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駄目なお願いを見つけ出せ


過激な描写が含まれています。

ご注意下さい。


 バラが綺麗に咲き誇る王宮の庭園で私はお茶をすすっていた。


「伯爵夫人、その指輪もしかして…」


 同席していた侯爵夫人が目ざとく伯爵夫人の指を注視した。


「そうなの。先日夫に買って貰いましたの」


 伯爵夫人は皆に見えるように手を持ち上げて指輪を見せた。


「とても素敵ね。私もそろそろ新しい宝石でもお願いしようかしら」

「あら、そういう侯爵夫人も先日海沿いの別荘を侯爵様に買って頂いたとお聞きしましたが?」


 侯爵夫人はにやけ顔を隠すため扇を広げた。


「ご存じでしたの。夫が結婚記念日にと贈ってくれたのよ」

「まあ素敵ですね。夫婦仲も円満で羨ましいですわ」


 周囲の夫人達はこぞって羨望の眼差しを侯爵夫人に向けた。


 お分かり頂けただろうか。

 今、王宮ではお茶会という名の自慢大会が繰り広げられているのだ。

 特に自慢できる内容のない私はほぼ空気と化していたのだが…。


「夫婦仲が円満といえば王妃夫妻ですわよね。普段どんな贈り物を頂いていますの?」


 どこぞの夫人が突然こちらに話題を振ってきて飲んでいたお茶を吹き出しそうになってしまった。

 皆の視線が一斉に私に注がれた。

 そんなに期待の眼差しを向けられても何もないからね!

 表面上は飄々としているが内心は冷や汗タラタラである。

 カップをソーサーに置きながらチラリと隣に助けを求めた。


「王妃様がお願いすれば陛下は何でも叶えてしまうのできっと贈り物が欲しくても控えられていらっしゃるのですよ」


 ええええええ!?

 そういうフォローですか!?

 私の焦りを余所に一同はエカチェリーナの言葉に納得していた。

 納得するなよ!!

 こうして疲れるお茶会は幕を下ろしたのだった。



「ねえ、ルイゼル。ゼオンは私のお願いに駄目って言う事があると思う?」


 執務室に戻ると専属護衛となったルイゼルに尋ねた。


「深刻そうな顔で何を考えているのかと思えば…」

「だって世の奥様方は旦那にあれやこれやを買って貰うのに色々苦労されているのよ!確かに私のお願いなんて可愛いものだから叶えてくれるのかもしれないけど、本当は我儘だと思われているのかもしれないじゃない!」


 呆れるルイゼルに熱弁した。


「そういう話は陛下と直接なさってください」

「こうなったらエカチェリーナはどうなのか聞いてみようかしら…」

「くだらない事に私の妻を巻き込まないでください」


 ルイゼルに睨まれた。


「だって…ウィルビンの処刑を防いで欲しいって願いもゼオンは聞き入れてくれたし…」

「その後の見返りが大変だったのをお忘れですか?」

「正装を堪能させて欲しいって言ったら直ぐに着替えてくれたし…」

「その後丸一日寝室に軟禁状態にされたことをお忘れですか?」

「新婚旅行に至っては冗談で言っただけなのに前王を巻き込んで本当にフリーデン王国一周を実現させちゃうし…!」

「あれは戦後の視察も兼ねていたため許可が出ただけですから」

「ゼオンはもしかして駄目だと言いたくても言えないのかも!!」

「これはどういう状況なのか説明してもらえるのかな?」


 私がルイゼルの胸倉を掴んでいると入口付近で笑顔の旦那様が立っていた。

 笑顔なのに…目の奥が笑っていない…。

 ルイゼルは直ぐに私の手を引き離しゼオンに一礼した。


「王妃陛下は陛下にお願いを拒否して頂きたいそうです」


 合ってはいるがちょっと端折り過ぎじゃない!?


「程度によるんじゃないかな?例えば?」

「宝石を買って欲しい」

「フリーデン王国中…いや、国外の宝石商も呼び寄せよう」

「宝石はいいので別荘を下さい」

「別荘と言わず欲しい土地を買い占めよう」

「土地もいらないです…国を下さい」


 流石にこれは駄目でしょう。

 ゼオンも難しそうな顔で首を傾げていた。


「国は…もうエリィのものだよね」


 フリーデン王国は私のものではないですよ!?

 強いて言うなら民のものですよ!?


「それともガレフロナ帝国も欲しいということかな?あそこならこのまえ前皇帝を脅し…話し合いに行った時に皇城を全壊…視察した感じでは簡単に落とせそうだからエリィが欲しいなら落としてこようか?」


 ちょっと待て。

 所々不穏な単語が混ざっていたのだが…。


「国もいらないので前皇帝との()()()()についての詳細を事細かに教えて下さい」


 ゼオンもルイゼルも視線を逸らしたが、私の有無を言わさない圧に従うしかなかったのだった。

 結局私のお願いは真相を語らせるという形で終わってしまった。



「結局何をお願いしたら駄目っていうのかわからなかった…」


 想像以上の()()()()の内容を聞いて疲れた私は机に突っ伏した。


「そもそも国が個人のものとか意味がわからないし、それを良しとする王ってどうなのよ!しかも他国まで贈るって…」


 私の愚痴にルイゼルは置物と化していた。


「こうなったら絶対にゼオンに駄目って言わせてやるんだから!!」

「止めておいた方がいいですよ。陛下が駄目だと仰るという事は余程の内容だと思いますから」


 全然相談に乗ってくれないルイゼルにムッとなった。


「もういいです!ルイゼルに相談しても埒が明かない。こうなったら同じ血筋の人間の意見を聞きに行こう」


 私は箒を手に取ると外に出た。


「エドワード公の下に行かれるのであれば絶対止められた方がいいですよ。せめて陛下に相談するとか…」

「大丈夫よ。ちょっと話をしに行くだけだから」


 箒に跨るとエドワードの下に向かって飛び立った。

 先触れを出していないが大丈夫だろうかと心配そうにルイゼルは見送っていた。



 エドワードが収める領地は馬車で行くと二日ほどかかるが箒は真っ直ぐ飛べるため数刻で到着した。

 到着して驚いたのが屋敷の門からズラリと使用人達が並び私に頭を下げているではないか。

 私先触れ出してないよね。

 他に誰か来るの?

 困惑する私を余所に執事が私の前に歩み寄った。


「王妃陛下。ようこそおいで下さいました。当主は屋敷に居られます」

「あの…私が来ることを何故知っていたのですか…?」

「頼むから私を巻き込まないでくれ」


 屋敷から現れたのはエドワードだった。

 呆れ顔のエドワードに案内されると応接室には優雅にお茶をすする黒髪の男性が…って!?


「ゼオン!?」

「エリィ。遅かったね」


 嫌味かい!

 ゼオンはカップをソーサーに戻し立ち上がるとこれまた優雅な足取りで私に詰め寄った。


「エリィがエドワードと不倫するかもと聞いて居ても立っても居られなくて転移してきたんだけど…」


 ゼオンの冷たい手が私の頬を撫でた。

 こ…怖い…。


「誰からそんなデマを聞いたの。不倫なんかするわけないでしょ!」

「俺に駄目だと言わせたいなら最高の材料だけどね」

「そうか…不倫なら駄目って言うのか…」

「エリィ」


 真剣に考え込む私の顎を持ち上げて上を向かされた。


「もしエリィが不倫なんかしたら…相手の男は生きて帰れないよ。それにエリィを寝室に縛り付けて一生監禁するのもいいかもね。それより先ずこの邪魔な箒を折るのが先かな」


 これは滅茶苦茶怒ってる!!

 ゼオンが箒に手を伸ばそうとして必死に箒に抱きつき阻止した。


「ごめんなさい!!不倫なんか絶対しないしゼオンを一生愛し続けるから箒を折らないで!!」


 エドワードの「え!?重要なの、そこ!?」と言う驚きの声は無視して箒を死守した。


「折って欲しくないなら直ぐに箒から手を離して俺の方を見て」


 瞬時に言われた通りに動いた。その間約一秒。


「エリィ。俺は出来ない事は出来ないと駄目な事は駄目だとはっきり言うよ。エリィが何をお願いしても駄目だと言わないのはエリィが難しい要求をしてこないからだよ」

「でもウィルビンを助けてとか結構難しい要求もしてるよ」

「難しい分、ちゃんとご褒美も貰ったでしょ。割に合わないというならもっと堪能させてくれてもいいけどね」

「大丈夫です!!」


 結婚後のご褒美を思い出し顔が真っ赤になった。

 ゼオンは残念と言いながらも笑っていた。


「俺的にはもっと我儘を言って欲しいと思っているくらいなんだから何でも言って」


 優しく抱きしめられてゼオンの胸に顔を埋めた。


「でも…とりあえず一人でエドワードに会いに来たことに関してはお仕置きが必要かな」


 ん?

 見上げると満面の笑みを浮かべるゼオンと目が合った。


「お仕置きは…嫌です」


 早速お願いを行使するも…。


「それは駄目なお願いだね」


 ここにきてまさかのお願い拒否!


「どのお願いより一番簡単なお願いだと思うんだけど!」

「俺にとっては他の男と二人きりで会うというのはどの我儘よりも許せないからそのお願いは却下で」


 そういえばルイゼルが言ってたな…『陛下が駄目だと仰るという事は余程の内容だと思いますから』

 国をプレゼントすることより妻が男と二人でいることが許せないとか…余程の内容なのかこれ?

 ゼオンの比重が全くわからない…。


 とりあえず今は明日の朝、無事に生還出来る事だけを祈ろう…。





読んで頂きありがとうございます。

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