表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第二章 奇想の魔術師
70/81

試練は永遠に


最終話です。

残酷な描写がありますのでご注意下さい。


 ガレフロナ帝国の侵略を防衛し大勝利を収めてから四ヶ月が経とうとしていた。


 ガレフロナ帝国との条約は廃嫡した代表者ウィルビンとの話し合いで纏まりつつあった。

 一度ガレフロナ帝国の皇帝がゼオンの警告を無視して暴挙に走ろうとしていたことがあったが、その直後何故か電撃退位して今は大人しく震え上がっているらしい。

 ゼオンを問い詰めると「話し合いをしに行ったら直ぐに分かってくれたよ」と満面の笑みを向けられた。

 果たして話し合いだけで済んでいたのかどうかはゼオンと前皇帝にしかわからないところだが…。

 「フリーデン王国には魔王がいる」という風の噂を聞く限り、さぞ想像を絶するような()()()()が行われたのだろう。



 ガレフロナ帝国が保持していたアテリア草は全てフリーデン王国に引き渡される事になった。

 アテリア草は全て燃やしてしまうべきだとの意見もあったが元々循環系統に作用する薬として研究されており、薬師達からもしかしたら画期的な薬が作れるかもしれないと懇願され、期待を込めて王の管理下の下で研究を再開することになった。

 毒薬変じて薬となるといったところか。

 そしてその研究の管理者にサマナが指名された。

 承諾したサマナは現在、持ち出し禁止の制約のかかった研究所で新たな薬を作成するため研究漬けの日々を送っている。



 復興の方は想像以上に進んでいた。

 大国に善戦した民達は魔法の凄さを実感し、練習も兼ねて魔法を駆使して壊された建物などを直していたからだ。

 魔法がそこら中で使われていることもあり、全土は再び魔力で満たされ精霊の加護が安定して発動しているとゼオンが教えてくれた。

 初代フリーデン王も混沌の世界で喜んでくれているだろう。

 今度お墓にお供え物でも持って行ってあげよう。



 腕輪はエドワードに返しつつメディーナにお礼を言うため会いに行った。

 ゼオンは忙しくて一緒に行けないと言っていたが呪いのアイテムを私に渡した事を許せないようだった。

 メディーナに腕輪の真相を伝えるも素っ気ない返事が返ってきた。

 もしかして本当に私を寿命切れで殺すつもりだったのかと疑わずにはいられない。



 継母の処罰はまだ決まっていない。

 ガレフロナ帝国の犯した罪を明らかにしてから継母の罪状を決めるという事になった。

 フィリスはゼオンに魔力封じの魔法を体にかけられた事で魔法は使えなくはなったが所構わず魅了(チャーム)の術をかけることもなくなった。

 今はガレフロナ帝国の本当の父親が引き取りそちらで生活している。

 没落貴族ということもあり、今までのような生活は送れないだろう。



 継母が隠れ蓑に使った子爵の娘は実際に娘を殺害したガレフロナ帝国の兵からの証言で埋められた場所を特定し遺体が発見された。

 遺体は長年土の中で眠っていたこともあり特定は困難であったが、身に付けていた装飾品などから子爵の娘と断定された。

 子爵に娘を引き渡した時に子爵はガレフロナ帝国の証言者に泣きながら殴りかかっていたそうだが証言者は甘んじて受け入れていたそうだ。



 父は密偵を匿ったとし、宰相職を辞任。

 本来なら父は奪爵になるところだが、今までの功績と私が王妃になるという事、ルイゼルの公爵家とピッツバーグ公爵の協力により子爵へと降爵になった。

 平民落ちも有り得る中での異例の処置であった。

 恐らくというか絶対ゼオンが脅し…関与しているだろうと確信した。



 私はというと事後処理に追われながらもお礼をしようと王宮を訪れていた。

 半泣きで鼓舞されてくれた騎士達を労おうと手作りのお菓子を持って訓練場に足を運んだのだが、何故か皆青い顔で首を振って労いを拒否してきた。

 視線が私の後ろに注がれていたため振り返ると黒いオーラを纏ったゼオンが薄ら笑いを浮かべて立っていた。


「エリィの言葉に感動して雄叫びを上げていただけなのに()()()()()()()()()()で労って貰えるなんて…お前達は幸せだな…」

「ゼオン!ちょうど良かった。ゼオンには特別なお菓子を用意したんだ」


 私は可愛くラッピングした箱をお菓子の入った籠から取り出しゼオンに渡した。

 中身はハート型のチョコクッキーである。

 この世界にはバレンタインなるイベントはないため気持ちだけでも渡したかった。

 箱を受け取ったゼオンの顔がニヤけた。


「私の愛がたっぷり詰まったお菓子だからちゃんと食べてよ」


 ゼオンの耳元で囁くと上機嫌になったゼオンは騎士達に優しく微笑んだ。

 微笑まれた騎士達が固まったのは言うまでもない。


「お前達。エリィに感謝して有難く頂くんだぞ。早く食べたいから一緒に執務室に行こう」


 ゼオンは私をエスコートすると執務室へと直行した。

 執務室ではチョコよりも甘い時間を過ごすことになったのだった。



 そして今日、私は結婚します。

 戦争の事後処理やゼオンの即位式と忙しくなるため結婚式は延期するとの話も出ていたのだが…ゼオンが頑として譲らなかった。

 そしてゼオンが提案したのが異例中の異例、即位式と結婚式を同時に行うという案だった。

 それが嫌なら即位式を遅らせろと暴言まで吐いたそうだ。

 ガレフロナ帝国の前皇帝を大人しくさせたゼオンに誰が反対できるであろうか…。

 そんなゼオンを止められるのはゼオンストッパーである私だけということで早く身を固めてもらおうとお偉い様方々が考えているということは父からこっそり聞いた。

 私へのプレッシャーが半端ないのですが…。


 王都はゼオンの王太子就任式の時より盛り上がっていた。

 各国の要人達も前回より多く、ガレフロナ帝国を退けた魔王…もといフリーデン王国国王になるゼオンと仲良くなりたいとの思惑が見え見えであった。


 ウェディングドレスに身を包み式典を待っていると扉がノックされた。

 入室を許可すると入ってきたのはガレフロナ帝国代表のエカチェリーナであった。

 現皇帝が挨拶も兼ねて参加するとの話が出ていたがゼオンがエカチェリーナを指名したのだ。

 エカチェリーナはルイゼルとの結婚が決まっており、今後は私の支えになる人物だからだと言っていたが…真相はまた私に言い寄る輩が来られても困るとのことだった。


異母兄様(おにいさま)からお手紙を預かってきました」


 渡された手紙は廃嫡されたウィルビンからだった。

 ウィルビンはフリーデン王国との交渉の時以外は投獄されているらしい。


異母兄様(おにいさま)は私を可愛がってくれていたからこれくらいのお願いは聞いてあげたいと思って」


 母親のいないエカチェリーナにとって皇太子であったウィルビンが可愛がってくれたことは救いだったのだろう。

 手紙を受け取るとエカチェリーナはカーテシーをした。


「エリアーナ王妃様。私は生涯あなた様の為に尽くすことを誓います。異母兄様(おにいさま)を助けて頂きありがとうございました」


 エカチェリーナは優しく微笑むと退室した。

 手紙を開けると牢獄で書いたとは思えない程堂々とした文字が綴られていた。

 ウィルビンらしいと笑みが浮かんだ。

 手紙には現在の状況と私に感謝しているとの旨が綴られていた。

 そして最後の方に『廃嫡されたがいつか必ず皇帝に昇り詰めたいと思っている。その時はフリーデン王国と友好的な関係を築くためにエリィの娘を私の息子の嫁に欲しい』…これは…ゼオンが怒りそうな案件だ。

 すると読んでいた手紙が突然燃え出し、私の白い手袋の上には黒い灰だけが残った。

 しかしその灰も燃やした張本人の風魔法によって跡形もなく吹き飛ばされた。

 塵も残さないを身をもって体験した。


「ああエリィ。とても綺麗だよ」


 手紙を燃やした事はスルーですか。

 私の後ろに恍惚とした表情を浮かべた花婿が立っていた。


「エリィが支度できたと聞いていてもたってもいられず迎えにきたけど、正解だったようだね」


 正解は手紙を燃やした事でしょうか。事ですよね。


「では式場までエスコートさせて頂きます花嫁様」


 差し伸べてきた手をとると手に口付けされた。


「生涯あなただけを愛する事を誓います」

「ゼオン…まだ早くない?」


 一瞬うっとりと見つめるも直ぐに冷静になった。


「いいんだよ。何回誓ったって」


 ゼオンは私のこめかみにキスをした。


「今日はエリィが主役だけど俺が()()()傍にいるから安心して」


 堂々としたストーカー宣言をされてしまった。

 しかも主役は戴冠式を控えたあなたですよね。

 実は当初、戴冠式の後に結婚式の予定だったのだがゼオンが順序を逆にしたのだ。

 その理由は戴冠式に王妃として私を隣に立たせたかったということらしい。

 婚約者では隣に立てないからね。

 度重なる暴君っぷりにさすがの私もゼオンを注意するとこれが最後だからと土下座された。

 土下座を教えなければよかったとこの時ばかりは後悔した。



 二日に渡り行われた結婚式と戴冠式はつつがなく終了した。


 全ての式典が終わり、私の指には結婚指輪が頭にはクラウンが乗せられていた。

 最後にバルコニーから民へ顔見世をするためだ。

 民が受け入れてくれるかどうか不安で足が竦んだ。

 もし反対されたら…。


「大丈夫だよ、エリィ。俺が付いているから」


 国王になったゼオンが優しい手付きで私の手を引いた。

 一歩バルコニーに出ると太陽の眩しい光が目を眩ませた。

 目が光になれて見下ろした先は…沢山の紙吹雪と歓喜の声が上がっていた。

 その中には私を祝福してくれる声も含まれていて、涙が頬を伝った。


 継母が密偵で父は子爵落ち。

 そんな私を受け入れてくれるか不安で仕方なかったが温かく迎えてくれた民達にようやく自分がこの国の王妃になったのだと自覚した。

 ゼオンが私の涙を唇で拭った。


「ちょっと!皆の前だから!!」


 真っ赤な顔で注意をするもゼオンは何処吹く風。

 民達からも揶揄する声が上がった。

 恥ずかしくて頬を押さえる私にゼオンは艶っぽい顔を近付けた。


「今夜のご褒美が楽しみだ」


 耳元で囁かれた言葉に震え上がったのはいうまでもない。

 ご褒美の件、忘れていなかったのね…。


 この後に待ち受ける夜の試練?に耐えられるか…今から心配だ。





読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ