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ゼオンは私が守ります(前編)


過激な描写が含まれています。

ご注意下さい。


 私は今、首元にナイフを突きつけられている。


「少しでも変な動きを見せたらこの女の命はない」


 黒装束に身を包んだ暗殺者が怒りで暴走しそうなゼオンに忠告した。

 周囲には剣を構えた近衛兵達が私達を囲んでいた。


「お前の目的は何だ?」


 怒りを抑えながらゼオンは冷静そうにみせかけながら暗殺者に問いかけた。


「お前の命だ」


 暗殺者は胸元から何かを取り出そうとしていた。

 ナイフを突きつけられている私は実のところとても冷静なのだ。

 何故ならもしこの暗殺者が本気で私を殺そうと殺意を向けてナイフを切りつけてきたら花のバリアが発動するからだ。

 ゼオンもそれはわかっているはずなのだが…きっと私にナイフを向けている事自体が許せないのかもしれない。

 このままでは暗殺者はゼオンに瞬殺されてしまう…。

 何とか捕らえられないか考えているうちに事態はどんどん悪化している状態だ。

 ルイゼルはどうしたって?奴は今日、お休みだ。

 むしろ休みの日を狙われたのかもしれない。

 良案が思いつかないまま暗殺者はそれ毒薬ですよねと言いたくなるような青色の液体の入った瓶を取り出した。


「これを飲め」


 暗殺者は床に毒薬を置くと私を連れて数歩後退った。

 ゼオンは迷うことなく瓶を手に取り…。


「ダメーーーーーー!!!!!」


 油断していて力を抜いていた暗殺者の手を払いゼオンの持ち上げた瓶に手を伸ばした。


「エリィ!」


 暗殺者が迫ってきているのかゼオンが咄嗟に闇魔法を発動したのだが、溜めていた怒りが爆発したせいか闇魔法は私と暗殺者を飲み込んだ。



 気絶していたのか目を開けると目の前には芝生が広がっていた。

 体を起こし周囲を確認するとゼオンも暗殺者も近衛兵も誰もいなかった。


「みんなどこに行ったんだろう…?」


 立ち上がり服についた土を払っていると何かを振る音が聞こえてきた。

 音の方に向かうと黒髪の少年が一生懸命剣を振っていた。

 あんな子王宮にいたかな?

 首を傾げながら少年に近付くと突然少年が私に剣を向けてきた。


「誰だ!?」


 思わず両手を挙げて攻撃の意志は無い事を示唆するも、少年の顔を見て思わず顔を掴んでまじまじと眺めてしまった。


「な…何するんだよ!」


 少年に勢いよく手を払われ、そのまま固まった。


「君…名前は…?」


 戸惑う私に少年は訝しそうに答えた。


「ゼオン…」


 髪や瞳の色からゼオンの子供かと思ったが…まさかの本人!?


「ゼオンってゼオン・ルーレン・フリーデン…?」

「何で本名を知っているんだよ!?」


 ちょっと待って!!

 私の知っているゼオンはどこにいるの??


「君!今何歳!?」


 ゼオンと名乗る少年の両肩を掴み迫ると少年は少し狼狽えた。


「じゅ…12歳…」


 12歳のゼオン…。

 ここは過去の世界…なの?

 少年の肩から手を離して考え込んだ。

 確かあの時、闇魔法に飲み込まれて…。

 待てよ。闇魔法って確か時間を止める力があったけど、もし本来は時間を操る力だとしたら…。

 私はゼオン少年を見下ろした。

 少年は乱れた服を直していた。

 ゼオンが闇魔法を使えなければ私は元の世界には帰れないということ?

 でもゼオンが闇魔法を使えるようになったのはメディーナとの戦闘の時から。

 不安が一気に押し寄せてきた。


「どうしよう…」


 目に涙を浮かべているとゼオンが自分の所為だと勘違いしたようで焦っていた。


「どこか痛むのか?もしかして剣が当たったとか!?」

「違うの…君の所為じゃないから…」


 涙を拭って笑みを向けるとゼオンが息をのんだ。

 帰れるかどうかはわからないけど、目の前のゼオンを心配させたくない。

 不安を抑え込んでいると上方の空がキラリと光った。

 光の方に視線を向けると屋根に黒装束の暗殺者がゼオンを狙っていた。


「危ない!!」


 暗殺者が矢を放つと同時にゼオンを突き飛ばし矢は私目がけて飛んできた。

 しかし5枚のバリアが発動し当たる寸前に矢は折れた。

 ゼオン…ありがとう。

 未来のゼオンに想いを馳せて花のネックレスを握りしめた。


「あんた大丈夫か!?」

「うん。バリアが守ってくれたから。それよりも突き飛ばしちゃったけど大丈夫だった?」

「俺は大丈夫。それよりあの…ありがとう」


 照れくさそうにお礼を言うゼオンに胸キュンした。

 メディーナがときめいた気持ちわかるわ。


「あの暗殺者は俺を狙っていたのか?」


 矢が飛んで来た方に視線を向けるも暗殺者の姿はすでになかった。

 ゼオン少年を狙って来たという事はあいつもきっとここが過去の世界だと気付いたはず。

 帰ることよりも先ずはあいつを捕らえることが先か。


「君の事は私が絶対に守るから傍にいてもいいかな」


 私の申し出にゼオンは少し躊躇っていたがコクリと小さく頷いてくれたのだった。



 屋外は危険だという事でゼオンの部屋に案内された。

 通された部屋は弟子入りした時と同じ部屋で、懐かしさに思わず頬が緩んだ。

 ソファーに座ると安定のマグカップが出てきてにやけてしまった。

 何が可笑しいのかわからないゼオンは可愛く首を傾げていた。


 気を取り直して暗殺者の話をすることにした。


「あの暗殺者は君を狙っているの。そして私はあの暗殺者を捕らえたい。だから私が君の傍に張り付いてあいつが姿を見せる機会を待ちたいの」

「もしかして父さん達を殺した奴と関係があるの!?」


 そうか。12歳というとゼオンが王宮で暮らすようになって直ぐくらいの頃か…。


「残念だけどそれとは別件よ」

「…あの…あなたは何をどこまで知っているの?父さんを殺した奴の事も知っているみたいだし…もしかしてそいつらの仲間とか!?」


 下手に未来の話をして未来が変わってしまうかもしれない事態は避けたい。


「私は君の味方だから今は信じてとしか言えないの…時が来れば全てがわかるから…ごめんね」


 ゼオンは納得していないようだがそれ以上追求することもなかった。


「とりあえずあいつがいつ現れるかわからないから、あいつを捕らえるまでは君の傍で寝泊まりさせて欲しいのだけどいいかな」


 相手はゼオンだし一緒の部屋で寝る事に抵抗は全く無い。

 しかしゼオン少年はそうはいかないのか顔を真っ赤にして拒否してきた。


「あんた良いところのお嬢様だろ?…その…子供とはいえ同じ部屋で異性と寝泊まりするのは…」


 少し俯き加減でモゴモゴと困惑しながら話すゼオンが可愛すぎる!

 大人のゼオンはいつも余裕の笑みを浮かべるから可愛いというよりは色気の方が強い。

 それに私があんな発言をした日にはえらい目に合わされそうだ…。


「私は大丈夫だよ。何もしないでしょ?」

「…す…すすすするわけないだろ!!」

「なら大丈夫じゃない?」

「そ…それはそうなんだけど…」


 首まで真っ赤にして立ち上がったゼオンは視線を彷徨わせた。

 こんなに可愛い子が何故魔王と呼ばれるような大人に変わってしまったのか…私のせいか?

 結局泊まる部屋もない私はゼオン少年の部屋で寝泊まりさせてもらう事になったのだった。



 夜…定番のソファーで寝るかベッドで寝るかで一悶着あったが、二人でベッドを半々にして使うという案?強制?で落ち着いた。

 ゼオン少年は落ち着いてはいないが…。


「ここから先は入って来るなよ!」


 必死で区切りを決めるゼオン少年に少し気落ちした。

 少年とはいえゼオンに拒否されるのは辛い…。

 ベッドに横になると疲れていたのかそのまま眠りについた。



 どのくらい時間が経っただろうか…。

 部屋がまだ暗いことからさほど時間が経っている感じはしなかった。

 寝返りをうつとゼオンはベッドの端に座り月を眺めていた。

 母親の事を思い出しているのだろうか…。

 私は思わず哀しそうな背中に抱きついた。


「な…何してんだよ!?」


 ゼオン少年は戸惑っていたが私は構わずゼオンのお腹に手を回しギュッと抱きしめた。


「抱き枕が欲しくなって」


 本当は哀しそうなゼオンを放っておけなかっただけなのだが。


「も…毛布でも抱いてろよ!」

「嫌だ。人肌の方が温かいし」


 背中に顔をすり寄せるとゼオン少年が硬直した。


「ほらほら。寒いから私の抱き枕になってよ」

「あ…あんた、俺を子供だと思って舐めてるだろ。む…むやみに男に抱きついてお…襲われても知らないぞ」


 他の男なら却下だけど…ゼオンだし。


「いいよ。君になら襲われても」


 いたいけな少年が固まったのは言うまでもない。

 半ば無理やり寝かしつけるとゼオンは素直に従ってくれた。

 少しは寂しさが紛らわされてくれればいいけど…。

 この日からゼオンは私の抱き枕となったのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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