って来た。


「雪だ!」

「これが雪…」


 私が目を輝かせて叫ぶとゼオンは落ちてくる雪を手に乗せた。

 嬉しくなってそこら中に雪の魔術を放った。

 歌は…歌ってないからね。

 雪はちらちらと次から次へと落ちてきてあっという間に踝くらいまで積もっていった。

 ゼオンの元に戻ると降ってくる雪を不思議そうに眺めていた。


「どう?初雪の感想は?」


 ゼオンの手を握り、しな垂れかかった。


「確かに…これは綺麗だね」

「雪を地方の山に降らせられればスキー場を作ってスキーやスノーボードで遊べたりも出来るようになるの。そうすれば人も沢山集まるから雇用も増えて一石二鳥」

「どういう遊びか分からないけど、雇用が増えるなら検討する価値はあるかもね」


 ゼオンが私の手を握り返した。


「私的には今度はクリスマスを実現したいな」

「クリスマス?」

「そう。クリスマスはワクワクがいっぱいなの」


 ゼオンが首を傾げた。

 まあ、この説明では理解出来ないよね。


「エリィが楽しいって言うなら楽しいのかもね」


 ゼオンがクスリと笑った。

 何かバカにされてる?

 膨れっ面でしんしんと降る雪を眺めているとゼオンが顔を近付けてきた。

 あれ?これは…恋心が燃え上がっちゃった感じ?

 私も真っ白な雪に当てられてゆっくりと瞼を下ろした。

 唇がもうすぐ触れそう…。


「陛下!失礼致します!至急対応して頂きたい報告が…って色々失礼しました!!!!!」


 兵士が慌てた様子で駆け付けたのだが、今のこの状況をみて顔を覆いながら真っ赤な顔で後退していった。


「何の報告だ」


 ゼオンの声が不機嫌なのは明らかだがちゃんと仕事をするところはやっぱりカッコ良いな。

 うっとりと見惚れていると、兵士はおずおずと傍に戻ってきて姿勢を正すと報告の続きを話し始めた。


「先程から降っているこの白い物体の影響で滑って転倒し怪我人が続出しております!!」


 え?

 するとまた一人兵士がやってきた。


「陛下!至急ご報告したい事があります!」

「今度は何だ!?」

「この白い地面の影響で王宮から帰宅する馬車の馬が足を滑らせ馬車同士の衝突事故が起きております!!」


 ええーーーーーーー!?

 そうすっかり忘れていました。

 雪道は滑るという事を。


「状況は分かった。直ぐに対処する」


 この後ゼオンは火の魔法で雪を溶かすという後処理に追われ、私は怪我人を治癒魔法で治しまくるという夜を過ごす羽目になった。

 とりあえずスキーの前にブーツを作って雪道歩き方講座から始めよう。

 そしてトナカイの飼育にも力を入れていこう。



 ロマンスへの道のりはまだまだ遠いのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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