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とある近衛兵の受難 (新人近衛兵視点)


おまけです。

結婚後のお話しです。


 僕は王妃陛下の専属護衛になりたくて死に物狂いで頑張って、先日ようやく近衛兵に配属されたばかりの新人だ。

 王妃陛下の専属護衛はルイゼル隊長を始め、熟練者達で固められており狭き門である。

 なぜ僕がここまで専属護衛に憧れているかというと、ガレフロナ帝国が襲って来た時に聞いた王妃陛下の声に惚れたからだ。

 王妃陛下はとてもお綺麗で誰にでも優しく淑女の見本である。

 一度ルイゼル隊長と話す機会があり王妃陛下の事を熱弁したら冷めた目で見られたのだが…あれはなんだったのだろう…。


 とにかくそんな王妃陛下に憧れている僕は今日、大役を任される事になった。

 なんと地方に視察に行くという陛下の護衛を任されたのだ。

 陛下の護衛を任されるということは、王妃陛下の専属護衛になれる日も近いのでは!

 しかし先輩近衛兵達は僕を憐れむような目で見たり、肩を叩いて同情されたりと…一体なんなんだ?


 陛下が馬車に乗り込み出発すると早速違和感があった。


「先輩。護衛って僕達だけなのですか?」


 陛下の馬車の後ろから馬に乗って隣を歩く先輩に尋ねた。

 そう、メンバーが陛下の馬車を引く御者と僕を含めた近衛兵の二人だけ…。

 これが普通なのだろうか?


「俺達の仕事は護衛じゃないからな」


 護衛が仕事じゃない?

 どういうことだ?

 陛下が襲われたらどうするんだ?


「まあ襲ってくる奴がいれば陛下を優先的に守るのは当然だが…その心配は無用だ」


 この道は安全なのだろうか?

 疑問符がいっぱいの旅が始まったのだ。



 夜になり今日は近くの町の宿に泊まることになった。

 先輩は一部屋押さえると陛下に向き直った。


「陛下はこのまま行かれますか?」


 行かれる?部屋に?


「ああ。明日の朝には戻ってくるから」


 朝には戻る?どういうこと?

 頭に疑問符をいっぱい付けて話を聞いていると陛下は宿を出ていった。


「じゃあ、俺達も休むか」

「え!?陛下を追いかけなくていいのですか!?」


 僕の驚きに先輩は慌てる事もなく宿屋の階段を上った。


「追いかけたら殺されるぞ」


 その夜、先輩のとった部屋で一泊するも僕はなかなか寝付けなかった。



 翌日。陛下はすでに馬車の中にいた。

 昨夜はどこに行っていたのだろうか…。

 僕の心配を余所に陛下と先輩は平然と会話していた。


「昨夜は楽しまれたようですね」

「ああ。もうすでに夜が恋しいよ。早く夜になって欲しい」


 このやり取りに僕の思考は停止した。

 夜を楽しむ!?

 まさか陛下は…!?


 もやもやする気持ちを抑えながら本日の日程を終え再び夜を迎えた。

 今日も宿屋で一室だけ押さえると陛下は夜の町へと消えていった。

 僕は堪らず先輩に尋ねた。


「先輩!陛下はもしかして…」


 王妃陛下を裏切っているのでしょうか…とは口に出せずに固まった。


「よくわかったな。そうだよ。だからお前も無駄な事を考えていないで早く寝ろ」


 衝撃だった。

 世間ではおしどり夫婦と名高い王妃夫妻が…まさか不倫なんて!!

 王妃陛下を悲しませたくない。

 この秘密は墓まで持っていこう。

 そう決心するのだった。



 翌日、ようやく目的地にたどり着いた。

 ここ二日全く眠れていない僕はふらついていた。


「大丈夫か?部屋で休んできてもいいぞ」


 陛下に優しい声をかけてもらい涙がちょちょぎれた。

 僕の不安定な精神状態にさすがの先輩も心配して部屋で休ませてもらうことになった。

 陛下の護衛がこんな体たらく…情けない。

 泣いた事が功を奏したのか夜会まで爆睡することが出来た。



 夜会が始まると陛下の周りは綺麗な女性達が沢山集まってきた。

 陛下は女性達に優しく微笑んでおり、王妃陛下命の僕としては胸が痛んだ。

 先輩はどう思っているのだろうとチラ見すると眉間に皺が寄っていた。

 やっぱり先輩も僕と同じ気持ちなのかも!

 そう思ったのも束の間。


「そろそろか…」


 先輩がポツリと呟いた。

 そろそろって?

 僕が首を傾げていると先輩が僕に指示を出した。


「陛下はそろそろ退室されるから気合いを入れろよ」


 先輩が言い終わるとほぼ同時に陛下がこちらに向かって歩いてきた。

 さすが先輩です!

 先輩は会場の扉を開けて陛下が通り過ぎるのを待って扉を閉めた。

 僕達は足早というよりほぼ競歩で部屋に戻ろうとする陛下に必死でついていった。


「圧倒的なエリィ不足だ…」


 陛下の呟きに首を傾げた。

 エリィって何?

 部屋に到着すると陛下は扉を開けながら僕達に念を押した。


「何かあればテレパシーで呼んでくれ。…ただし…一分でも一秒でも一夜でも長くこの扉を死守しろよ」


 最後の方は目が据わっておりほぼ脅しだった。


「すぐに行かれるのですね」

「ああ。もう限界だからな」


 先輩が頭を下げると扉が閉まった。


「よし!ここからが俺達の本番だ。この扉に近付く奴等を追い払うのが仕事だ。しっかり守れよ」


 扉を守る事が僕達の仕事?

 まさか…!陛下はこの部屋の中で女性と…!

 僕は王妃陛下を裏切るような仕事をするのか!?

 そんな仕事ならしたくない!

 首になってもいい!明日の朝、陛下に問い詰めよう!

 僕の我慢も限界を超えたのだった。



 翌朝、部屋の中から扉が叩かれ先輩が扉を開けると眠たそうな陛下がソファーにもたれていた。


「昨夜も楽しまれたようですね」

「ああ。怒った顔が可愛くてついいじめ過ぎた」


 昨夜を思い出して頬が緩んでいる陛下に僕は爆発した。


「王妃陛下はこのことをご存じなのですか!?」


 僕の怒りに陛下も先輩も唖然としていた。

 そりゃそうだ。新人の僕が口を出す話じゃない。

 二人の反応は真っ当だ。


「知っているが…何だ?」


 陛下が訝しそうに僕を見つめた。

 王妃陛下は知っている!?

 じゃあ側妃を迎えるということなのか!?


「陛下がそのつもりなら王妃陛下は僕が一生をかけて守ります!!」

「はあ?」


 陛下の恐ろしいまでの声色に僕は震え上がった。

 先輩は真っ青な顔で立ち尽くしていた。


「お前に一生かけて守らせるつもりないけど…」


 陛下は立ち上がり僕の前に立った。

 背が高いから滅茶苦茶見下ろされている!

 でも負けないぞ!王妃陛下への想いは誰にも負けない!!


「陛下が側妃を迎え入れるなら、僕は王妃陛下を連れて二人で生きていきますからーーーーーー!!」


 陛下の圧に負けないよう大きな声を出して威嚇した。


「ちょっと待て。何か話が可笑しい事になっているが…」


 陛下も先輩も首を傾げた。


「お前…もしかして…全く気付いていなかったのか…?」


 先輩に問われ首を傾げた。


「だから毎晩陛下は不倫…もごもご」


 先輩に口を押えられた。

 陛下は呆れながら再びソファーに腰掛けた。


「陛下は毎晩転移術で王妃陛下の下に帰っていたんだよ」


 先輩が小声で僕に教えてくれた。

 転移術?

 まだ釈然としない僕に先輩は補足した。


「お前、陛下がフリーデン王国一の魔術師って知らないのか?転移術は陛下の十八番だぞ」

「転移術が使えるのに何でわざわざこんな面倒な…」


 再び先輩に口を塞がれた。


「王妃陛下が体裁だけでもちゃんと整えろと仰られたからだよ!その代わり毎晩帰ってきてもいいと約束されたんだ」


 小声で怒られ、先輩の手が離れた。


「それでも納得できません。だって昨夜陛下はエリィって…」


 三度口を塞がれた。

 それまで黙って聞いていた陛下はおもむろに立ち上がり、室内が氷点下になるような空気を纏い僕の肩に手を置いた。

 肩がミシミシと嫌な音を立てた。滅茶苦茶痛い!!


「エリィをエリィと呼んでいいのは俺だけだ」


 地を這うような声に僕の体は硬直した。


「訳すと王妃陛下を愛称で呼んでいいのは陛下だけだということだ…」


 先輩が僕の口から手を離し僕にも分かるように解説してくれた。

 自分がとんでもない勘違いをしていたことと陛下に失礼な発言をしてしまったことを今になって気付きその場にひれ伏した。


「申し訳ありませんでした!!!!!」


 陛下は先ほどまでの恐ろしい空気を引っ込めると僕の肩に今度は優しく手を置いた。


「俺に意見するなんてお前なかなか見所があるな。これからもフリーデン王国の為に精進しろよ」


 顔を上げると微笑む陛下に頬が赤くなった。

 しかし次の瞬間一気に青ざめる事になった。


「ただしお前は一生エリィの専属護衛にはなれないからな」


 陛下はそのまま視察へと向かった。



 こうして僕の夢は敢え無く砕け散った。

 ってそんな簡単に諦められるかーーーーー!!


「こうなったら王妃陛下に直接直談判だ!!!!!」


 それを聞いた先輩がギョッとなった。


「絶対に止めろ!そんなことしたら俺達は生きて帰れなくなるからな!!!!!」


 先輩近衛兵の受難はまだまだ続きそうだ。





これで完結となります。

お付き合い頂きありがとうございました。

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