婚約破棄の危機?
残酷な描写があります。
ご注意下さい。
雌の龍が元の状態に戻ったところで腕輪を外した。
「これで君の魔力は戻ったはずだ。では世界を元に戻すよ」
腕輪をポケットにしまうと初代フリーデン王は宙に浮いていたガラス片を吸い寄せた。
「あなたはどうするのですか?」
世界が元に戻ったら今ここにいる初代フリーデン王の行方が気になった。
「私は精霊の加護を発動した時に肉体を無くした。わかりやすく言うとフリーデン王国の神になったと思ってくれればいい」
この人、自分の事を神とか言っちゃったよ。
初代フリーデン王は吸い集めたガラス片を両掌で凝縮させていった。
「私の心配は無用だ。君達は君達の世界を守りなさい」
戻ったらお供え物でも用意してあげよう。
掌の中に納まるくらいガラス片が凝縮されると目が眩むほどの眩しい光を放ち、そして…。
特大のヒールライトが王都を包んだ。
戻ったの?
地上に視線を移すと状況が確認できた。
何人かの兵士は倒れており、黒いフードの魔術師はゼオンの闇魔法で捕らえられていた。
ここまで黒いフードの魔術師の転移術で逃れてきた皇太子は兵士達に見つからないよう屋根伝いに逃げようとしていた。
私はすかさず蔦を出し捕縛しようとするも剣で防がれた。
皇太子は蔦を防ぎながら屋根から飛び降りた。
飛び降りた先は細い路地となっており、上空からの探索は困難でありやむなく路地の入口に降り立った。
「そこまでよ!」
逃げる皇太子を蔦で追撃すると捕らえた感覚はないのに「クソッ」皇太子の悔しがる声が聞こえて来た。
これは私の経験上、誰かが皇太子を捕らえたとみた。
蔦を緩めると冷やかな目で見下すゼオンの闇魔法で動けなくなっている皇太子がいた。
「転移術が使えないお前を捕らえるくらい訳無いんだよ」
やだ。ゾクゾクしちゃう。
皇太子に対し侮蔑した態度のゼオンにときめいてしまった。
これだけは言っておきたい。決して変態ではない。
「エリィ!無事か!?」
私に視線を移したゼオンの表情は優しいものに変わっていた。
もう少し見ていたかったな。
思わず虚空を見つめてしまった。
捕縛した皇太子を連れて広場に戻った。
狂戦士にされた兵士達も目を覚まし救援作業や捕らえた者達の見張りなど慌ただしく動き回っていた。
「さて…」
ゼオンは黒いフードの者を見下ろした。
「エリィ。少し席を外してくれるか」
黒いフードの者から視線を外さずに後ろに立つ私に声をかけた。
「どうして?」
「エリィが辛い思いをするかもしれないから」
そんな理由で私が納得するとでも。
私は居座る気満々でゼオンの隣に立った。
ゼオンは小さくため息を吐くと黒いフードを外した。
「お…継母様…?」
黒いフードの下に隠れていた素顔は間違いなく継母であった。
「…あんたさえいなければ…」
継母は俯きながらブツブツと呟いていた。
「継母様が密偵?どうして?いつから?」
継母は混乱する私を見上げ睨んだ。
「お前なんか死んでしまえ!!!!!」
継母から無数の棘が放出され勢いよく私目がけて飛んできた。
花のバリアが発動するも数が多く徐々にバリアは壊されていき、一本だけ防げず威力そのままに飛んできた。
ゼオンが助けようと手を伸ばすも近距離にいたため間に合わなかった。
貫かれる!
棘が私に迫った瞬間、地面が大きく揺れてバランスを崩しその場に倒れた。
バランスを崩した事で棘は私の横を掠め壁に突き刺さった。
崩れ落ちる壁が棘の威力を物語っていた。
「キャーーーーーーーーーー!!」
継母の悲鳴が聞こえ振り返ると継母は顔を押さえながらもがいていた。
その顔からは蒸気が噴き出していた。
『アハハ。顔も心とお揃いにしてあげたよ』
『凄く似合っているよ』
『他の奴等もやっちゃおうよ!』
無数の無邪気な声が聞こえて来た。
「何が起きたの??」
「もしかして精霊の加護が発動したのか?」
私を立ち上がらせようとしていたゼオンが呟いた。
「各地で魔法を使った事でこの国は今、魔力に満ちている。消えていた加護が甦ったとしてもおかしくない」
立ち上がり継母を窺うと顔の半分が焼けただれていた。
『よーし。次はこっちの悪い奴だ!』
「ダメダメダメ!!」
精霊の声が聞こえてきたので必死で止めた。
『えーーーー?どうして止めるの?こいつら悪い奴でしょ?』
精霊怖い!!
「ここはもう大丈夫だから、まだ各地で戦っている敵を追い出してくれないか?」
ゼオンには精霊の姿が見えているのか上を見回しながら話かけていた。
『わかったよ!』
精霊達は元気よく返事した。
やけに素直だ。
「凄く素直なんだね…」
私が不思議そうに呟くと精霊の一人が答えてくれた。
『だって精霊王の子供のエリアーナとゼオンに逆らったら、僕達がお仕置きされちゃうもん』
精霊王の子供って…!?
ポカンと口を開けた状態でゼオンを見上げるとゼオンも同じ心境のようだった。
「精霊王の子供ですって…!だから魅了の術が効かなかったの…!?」
継母は顔を押さえながら忌々しそうに言葉を発した。
「殿下。調査の報告書が届きました」
「お父様!?」
突然現れた父だったが、継母を見ても驚いた様子はなかった。
ゼオンは父から報告書を受け取ると目を通した。
「あなたの父と思われた子爵の魅了の術は解け、子爵の娘は…殺されたことが判明した」
ゼオンは淡々と報告書を読み上げた。
「ウォルター侯爵があなたと強制結婚させられた時は侯爵があなたと子爵を調査したが、あなたの経歴に問題はなく子爵の娘で間違いないと判断された。かなり巧妙に入れ替われた事からもガレフロナ帝国が協力したのだろう」
ゼオンは父に報告書を返した。
「巨大魔物に魅了の改変した術をかけてエリィにけしかけたのも、警護が厳しい侯爵邸で、しかも使用人がいる中でエリィを誘拐したのも全てお前の仕業だろう。決定的だったのは皇太子の手紙をエリィの机に置いたことだ。俺はこの時点でガレフロナ帝国の密偵はエリィの近くにいると判断した」
継母は悔しそうに歯ぎしりをした。
「お前の目的はエリィを殺すことだった。違うか?」
「私の目的は…フリーデン王国を乗っ取ることよ」
観念した継母は俯きながら答えた。
「こいつを狙ったのはその手段の一つに過ぎない…グッ」
継母が苦悶の表情を浮かべた。
「呼び方には気を付けろ」
継母を縛っていた闇魔法が体を締め付けた。
出た!魔王ゼオン!
ギリギリとコルセットのように締め付けていった。
いや!コルセット以上に締め付けてる!
「ゼオン!死んじゃうから!」
咄嗟にゼオンの袖を掴み止めに入るとゼオンは闇魔法の力を緩めた。
「それで?どうやって乗っ取るつもりだったんだ?」
話をしようとするも肺を圧迫された影響か話す事が困難そうだった。
ヒールライトをかけようと一歩前に出ようとすると皇太子が代わりに話し始めた。
「この女はネルドから逃げる時にガレフロナ帝国の捕虜になったんだ。魅了の術を使って逃げ出そうとしたところを当時皇太子だった現皇帝陛下に見つかり密偵の話を持ち掛けたんだ。一緒に捕虜になった妹を人質にして」
継母は爪を立てて自分の足に食い込ませていた。
「皇帝陛下は魔法に強いフリーデン王国を以前から狙っていた。我が国は魔法が使える者が少ないからな。密偵としてこの国に入ったこいつはウォルター侯爵に目をつけた」
ゼオンの袖を掴む私の手が小刻みに震えた。
ゼオンは安心させるように私の手の上に手を重ねた。
「酔いつぶれて部屋に運ぶまでは計画通りだった…」
息を整えた継母が再び口を開いた。
「あとは魅了の術をかけ、操るだけだったのに…」
「かからなかったのか。エリィの母親が光の精霊王ならずっと傍にいた侯爵に光の加護がかかっていた可能性は高い」
「絶対にしくじれなかった。だから愚策だけど一晩過ごす事で責任を取らせる方法を取ることにした」
ジト目で父を見つめた。
父は物凄い勢いで首を横に振った。
「何もなかったわよ。妻を亡くした悲しみからか疲労からかはわからないけど…無理だったのよ」
私と父のやり取りを見ていた継母は補足した。
父は胸を撫で下ろしていた。
もしかして少し心当たりがあったとか!?サイテー!
ゼオンは父の気持ちが分かるのか頷いていた。
ちょっと!?
袖を引っ張るとゼオンは誤解だと手を力一杯振った。
「俺が頷いたのはエリィ以外はってところに同意しただけだから!」
これは今度検証してみる必要があるかもしれない。
もし裏切ったら…婚約破棄してやる!!!!!
読んで頂きありがとうございます。




