表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は魔術師になりたい  作者: 神楽 棗
第二章 奇想の魔術師
66/81

切り札

 エドワードと別れた後、私は一人で王宮行きの魔法陣で転移した。

 王宮に戻るとけたたましい音がそこら中で鳴り響いていた。

 箒を呼び寄せゼオンの下に飛ぶと巨大魔物を抑え込むゼオンの姿を見つけた。

 巨大魔物をヒールライトで元の姿に戻しつつゼオンの傍に着地した。


「メディーナの話を聞く限りでは何とかなりそう」


 刻一刻と事態が悪化しているため最低限の報告をした。


「わかった。俺が民に伝えるからエリィは補佐を頼む」

「私がやる」


 鼓舞の仕方なら戦国系の漫画を参考にするから多分大丈夫!…と信じたい。

 それにゼオンに呪いの腕輪を使わせたくなかった。


「エリィに憎まれ役はさせられない。それに…侯爵令嬢では民は動いてくれないかも…」

「なら聖女としてなら?」

「それは…」

「私が言い出した事なんだし自分でやりたい。それに…」


 箒の柄で床を叩き自信に満ち溢れた顔で豪語した。


「こういう役は悪役令嬢である私に任せなさい!」


 その場にいた全員が首を捻った。

 『悪役令嬢って何?』って顔で見ないで頂けますか。


「とにかく!私がやるって言ったらやるの!」


 悪役令嬢というよりは我儘令嬢になってしまった。

 恥ずかしさからムキーっと地団太を踏むとゼオンが微笑みながら私の頭を撫でた。


「エリィは可愛いな」


 子供扱いですか?

 回りの騎士達は『あの殿下が愛でてる!?』と唖然としていた。


「エリィがそこまで言うなら任せるよ」


 ゼオンは私の髪に口付けた。


「絶対に皆をやる気にさせるから、ゼオンは信じて待ってて」


 箒に跨るとリンゴの木へと向かった。



 リンゴの木は以前と変わらず静かに佇んでいた。

 メディーナから預かった腕輪に目を落とした。

 これを使えば自分の寿命は縮まる。

 ゼオンに話をしていたらきっと猛反対されただろう。

 だけど…民を犠牲にしようとしている自分がリスクを負わずに済まそうなんて虫のいい話だ!


 腕輪に魔力を注入すると噛み合っていた接合部の龍が離れ、私の手首を噛んだ。

 ひーーーーー!キモ!!

 噛まれた箇所から感じたことのない程の魔力が溢れ出した。

 これならイケるかも!


 目を閉じてリンゴの木に魔力を注入すると魔力が大地を通っていくのを感じた。

 所々に小さな青い炎のようなものが点在しており、恐らくこれが魔力で植えた植物だろう。

 魔力の中継地点を通るとそこからさらに魔力を伸ばすことが出来た。

 フリーデン王国全土に私の魔力が満たされた所で念じてみた。


『私はフリーデン王国王太子の婚約者で…聖女のエリアーナです』


 自分で聖女とか言うのは流石に恥ずかしいな…。

 所々で不気味がる声が聞こえてきた。

 どうやら成功したようだ。


『魔力を使って皆の心に直接話しかけています。今、この国はガレフロナ帝国の襲撃を受け脅威にさらされています。しかし攻撃されている範囲が広く戦力が足りていない状況です』


 不安の声があちらこちらで上がった。


『戦える者は力を貸してください』


 言い終わると同時に怒号が飛び交った。


『冗談じゃない!どうして私達が国の為に戦わなければならないんだ!』

『俺達を囮にしようって魂胆だろ』

『国の奴らが考えていることなんて所詮自分たちの保身だけだろ』


 そうくるよね。

 私は至って冷静に静かに民に語り掛けた。


『皆さんには大切な家族がいますか?自分たちの財産はありますか?考えて下さい。もしガレフロナ帝国の支配下になったら家族は奴隷同然の扱いを受け、財産は全て没収されます。今の生活よりさらに苦しい生活が待っているのは間違いありません』


 文句を言っていた人達が押し黙った。


『国の為に戦って欲しいのではありません。皆さんの大切なモノの為に守りたいモノの為にそれらを奪われない為に戦っては頂けませんか』

『戦うったって相手は武器や装備をしっかり整えた奴等だろ…』

『この国が他の国に比べて精霊の数が多い事はご存じですか?精霊は魔力を好みます。つまりこの国の人間は魔法を使える者が多いということです』

『でも最近魔法を使い始めたばかりだから威力は弱いぞ』


 お芝居の影響で魔法初心者は多そうだ。


『魔法の良いところは同時に放ったり、他の魔法と上手く組み合わせることができれば威力が増すというところです。さらに遠距離から飛ばせるため敵から身を隠しながら攻撃を仕掛けることも可能です』


 複数の声が揺れているようだった。

 少しだけ希望の光が見えてきたか?


『ガレフロナ帝国の連中はフリーデン王国くらい簡単に落とせると考えています。このまま黙って一方的にやられるだけでいいのですか?今こそ私達の力を見せつけてやろうじゃないですか!』


 何人かが乗せられて声を上げるとそれに釣られてどんどん声が大きくなっていき大地が震え思わず木から手を離した。

 頭は静かになったが、耳はまだうるさい。

 その原因は王都で戦っている騎士達も何故か鼓舞されてしまったからだ。

 何となくゼオンが脅して無理やり叫ばせている気がするのだが…気のせいであって欲しい。



 ゼオンの所に戻ると騎士達が叫びながら巨大魔物に立ち向かっていた。


「エリィは凄いね。見てよ。皆こんなにやる気になってる」


 いや半泣き状態なんですけど。

 絶対脅したよね?

 訝しそうな表情を浮かべるもゼオンは満面の笑みを崩さなかった。

 多分この半泣きの騎士達が声を上げてくれたお陰で民達も乗せられてくれたのかもしれないから全てが片付いたら騎士達を労ってあげよう。


「とりあえず騎士と魔術師を各所に一人ずつ転移させられないかな?いくら民がやる気を出しても指示を出す人間は必要だと思うから」

「そうだな。ここには俺もエリィもいるからなんとかなると思う。直ぐに準備しよう。ところでエリィ…」


 腕を掴まれた。


「この腕輪はどうしたの?」


 私の腕に噛みついていた龍は元の状態に戻っていた。


「メディーナが貸してくれたの」


 ゼオンは腕輪と私を交互に見た。

 何か気付いた…とか?

 背中に嫌な汗が流れた。


「この腕輪…嫌な魔力を感じる」


 そりゃあ呪いのアイテムですから。


「それより早く騎士達を送って!」


 これ以上追求されたらヤバいと判断しゼオンを急かした。

 ゼオンはまだ腕輪を気にしていたが優先順位を考えて転移の準備に取り掛かった。



 ほぼ転移が終了したと同時に王都を襲っていた巨大魔物をヒールライトで人間に戻し終えた。

 次々に送り込まれる巨大魔物との終わりの見えない戦いに焦りを感じ始めた。

 ヤバい…魔力がそろそろ底を突きそう。

 額の汗を拭った。


「やはりエリィをこちらに付かせられなかったのは痛いな。だがそろそろ限界だろう」


 屋根の上で高みの見物をしていた皇太子が不敵に笑った。

 まだ切り札があるというの?

 もう大分アテリア草使っているはずなのに…。


「おい。お前の出番だぞ」


 皇太子は後ろに控えていた黒いフードの者に顎で指示した。

 黒いフードの者は地上に降り立つとアテリア草の粉を飲み足元に魔法陣を描いた。

 自我の魔物でもヒールライトさえ使えれば元に戻せる。

 こいつが最後ならここは何とかなりそう。

 しかし期待は無残にも打ち砕かれた。

 黒いフードから現れたのは無数の蝶だった。

 その光景は幻想的で見ている者を魅了していった。

 そして蝶が鱗粉をまき散らすとフリーデン王国の兵士達が狂戦士へと姿を変えた。


「粉を吸うな!」


 ゼオンは動きを止めるため闇魔法を使いながら叫んだ。

 しかし蝶の数が多い上にあちらこちらに飛び回るため防ぎきることは出来ず、どんどん狂戦士が増えていった。

 私は腕輪に目を落とした。

 上空から特大のヒールライトを使えば全ての蝶と狂戦士にされた兵士を元に戻せるかもしれない。

 今の私の魔力では不可能だけどこれを使えば。


「王都全て包むくらいの闇魔法をかけられそう?」


 私の問いにゼオンは私の魔力不足を危惧した。


「一度くらいなら…でもエリィはもう…」


 ゼオンの唇に人差し指を当てて言葉を遮った。


「私は大丈夫。今、ここで頑張らないでいつ頑張るの」


 安心させようと微笑むもゼオンは私の腕を掴んだ。

 握られた腕からゼオンの不安が伝わってきた。


「これが終わったら新婚旅行に行くんでしょ!行先はフリーデン王国一周よ!」


 笑顔を見せるとゼオンの手の力が緩まった。

 私はそのまま箒に跨り空へと飛んだ。


 蝶が後ろから追ってきていたが一定の高度を超えたところで追いかけてこなくなった。

 地上ではかなりの広範囲に蝶は散らばり兵士のほとんどが狂戦士へと姿を変えられていた。


 腕輪に残った魔力を注入し先程と同様に龍に噛みつかれると空っぽになった魔力が溢れ出てきた。

 これ死ぬかもしれないな…。

 でも!死ぬならこいつだけは絶対倒す!


「これでもくらえ!」


 ヒールライトを放つとほぼ同時にゼオンが闇魔法を放った。

 二つの魔法が混ざり合った瞬間。


 世界は真っ白に染まったのだった。





読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ