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悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第一章 ひよっこ魔術師
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ゼオン・ルーレン・フリーデン(ゼオン視点)


前回の続きのため若干残酷な描写がありますのでご注意ください。



 父の亡骸の前で泣き疲れて佇んでいるとガチャガチャと金属がぶつかる音がした。

 視線だけ向けると十数人の騎士がこちらに向かってきていた。


 目的地に到着した騎士たちは無残な現場を目の当たりにして顔をしかめた。


 俺は父を母が自爆した場所に埋めようと動き出すと騎士の一人が近づいてきた。


「君はこの家の住人かな?何があったか聞かせてもらえないだろうか」


 騎士を無視して父を移動させようと動かすと、父の亡骸を見た騎士は驚きの声を上げた。


「王太子殿下!」


 騎士の声に他の騎士たちも集まってきた。


「君!何があったんだ!?知っていることは全て話してもらうぞ!」


 穏やかだった騎士が俺の両肩を掴んで威圧してきた。

 俺は騎士の手を振り払い睨みつけた。


「何がって見てわからないのか!お前らが来るのが遅いから父さんも母さんもあの魔物に殺されたんだ!!」


 八つ当たりだった。


 父さんが魔物にやられたとき立ち尽くさず攻撃していれば、母さんの自爆を止められていたら。

 何も出来なかった自分に憤りを感じた。


「やめないか」


 肩を掴んでいた若い騎士の上司と思われる騎士が若い騎士を窘めた。

 若い騎士を下がらせると俺の前に膝をついた。


「君はこの方のご子息かな?」


 俺は頷いた。


「そうか…辛かったな。来るのが遅くなって悪かった」


 騎士は俺の頭を撫でた。

 この人なら信用できるかも。

 俺は父の最後の言葉を伝えた。

 騎士は部下の騎士に確認してくるよう目で指示を出した。


「君のお父さんはこの国の王太子なんだ。だからお父さんの亡骸は王都に輸送しなければいけないが構わないか?」

「嫌だ!父さんは母さんの傍に埋めたい。お願い。父さんと母さんを引き離さないで…」


 父の亡骸にしがみつき必死に懇願した。


「君のお母さんはどこだい?」


 俺は母が自爆して焼け焦げている地面に視線を移した。


「母さんは魔法で自爆したんだ。だから…」


 騎士が俺の視線の先を追って「そうか…」と呟いた。


 半壊した家から懐中時計と手紙を持ってきた部下が騎士に手渡した。

 騎士は懐中時計を確認したあと手紙を開き黙読した。


 手紙を読み終えた騎士は俺に跪いた。


「ゼオン殿下の仰せのままに」




 父を埋葬したあと俺は陛下に謁見して欲しいと頼まれ、騎士団とともに王宮を訪れていた。


 上司と思っていた騎士は第四騎士団の騎士団長で陛下の指示のもと極秘裏に父の安否を探っていたらしい。

 最近になって王都周辺で国境近くに神々しい人物がいるという噂を聞き、確認のため国境付近を捜索していたそうだ。

 村人ではない人間が混ざっていると思っていたが、まさか王都にまで父の噂が広がっていたとは。


 王宮の一室に案内され待機していると、金髪に白髪交じりの顎ヒゲを生やした中年の威厳ある男性と薄浅葱色の髪に淡い紫の瞳をした30代前半から20代後半と思われる男性が入ってきた。


「お前がゼオンか」


 中年の男性は表情を和らげながら近づいてきた。

 その顔が何処と無く父に似ていた。


「はい。あなたは王様ですか」

「そうだ。この国の王でお前の祖父だ」


 王はソファーに座るよう促した。

 向かい合って座り祖父と名乗る王を窺い見た。

 突然現れた祖父だが、父と似た雰囲気を醸し出すその人を祖父と認識するまでにさほど時間はかからなかった。


「お前にはこれからこの王宮で過ごしてもらいたい」

「俺は家に帰りたいです」


 謁見したら家に帰れると思っていた俺は陛下の思いがけない言葉に異を唱えた。


 陛下は後ろに控えていた薄浅葱色の髪の男性と顔を見合わせた。

 男性が小さく頷くのを確認し陛下は俺の方に向き直った。


「お前にとって辛い話になるが…お前の両親は殺されたといって間違いないだろう」


 俺はうつむき両手を握りしめた。


「家に帰ればお前の命も危ないかもしれない。私はもう家族を失いたくないんだ…」


 陛下の沈痛な面持ちに少しだけ力が抜けた。

 俺は12年父と過ごしてきたが、この人は父に会うことも叶わなかった。

 辛いのは自分だけではない。


「誰なんですか」


 顔を上げ真っ直ぐに陛下を見た。


 12年の間、あのような魔物と山で遭遇したことがない。

 放たれたものだとすると狙いは父だろう。


「疑わしい者は何人かいる。お前が望むなら王宮で私の代わりに調べてみないか」


 俺はあの惨劇を起こした犯人を絶対許さない。

 二人の仇をとれるなら。


「わかりました。俺が犯人を見つけてみせます」

「決まったな。ならばお前に王位継承権を与えてやろう」

「そんなものいりません」

「そういうな。権威があれば多くの情報を得たり、入ることができない場所にも足を踏み入れられる。それに…」


 陛下は一呼吸置いて続けた。


「私以外の者であれば捕らえることも可能になる」


 自分の手で犯人を…。

 自分の両掌に視線を落とした。


「だからといってなりふり構わず捕らえるのは駄目だぞ。私が許可を出した者に限りだ」


 それで十分だ。


「あと、飾りだけの王位継承者にはなるなよ。王位継承権を得たなら政務も手伝ってもらうからな」


 ん?そっちの方が狙いなのか?


「では今日からお前はゼオン・ルーレン・フリーデンだ」


 なんか巧い事乗せられた気がするのは気のせいだろうか。



 


読んで頂きありがとうございます。

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