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ゼオンは私が守ります(後編)


過激な描写が含まれています。

ご注意下さい。


 過去の世界に来て一週間が経とうとしていた。

 暗殺者はあの後一度だけ姿を見せたが何もせずに立ち去った。

 正直焦っていた。

 毎晩ゼオン少年を抱いて気を紛らわしてはいるが…やはり大人のゼオンが恋しい想いは消えない。

 もしこのまま帰れなかったら…。

 不安から溜息をついているとゼオン少年が剣を振るのを止めて私の前に立った。


「あんた旦那の所に帰らなくていいのか?」

「気付いていたの?」


 ゼオンは私の指にはまっている結婚指輪を指差した。


「旦那と喧嘩でもしたのか?」


 汗を拭いながら私の隣に腰掛けた。


「喧嘩なんてしないよ。ただ…帰れないだけ…」


 結婚指輪に視線を落とした。

 このまま帰れなかったらこの少年が大きくなるまで待たなければいけないのだろうか…。

 けれどこの世界には11歳の私がいる。

 帰れなくてもここにいる事も出来ない…。

 ゼオン少年をチラ見するとゼオンは真剣な顔を私に向けており驚いた。


「あんたの旦那ってどんな人なの?」

「世界一の魔術師よ。優しくてカッコ良くてとても頼れる人。…いつも私を包んで守ってくれる…」


 思い出したら泣きそうになった。

 会いたい…。


「もし俺があんたの旦那みたいになったら…」


 ゼオン少年は途中まで言いかけて首を振った。


「なあ。あんたの名前教えてよ」


 偽名を使ってもいいがゼオンには嘘をつきたくなかった。

 かといって愛称を名乗れば未来が変わってしまうかもしれない…。


「6年後に教えてあげる」


 ゼオンの口元に人差し指を当てて笑みを見せるとゼオンは真っ赤な顔で頬を膨らませ顔を背けた。


「何で6年後?今教えてくれないと迎えにいけない…」


 何かを呟いていたが私の耳には届かなかった。

 拗ねるゼオンを微笑ましく眺めていると

 数本のナイフが飛んできて爆発した。

 咄嗟にゼオンを抱き寄せてバリアで防いだが辺りは土埃で何も見えなかった。

 バリアが解けた瞬間、ゼオンの体が何かに引っ張られ私の手からすり抜けた。


「死ね!フリーデン王!!」


 ゼオンの首を締めあげながら剣を振り下ろす暗殺者に蔦を出して動きを止めた。

 暗殺者はゼオンを離し、蔦を引きちぎると咳き込んでいるゼオン目がけて剣を振り下ろした。


「ダメーーーーーー!!!!!」


 私はゼオンと剣の間に体を滑り込ませた。


「止めろーーーーーー!!!!!」


 剣が私に迫る直前、ゼオンの体から黒い魔力が溢れ出し私は飲み込まれてしまった。



「……ィ……リィ…エリィ!!」


 目を覚ますと目の前には幼さを一切排した精悍な顔が!


「ゼ…ゼオン…?」

「エリィ!良かった!」


 ゼオンは力一杯抱きしめてきた。


「く…苦しい…」


 ゼオンの背中をタップすると少し力を緩めてくれた。

 私、帰って来れたんだ…。

 大人になったゼオンを身近に感じ涙が溢れた。


「ゼオン、会いたかった。帰れなかったらどうしようって一週間ずっと不安で…寂しかったよ…」


 嗚咽を漏らしながら泣く私に近衛兵達が困惑しているようだった。

 何で皆困惑してるの?


「ゼオン。この一週間どうしてたの?」


 しゃくり上げながらゼオンを見上げるとゼオンは視線を逸らした。

 ん?

 近衛兵達に視線を向けるとこれまた顔を逸らされた。

 再びゼオンを見上げると『エリィは一週間姿がなかったと思え』と言わんばかりの顔で近衛兵達に圧を送っていた。


「ゼオン。正直に話して。私はどれくらい姿を消していたの?」


 ゼオンはばつが悪そうに私をチラ見した。


「い…一瞬…かな…」


 一瞬…?


「じゃ…じゃあ、寂しかったのって…私だけ…?」


 再び涙が溢れ出てきた。


「俺だって寂しかったよ!」


 必死で弁解しようとするも一瞬しか離れていなかったのに寂しいわけがあるか!


「嘘つき!!寂しいわけないじゃん!一瞬以上離れている時なんてほぼ毎日あるし!」

「いやいや!そこに存在しているのと消えるのでは状況が違うから…!一瞬でもエリィが消えて寂しかったよ!」

「私なんか一週間も会えなかったのに…!!」

「エリィが一番寂しかったよね!エリィが満足するまで傍にいてあげるから泣かないで!」


 号泣する私をゼオンは抱きしめながら背中を優しく撫でた。

 近衛兵達の『陛下が狼狽えている!?』との声が聞こえてきそうなくらい辺りは困惑していた。


魅了(チャーム)の術を使ってそいつから黒幕を聞き出せ」


 ゼオンは私を抱き上げると気絶していた暗殺者に闇魔法の拘束をかけて近衛兵に指示した。


「私の事はいいよ。ゼオンは仕事して」


 少し落ち着いてきた私はゼオンの腕から降りようとするもゼオンは離さなかった。


「あいつは誰が対応しても問題ないけどエリィは俺じゃないと駄目でしょ」


 額をこつんと合わせた。


「報告はテレパシーで聞く」


 それだけ告げると寝室に転移した。



 私をベッドに寝かせるとゼオンは隣に寝転び子供をあやすようにお腹を優しく叩いた。


「少し眠るといいよ」


 ウトウトと微睡み始めるとゼオンの表情が険しくなった。


「何か連絡が来たの?」


 目を擦りながら声をかけるとゼオンは表情を緩めた。


「黒幕が分かったけど、エリィは心配しなくていいよ」


 ゼオンは安心させるように私の頭を撫でた。


「誰だったの?」


 起き上がると再びゼオンに寝かされた。


「…ガレフロナ帝国前皇帝だよ。ほんと困った爺さんだよね」


 ゼオンは不敵に笑っていた。

 まさかヤリに行かないよね…。


「心配しなくてもガレフロナ帝国皇帝に抗議文を送ってあちらで対処してもらうから。証人である暗殺者もこちらの手にあるし、言い逃れは難しいだろう」


 私の心の声を読んだゼオンが満面の笑みを浮かべた。

 これは国際問題だしゼオンも抗議文を出すと言っているからこれ以上私が出来る事はないか。

 ゼオンの胸元に顔をすり寄せるとゼオンがクスリと笑った。


「今日は凄く甘えん坊だね」


 膨れっ面でゼオンを見上げた。


「ダメなの?」

「駄目じゃないよ。でも『むやみに男に抱きついて襲われても知らないぞ』って忠告したよね」

「その言葉…」


 驚きで目を丸くした。


「俺以外の男に抱きつくなんて許せないな」

「許せないってゼオンだよ!?」

「危うくエリィを俺に獲られるところだったよ」


 首を傾げるとゼオンは可笑しそうに笑った。


「エリィが俺の初恋の人って事。旦那の事を忘れさせてやろうと本気で考えていたんだけどね」


 真っ赤になる顔を抑えながらゼオンを見上げた。


「じゃあ私が弟子入りした時も記憶があったから弟子にしてくれたの?」


 ゼオンは気まずそうに視線を逸らした。


「実は記憶が戻ったのはエリィが一瞬消えた時なんだ。闇魔法の影響なのかはわからないけど発動した後、意識が無くなって目が覚めたら一週間分の記憶が無くなっていたんだ。でも…」


 ゼオンは私を抱きしめた。


「たとえ記憶が無くても俺がエリィを好きになるのは変わらないって事だから」


 額にキスをされた。


「ほら、抱き枕になってあげるから少し寝なよ」


 ぐっ!これは一週間抱き枕にしたことを怒っているのか?それとも喜んでいるのか?

 ゼオンの表情からは何も読み取れず、すっかり私の体を包み込めるくらい大きくなったゼオンに全身をガッチリと抱きしめられた。


「夜に備えてゆっくり休もうね」


 今夜は徹夜ですか?

 優しく頭を撫でられているうちに睡魔が襲ってきてウトウトし始めた。


「おかえり、エリィ」


 耳元で囁かれた言葉に無意識に答えた。


「ただいま、ゼオン…」


 そのまま眠りについた。


 ゼオン似の子供と戯れる夢を見ながら…長くなりそうな夜の戦いに備えて体力を蓄えるのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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